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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第46回   水路通りでの襲撃・U
 あたしは警戒を解かずに、わざと笑みを浮かべてやって言った。
「あら、もしかして、あたしのこと待ってた? それともこの近くで見かけたから、追いかけてきた? まさか、お屋敷からずっと尾(つ)けてた、なんてこと、言わないわよね? もしそうなら、言っておくわ。あたし、女の子より、殿方の方が好きなの」
 ハンナが腰の短剣を抜く。ガブリエラも剣を構え直した。
 よし、こちらの体勢を整えるだけの時間は稼げたわ!
 ウンディーネがあたしの言葉に、鼻から息を漏らして笑った。
「安心して、私も男の方が好きだから。でも、あなたのことは気にかけているの。本当よ。だって、あなたは私の恋のライバルだもの」
 くあ〜、まだ言うか、こいつ。いい加減、「婚約の横から割り込んだ令嬢」キャラは捨てろっつーの!
「じゃあ、あなたの命、いただくわね」
 そう言って、飛び降りた。飛び降りてくるその軌跡を予想していたのだろう、ガブリエラが気合いとともに着地点に向かって斬りかかる。重力に引かれて落下する以上、いくら脚力が優れているからといって、どうにかできるものでもな……。
「甘いわ」
 そう言ってウンディーネが身をひねって建物の壁を蹴る。そして宙でまた身をひねり、建物の壁を蹴って、あたしたちよりも離れた位置に着地した。とっさにそっちを見たけど、その時にはウンディーネはダッシュして、あたしに斬りかかって来ていた。
 金属音がして、ハンナがそれを弾く。あたしはバックステップでその場から離れた。気合いとともに、ガブリエラがウンディーネに斬りかかる。しかし、ウンディーネは軽やかなステップで、ガブリエラの剣を避ける。ガブリエラの剣は、けっして大ぶりの的外れじゃない。ウンディーネが有り得ない速さで、ステップを踏んで剣を避けているのだ。
 ニヤリとして、ウンディーネが二段三段のステップを踏んでガブリエラの間合いから外れたと思ったら、一気に高く跳躍して、こっちに向かってきた!
 ハンナが上を見て、短剣を構える。そしてあたし目がけてウンディーネが短剣を振り下ろすタイミングを見計らって、自分の短剣を突き出したけど。
「フッ」と鼻で嗤ってウンディーネは宙で前転すると、ハンナが突き出した短剣の、その切っ先に右足で着地?した。
「…………うそ……」
 思わず呟いたあたしの顔は、おそらくスッゴいアホ面(づら)になってたと思う。
「てやっ!」
 そんな気合いをかけて、ウンディーネは左足でハンナの頭を蹴ってまたジャンプすると、あたしを飛び越して身をひねり、数メートル先に着地した。そして、そのままダッシュしてあたしに斬りかかってくる。
 まずい! ウンディーネの短剣はスロー再生で見えな……。
「え、と?」
 なんだろう、急に動きがスローになったぞ、おい? まさかウンディーネが気を利かせてゆっくりになった訳はないわよね。だって、地面を蹴った、その滞空時間、長いもの。
 あたしは、余裕でウンディーネをかわす。着地した時点で、一倍速再生。
「なにッ!?」
 ウンディーネがこちらを見て、ギョッとなった。いやね、あたしも内心はギョッとなってるんだわ、これが。
 でも、余裕の笑みを浮かべてやる。
 ウンディーネだけじゃない、ハンナも、ガブリエラも、あっけにとられてる。他人からは、あたしの動きはどう見えていたんだろう?
 文字通り、殺人鬼の形相で、ウンディーネがこっちにダッシュしてくる。
 あ、今度もスローだけど、さっきよりちょっと速い。あたしはバックステップを踏んで、距離を稼いでから、身をかわした。
「また!? どうなってるの!?」
 狼狽しているウンディーネに、ガブリエラが斬りかかる。その剣を受け流しながら、ウンディーネはこちらを伺う。よし、形勢逆転だわ! ウンディーネはガブリエラの剣を防ぐので、手一杯になってる。
 そこへ、ハンナが回り込んで斬りかかった。
 ステップを踏んで、それをかわすウンディーネだけど、ガブリエラも身をひねってその先へ剣を振るう。
 苦々しげに舌打ちをして、ウンディーネは身を屈めて、剣をかわす。そこへ、姿勢を低くしてハンナが短剣を振るう。それをよけてステップを踏み、石畳に左手をついてそれを支点にする。……なんか、ウンディーネの左腕が、かなりおかしな感じでひねられて、血管が破裂して血が噴き出してるけど、大丈夫か、敵ながら? しかし、それを意に介さないように、そのまま背後にあった建物の壁を蹴る。そして器用に宙で身をひねってまた壁を蹴り、上方への角度をつけてジャンプすると、その先にあった壁を蹴ってあたしに向かってきた。
 またスローで……。
 見えない!? ヤバい! あたしはとっさに石畳に転がる。起き上がると、ウンディーネが向かってくる。さっきと違ってスローで見えない! ……ううん、一応かわせるけど、スロー再生っていうほどじゃない! ハンナがフォローに入るけど、ウンディーネがステップで翻弄してくる。
 うう、鍔(つば)迫(ぜ)り合(あ)いとかだったら、こっちに有利になるのはわかったけど、刃と刃が接してない状態だと、ウンディーネの有利になるのだわ!
 あたしたちは、ウンディーネの動きに翻弄されていた。とりあえずハンナもガブリエラも、お互いの背で挟み込んで、あたしの盾になる体勢をとってるけど、思わぬ位置から、猛スピードで斬りかかってくるから、二人とも、その刃を弾くので精一杯。あたしの目でも、スロー再生ほどじゃないんで目で追いかけるのが難しくなってる。
 あー、もー、どうにかあの脚を封じることが出来ないかなあ!?
「あ」
 あちこちを見ていて、ふと閃いた。
「ねえ、ハンナ! あの水路って、深さは、どれくらい!?」
 ハンナはウンディーネの剣を弾きながら、答えた。
「大体、十五エル(約六メートル)ぐらいです!」
 六メートルか……。
「よし!」
 あたしはガブリエラに言った。
「ねえ、ガブリエラ、短剣、持ってる?」
 ウンディーネの短剣を弾きながら、ガブリエラは答えた。
「はい!」
「どこに?」
「左の腰部装甲(タセット)の内側ですが!?」
「借りるわね!」
 ガブリエラの、革鎧の左の腰……その内側に手を当てると、短剣の鞘があった。あたしはそこから剣を抜く。そして、ウンディーネの動きをどうにか目で追い、タイミングを計って、ハンナとガブリエラのガードから抜けた。
「あ、お嬢さま!?」
 今の声はどっちかな?
 あたしは短剣で服を裂きながら、ダッシュし、そのまま水路に飛び込んだ。


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