その朝、ドゥンケル伯エルマーの邸宅に、物々しい一団がやって来た。それはマイスナー公レオポルトと、彼が率いる一個小隊ほどの騎士と兵たち。 「い、一体、何事でしょうか、マイスナー公?」 応接室でレオポルトと、何故か同行してきている彼の娘で次女のアンゲリカ、二人が座ったソファの横で待機している護衛の騎士二人を前に、エルマーは困惑していた。 先日、選帝侯制度が改められ、選帝侯はマイスナー家、ただ一つとなった。選帝侯たちの会議によって王が決められ、教皇から戴冠されて王になるという制度を持ったこの国にとって、事実上、マイスナー家は教皇と同じ権限を持つことを意味する。これは、見方によれば教皇庁と事を構えることが出来るという意味でもある。まさに恐ろしいことであった。 レオポルトは、屋敷のメイドが持ってきた紅茶には目もくれず、両腕を組んで言った。 「貴公の領内にある大聖堂を、我がマイスナー家の占有とする」 「はあ!? なんですと!?」 ムチャクチャもいいところだ。 「な、何の権利があってッ!!」 目を剥いてテーブルを叩く。大聖堂はこのドゥンケル領の中心であり、象徴だ。さらに言えば、大聖堂は教皇庁の支配下に入る。エルマーの自由には出来ない。 レオポルトが一枚の紙を出す。 「王の勅書である」 エルマーはその紙をじっくりと見る。確かにレオポルトの言うことを聞け、といった内容のことが書いてあり、王のサインがあった。 そして、レオポルトはアンゲリカから渡された箱を開ける。 「そして、これが教皇の金印勅書である」 箱の中にある文書には、教皇だけに許された黄金製の印章がつけられていた。そしてその文書には、ドゥンケル領の大聖堂と、それに付随する聖職者たちの権利をレオポルト・フォン・マイスナーに委譲する、とあった。 「………………ッ!?」 あまりの衝撃に言葉が出ない。 「問題ないな?」 そう言い捨てて、レオポルトたちは去って行った。 エルマーの頭の中がどうにか回り始めたのは、レオポルトたちが出て行って、しばらくの時間が必要だった。頭を振り、大きく息を吐き、執事長の名を叫ぶ。 駆けつけた初老の執事長が「どうかなさいましたか、旦那様?」と、聞いてきた。全く平時の、それこそ「紅茶の要求をされたのだろう」と思っているかのような表情だったのが、気に触ったが、それを押さえてエルマーは言った。 「出かける! 馬車の用意をせよ! それから、マイヤー騎爵を呼べ!」 「フォン・マイヤーを? 一体、何事でしょうか?」 「大聖堂へ向かう! フォン・マイスナーが何をするつもりか、確認しなければならん!」
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