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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第49回   もしかして、大ヒント?
 あたしはクレメンスに護衛は間に合っていることを説明した。
「ね? ここには騎士が一杯いるから、あたしの護衛は大丈夫なの、気持ちはうれしいけど」
 クレメンスは、なんだか泣きそうな顔で「そこをなんとか〜」なんて言ってる。要するに路銀がないのが問題なわけだから。
「ねえ、ヴィン、お屋敷で何かお手伝いとか、ないかな?」
「そう言われましても、人手は足りていますし。街の職業(しょくぎょう)斡旋(あっせん)所(じょ)へ行ってくれとしか」
 ヴィンも困った顔になる。
「やっぱり、そうよね」
 と、あたしはクレメンスを見る。
「でも、俺、武芸以外、何にも出来ないんですよ〜」
 あー、あるある、そういうの。一つのスキルを極めた人とか、何か突出した技能を持ってる人って、他のこと、なんにも出来なかったりするのよねえ。
 何か思い出したようにヴィンが言った。
「じゃあ、そういう仕事を斡旋するところへ、僕が案内しますよ。周辺の町や村の中には、自警組織のないところもありますので」
 クレメンスの顔が、パァッと明るくなる。
「助かります〜!」
 そして、ヴィンは出かける支度で部屋に戻った。
「お嬢さま」
「? なに、クレメンス?」
「今日、お嬢さまを殺そうとしてた女なんですけど」
「うん」
「どぉ〜も見覚えがあるんですわ〜。人違いかも知れないけど」
「…………ええ〜ッ!? マジで!?」
 あたしが大声になったんで、ドアを開けてガブリエラが飛び込んできた。
「どうかなさいましたか、お嬢さま!?」
 すでに剣を抜いてた。
「あ、ごめん、驚かせちゃって。えとね、クレメンスが、ウンディーネのこと、見覚えがあるんだって!」
「なに!? それは本当か!?」
 剣を抜いた状態でガブリエラが迫ったんで、裏返った声を上げてクレメンスがのけぞった。
「ああ、すまん……」
 ガブリエラが、バツが悪そうに剣を下げる。
「で? どこで見たの?」
 あたしが聞くと、クレメンスが記憶を手繰るように天井を見て言った。
「ここの東に、ノルデンっていう街がありますよね」
 ガブリエラが頷いた。
「ああ、当領地の庇護下にある街だ。林を抜けたところにあるな」
「そこの『荒鷲(あらわし)亭(てい)』っていう酒場の踊り子に、似てる気がするんですよねえ」
「間違いないか?」
 いつの間にか、ガブリエラの口調は、詰問(きつもん)するようなものになっていた。いやあ、犯罪者の取り調べじゃないんだからさ、もうちょっとソフトにいこうよ。
「クレメンス、間違いないのね?」
「多分。俺、あの街には四日ほどいて、毎晩、あの酒場でメシ食ってたから。綺麗だったから、よく覚えてるんだ。で、そこから南に下って、あちこちの街やら行ってるうちに、路銀が心(こころ)許(もと)なくなって。闘技場で稼ごうにも、腹が減って勝負にならなくて……。で、ふらふらと旅を続けて、街道から外れたところで、野生の動物を狩ったりして……。でも、いつもうまくいくわけじゃなくて……」
「うん、話、それてきてるね」
 あたしがそう言ったとき、応接室にヴィンが入ってきた。なので、あたしは今の話を展開する。ヴィンも、クレメンスに確認した。
 応接室にあるアンティークっぽい柱時計を見て、ヴィンは言った。
「今から馬車で行けば、夕餉(ゆうげ)までに帰ってこられますね。……うん、手の空いた騎士を連れて、その酒場へ行ってみましょう。うまくすれば、ウンディーネの“ねぐら”がわかるかも。すみません、クレメンス、職業斡旋所は、明日でもいいですか? あなたには、道案内で同行していただきたいので。もちろん、今夜はお屋敷に逗留してください。父上には、僕から話します」
「いいですよ。ていうか、助かります〜」
 クレメンスは笑顔で頷いた。
 ヴィンは一人の騎士を連れ、クレメンスを同行させて出発した。





 そしてその夜、ヴィンは帰ってこなかった……。


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