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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第57回   直感を信じろって?
「アストリット・フォン・シーレンベック、今ここでお前に婚約の破棄を言い渡す!」
「…………………………」
 ええっとぅ。
「そして今この場で、この私、ハインリヒ・フォン・フォルバッハは宣言する! ここにいるグートルーン・フォン・リヒテンベルクを妻とすることを!」
「…………あ、あ〜、そう、ここからなのね」
 そっかぁ、ここがセーブポイントなんだ。オートセーブ機能付きって、すごいわ、あたしの命。


「姉上、このような状況になった以上、習わしに従っていただかなければなりません」
 帰りの馬車の中で、ヴィンが言った。
「ああ、復讐ね。わかってるわよ、殺すまではいかず、でも、相手を徹底的に辱める、でしょ?」
「え? え、ええ。まあ……。とりあえず、姉上にはある程度、身を護る術(すべ)を身につけていただきたいのです。向こうも、ただ黙って復讐を受け入れるなんてことはしませんでしょうし」
 あたしは、ジト目でヴィンを見た。
「どうかなさいましたか、姉上? 僕の顔に何かついてる、とか?」
「べっつにぃ〜」
「そ、そうですか」
 この子も、シーレンベック家への復讐心を抱いてるのよねえ。ま、あたしにとっては、シーレンベック家がどうなろうと知ったこっちゃないけど。
 でも、人は見た目によらないわよねえ。なんか、幻滅だなあ。こんなにいい子っぽいのに。
 こりゃ、ダマされるわ。
「ど、どうかなさいましたか、姉上? 僕の顔に何か……?」
 困惑しきった笑顔のヴィンに、あたしは答えた。
「べぇっつにぃ〜」

 帰ってきて、とりあえず、あたしはベッドに座り込む。明日はシルフ……アメリアとのバトルか。
 あたしはベッドと壁の隙間を確認する。フリントロックがあった。
 前は、どこかに行っちゃったのよねえ。
「よし、別の場所に隠しとこ」
 フリントロックを取り出し、適当な場所を探して……。
「ここにしよ」
 あたしは鏡台と壁の隙間に突っ込んだ。
「よし、ここに注意する人なんていな……」
 そう思った時、ドアがノックされた。
『お嬢さま、よろしいでしょうか、シェエラザードです』
「いいわよ」
 入室の許可を出すと、ドアが開き、一礼してシェラが入ってきた。
「お嬢さま、お話はヴィンフリート様から伺っております。明日は、アメリアとの訓練ですね」
「ああ、うん、そうね、決闘だわね」
 ああ、汗が止まらない、これ、きっと脂汗(あぶらあせ)。なんでかっていうと。

 拳銃、落ちてるーーーーーーー!

 やばいやばいやばいやばいやばい!!
 あたしが部屋にフリントロックを持ち込んでるの、誰にも知られちゃダメなんだってばーーーーーーー! 特にアメリアと同じ、メイド仲間にはーーーーーーーー!!

「お嬢さま? 決闘ではなくて、武芸の訓練なのですが?」
 シェラが不思議そうな顔をする。
「あ、ああ、そうだったわ、ごめんなさい!」
 あたしは、すり足の横歩きで部屋の中央に行き、シェラの視界から鏡台を外す。
 かわらず不思議そうな表情のシェラだったけど、ふと、真剣な表情で、あたしに言った。
「お嬢さま、お嬢さまには、信じてほしいものがございます」
「信じてほしいもの? なに?」
 あたしは、気持ちを切りかえて聞いた。
「お嬢さまには、ご自分の感覚を、直感を信じていただきたいのです」
「はあ? どういうこと?」
 意味不明。いきなり、何を言いだしたの、この人?
 少し置いて、不意にシェラはどこか蠱惑(こわく)的な笑みを浮かべて言った。
「あなたにとって、最善の行動は何?」
「………………え?」
「失礼いたします」
 明るい笑顔になって一礼すると、シェラは部屋をで行った。
 あたしは硬直していた。
「なに、今の? なんか、見覚えがあるような……」
 あたしは頭を振った。今のシチュエーション、どこかで見たような気がするけど、思い出せない。
「あー、もー、ストレス溜まるぅー!!」
 こういうのって、精神衛生によくないわぁ!
 その時だった。
「……あれ? なんか、おかしくない?」
 シェラのことはわからないけど、今、頭を使ったせいか、ちぐはぐなことを思い出した。
「パトリツィアは、言ったわよね、ヴィンはあたしを妻にするつもりだって。でも、ヴィンって、女の子じゃん。結婚、無理じゃん。あたしと子ども作るなんて、ぜったい無理じゃん!」
 あたしの直感を信じるなら、ヴィンフリートは女の子だ。
 ということは……。


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