その日の昼、あたしは自分の部屋に、ヴィン、ハンナ、ガブリエラの三人を呼んで、ウンディーネ対策のミーティングを開いていた。 なんか、懐かしいな、この感覚。あたし、学校の部活はダンス部で、こういう感じでミーティングしてたんだ。 ガブリエラが言った。 「率直に言って、ウンディーネの脅威はあの『脚』です。それさえ封じれば」 ヴィンがガブリエラに向いた。 「しなやかな紐を足下に張った場所に誘導しては?」 うーん、それいいかも。そう思ってたらハンナが、 「それは無理っぽいですね」 と言った。あたしが「なんで?」って聞くと。 「この間のことから考えると、ウンディーネは人目を避けて行動するといった考えは持っていません。となれば、街のすべての場所で、ウンディーネが襲撃してくると考えた方がいいですね。となると、そんな罠を仕掛けた場所へ誘導するのは、ほとんど不可能かと」 「ああ、確かにそうね」 と、あたしは納得した。バザールで人がごった返す中で、いきなり襲いかかってくるんだもん、どこか特定のエリアであたしを囮(おとり)にして、どこかに誘導、なんてちょっと無理かも? ガブリエラが頷いて言う。 「それに、あの時にウンディーネが逃げるきっかけとなった爆煙。私は意識が朦朧(もうろう)としていたので断言いたしませんが、複数の音がしたように思いました。ウンディーネは、いくつもの爆薬を所持していたということでしょうか?」 「ああ、あれね」 あたしは、ため息まじりに言った。 「あたしが見る限り、あれ、ウンディーネは何にもしてないわ。誰かが何かを投げ込んだように思えたな」 ハンナが難しい顔をする。 「となると、ウンディーネに手を貸す何者かが、いる、ということ」 ガブリエラがあたしを見る。 「サラマンダーでしょうか?」 ヴィンが腕を組む。 「それはどうだろう? シルフことアメリアの自供によれば、彼女たちはお互いのことは顔さえ知らないそうだから、ウンディーネを助けるというのはどうかな? もっとも、僕はその場を見てなくて、話を聞く限りだから、状況がよくわからないんだけど」 少しの間を置いて、ハンナが言った。 「サラマンダーもお嬢さまを狙っているんですよね? お嬢さまを尾行していて、バザールの一件を見て、ウンディーネとは知らずとも同じようにお嬢さまを狙う者を見て、手を貸した、とか?」 ガブリエラが首を横に振った。 「それなら、あの場での共闘を考えるはず。黙って見ているだけで、ピンチになったら助けて引き上げるというのは、ちょっと考えづらい」 なんか、結論が出そうにない。 ふと。 ハンナが言った。 「シルフ……アメリアがウソを言ってるとしたら?」 「え?」 と、あたし……だけじゃなく、ヴィンやガブリエラの視線もハンナに集まる、 「ウンディーネもサラマンダーもお互いのことを知っていて、あの場で共闘する予定だった。ところが、謎の騎士が現れて、予定が狂ってしまった。そこで、引き上げた」 ガブリエラが気づいたように言った。 「でも、それはつまり、サラマンダーはたいした戦闘力を持っていない、という前提になるが?」 ハンナが頷く。 「サラマンダーは、徹底的に奇襲型の暗殺者。うまく『外』に引きずり出せれば、簡単に倒せる」 その言葉に、一瞬、あたしの心に希望の光が閃いたけれど、「あること」が思い出された。 「ちょっと待って? あたしを囮にサラマンダーを引きずり出そうとしたら、ウンディーネも出てくるんじゃないの、極論だけど?」 とりあえず、そう言ってみる。ハンナが笑いながら言った。 「大丈夫ですよ、お嬢さま! 私(わたくし)たちが徹底的にガードいたします!」 何言ってんだ、こいつ? あたしは、ガブリエラを見た。 「お嬢さま、私も命にかえまして」 いや、だからね? 最後の頼みの綱、ヴィンを見た。 「姉上、危険に飛び込んでこそ、勝機がつかめるというもの! 確かどこかのことわざで『虎穴に入らずんば虎児を得ず』とか!」 決意の光を、瞳に灯して。 うう〜、言ってやろうかな〜、「サラマンダーの得物はクロスボウとかの、飛び道具なのよう」って。飛び道具だから、あたしをガードするって一口に言っても、簡単じゃないんだって。 でも、サラマンダーが何使うか、知ってたら不自然だし〜。 どうしたものか、と思っている間(ま)に話は進み、明日、街を歩いてサラマンダーやウンディーネを釣り出すって事になった。 落ち着いたところで、あたしは「飛び道具対策もした方がいい」みたいなことを言ったら、ヴィンが「じゃあ僕が考えておきます」と笑顔で言った。
大丈夫……よね?
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