20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第45回   水路通りでの襲撃・T
「ねえ、ハンナ、昨日はああいう打ち合わせやったけど、本当に大丈夫?」
 あたしはハンナとガブリエラを連れて、街の、とある通りを歩いていた。昨日のミーティングでいろいろ詰めた結果、街の通りで、比較的、人出があり、なおかつ飛び道具を警戒できるところ。つまり。
 領内に設けられた水路のうち、もっとも水路幅の広い通りを歩いていた。それも水路の反対側の建物に沿うようにして。これなら一人が建物をチェックすれば、襲撃者がわかるし、飛び道具もチェックできる。仮に水路を利用しようとしても、こちらから丸見え。もちろん、ヴィンの発案。あの子、頭いいわ。でも、当のヴィンは、今日は剣のお稽古で、ここにはいない。
 ハンナが笑顔で言った。
「大丈夫ですよ。ヴィンフリート様も仰(おっしゃ)っていたように、事実上、水路からの襲撃は不可能です。建物側だけを警戒していれば」
「いや、そうじゃなくてね」
「?」
「相手……ウンディーネやサラマンダーも、同じことを考えて、警戒するんじゃないか、ってこと」
 あたしの疑問には、ガブリエラが答えた。
「もちろん、そうなるでしょう。ですが、このような通りだけを通るようにしていれば、相手も何者かから依頼された身、襲撃せざるを得なくなります」
「そう、うまくいくかなあ?」
 あたしがそう言いながら水路を見たときだった。
「……ン? 今、何か光ったような……」
 そう思った瞬間、風を切る音がして、なにかが飛んできた。
「わわ!」
 あたしは、飛んできた「それ」をかわした。
 ハンナが「どうかなさいましたか、お嬢さま?」と、首を傾げたけど、ガブリエラはとっさにあたしをかばった。あたしの背後の壁に、なにかがぶつかって、突き刺さった。
「お嬢さま、今のは!?」
 ガブリエラがあたしの盾になりながら、周囲に目を走らせる。あたしは刺さっている「それ」を抜いた。結構、深く刺さってたんで、ちょっと力が必要だったけど。一見するとクロスボウの矢だけど、かなり短くて、しかも半分のところから切ってあって、先端は矢羽根の付いた針になってる。こんなもの、ちゃんと撃てるのかな?
「これだけど」
 あたしは矢をガブリエラとハンナに見せる。
「かなり特殊な矢ですね。どこから来たんだろう?」
「えっと、水路の向こう側から」
 ガブリエラとハンナが同時に「え?」と怪訝な表情をする。答えたのはハンナだ。
「この水路の幅はおよそ七十五エル(約三十メートル)。クロスボウならギリギリの有効射程です。つまり、向こう側から撃って、お嬢さまに命中させられるかどうか、というところ。だというのに、このような改造をした矢でお嬢さまのすぐ近くに矢を放ち、なおかつ煉瓦の壁に突き刺すなど、有り得ません」
「そうなんだ……」
 そんな会話をしてると、また矢が飛んでくるのが見えた。
「うわ! あぶな!!」
 ガブリエラを突き飛ばし、あたし自身もバックステップを踏んだ。あたしの背後にいたハンナを巻き込んで背後に跳ぶと、あたしがいた辺りの壁にまた矢が突き刺さった。
 ガブリエラが剣を構え、不思議そうに言った。
「……お嬢さま、よく見えましたね、矢の飛んでくるのが。私には風を切る音しか聞こえませんでした……」
「え? そうなの? あたしには見え……、って、言ってる傍から!」
 また矢が飛んできた。それをかわすと、壁に当たって、矢が刺さる。大体、どの辺りから矢を撃ってきてるかわかるけど、向こうは移動してるし、物の影に隠れるんで、何者か、ハッキリと見えない。
 あたしたちは駆け出した。しかし!
「また来た!」
 あたしは急制動をかけて止まる。同時に、あたしをかばうような位置にいたハンナを、引っ張る。ハンナのいた位置に、例の矢が飛んできて、壁に刺さる。
「有り難うございます、お嬢さま」
 ハンナが言ったあとを、ガブリエラが続けた。
「クロスボウを連射するなど、まず考えられません! 矢をセットしておいた複数のクロスボウを、用意しているのかも!?」
 ピンときて、あたしは言った。
「じゃあ、矢をつがえて用意しているクロスボウを使い切ったら、次に仕掛けてくるまで、隙が出来る!?」
「ええ! ですが!」
 また矢が見えたんで、あたしはガブリエラとハンナを引っ張って逃げる。体勢を整えて、ガブリエラが言った。
「もしサラマンダーが複数人いたら!?」
「……ああ、そうか、矢を撃つのを、ローテしてたら……!」
 あたしがそう言った時、ハンナが言った。
「路地に入(はい)れます!」
 さっきまでは建物と建物の間が狭くて、逃げ込むことが出来なかったけど、今度は普通の道になってる。あたしたちは、その道に入る。これで、サラマンダーの攻撃が少しは難しくなるはず。ガブリエラもハンナもそう思ったようで、しばらく走って立ち止まり、一息ついて息を吐く。
 ガブリエラが剣を構えつつ言った。
「とにかく、この場はやり過ごすのが得策です。向こう側へ行くには、もう少し先の橋を使わないと」
「橋があるの?」
 ハンナも頷く。
「ええ。この水路には、何本か橋が架かってるんですが、このもう少し先に……」
 と、ハンナが斜め上を指さして、その動きが止まる。なんだろうと、あたし、そしてガブリエラが見ると。
「あら? 見つかっちゃったわ」
 そこには、建物の三階の窓枠に腰掛け、イタズラっぽく笑ったウンディーネがいた。


 ……もはやストーカーだな、こいつら……。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 192