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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第44回   ミーティングをしたけれど
 その日の昼、あたしは自分の部屋に、ヴィン、ハンナ、ガブリエラの三人を呼んで、ウンディーネ対策のミーティングを開いていた。
 なんか、懐かしいな、この感覚。あたし、学校の部活はダンス部で、こういう感じでミーティングしてたんだ。
 ガブリエラが言った。
「率直に言って、ウンディーネの脅威はあの『脚』です。それさえ封じれば」
 ヴィンがガブリエラに向いた。
「しなやかな紐を足下に張った場所に誘導しては?」
 うーん、それいいかも。そう思ってたらハンナが、
「それは無理っぽいですね」
 と言った。あたしが「なんで?」って聞くと。
「この間のことから考えると、ウンディーネは人目を避けて行動するといった考えは持っていません。となれば、街のすべての場所で、ウンディーネが襲撃してくると考えた方がいいですね。となると、そんな罠を仕掛けた場所へ誘導するのは、ほとんど不可能かと」
「ああ、確かにそうね」
 と、あたしは納得した。バザールで人がごった返す中で、いきなり襲いかかってくるんだもん、どこか特定のエリアであたしを囮(おとり)にして、どこかに誘導、なんてちょっと無理かも?
 ガブリエラが頷いて言う。
「それに、あの時にウンディーネが逃げるきっかけとなった爆煙。私は意識が朦朧(もうろう)としていたので断言いたしませんが、複数の音がしたように思いました。ウンディーネは、いくつもの爆薬を所持していたということでしょうか?」
「ああ、あれね」
 あたしは、ため息まじりに言った。
「あたしが見る限り、あれ、ウンディーネは何にもしてないわ。誰かが何かを投げ込んだように思えたな」
 ハンナが難しい顔をする。
「となると、ウンディーネに手を貸す何者かが、いる、ということ」
 ガブリエラがあたしを見る。
「サラマンダーでしょうか?」
 ヴィンが腕を組む。
「それはどうだろう? シルフことアメリアの自供によれば、彼女たちはお互いのことは顔さえ知らないそうだから、ウンディーネを助けるというのはどうかな? もっとも、僕はその場を見てなくて、話を聞く限りだから、状況がよくわからないんだけど」
 少しの間を置いて、ハンナが言った。
「サラマンダーもお嬢さまを狙っているんですよね? お嬢さまを尾行していて、バザールの一件を見て、ウンディーネとは知らずとも同じようにお嬢さまを狙う者を見て、手を貸した、とか?」
 ガブリエラが首を横に振った。
「それなら、あの場での共闘を考えるはず。黙って見ているだけで、ピンチになったら助けて引き上げるというのは、ちょっと考えづらい」
 なんか、結論が出そうにない。
 ふと。
 ハンナが言った。
「シルフ……アメリアがウソを言ってるとしたら?」
「え?」
 と、あたし……だけじゃなく、ヴィンやガブリエラの視線もハンナに集まる、
「ウンディーネもサラマンダーもお互いのことを知っていて、あの場で共闘する予定だった。ところが、謎の騎士が現れて、予定が狂ってしまった。そこで、引き上げた」
 ガブリエラが気づいたように言った。
「でも、それはつまり、サラマンダーはたいした戦闘力を持っていない、という前提になるが?」
 ハンナが頷く。
「サラマンダーは、徹底的に奇襲型の暗殺者。うまく『外』に引きずり出せれば、簡単に倒せる」
 その言葉に、一瞬、あたしの心に希望の光が閃いたけれど、「あること」が思い出された。
「ちょっと待って? あたしを囮にサラマンダーを引きずり出そうとしたら、ウンディーネも出てくるんじゃないの、極論だけど?」
 とりあえず、そう言ってみる。ハンナが笑いながら言った。
「大丈夫ですよ、お嬢さま! 私(わたくし)たちが徹底的にガードいたします!」
 何言ってんだ、こいつ? あたしは、ガブリエラを見た。
「お嬢さま、私も命にかえまして」
 いや、だからね? 最後の頼みの綱、ヴィンを見た。
「姉上、危険に飛び込んでこそ、勝機がつかめるというもの! 確かどこかのことわざで『虎穴に入らずんば虎児を得ず』とか!」
 決意の光を、瞳に灯して。
 うう〜、言ってやろうかな〜、「サラマンダーの得物はクロスボウとかの、飛び道具なのよう」って。飛び道具だから、あたしをガードするって一口に言っても、簡単じゃないんだって。
 でも、サラマンダーが何使うか、知ってたら不自然だし〜。
 どうしたものか、と思っている間(ま)に話は進み、明日、街を歩いてサラマンダーやウンディーネを釣り出すって事になった。
 落ち着いたところで、あたしは「飛び道具対策もした方がいい」みたいなことを言ったら、ヴィンが「じゃあ僕が考えておきます」と笑顔で言った。

 大丈夫……よね?


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