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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第39回   ハンナの申し出
 ぐわぁあぁあぁあ〜。
 今日一日はヘルミーナさんの「看護学」だったけど〜。
 あれ、看護ちゃう〜。
 例えば麻酔作用のある薬草を噛ませながらの治療、これはまだわかるけど、その先にあるのが専用器具による血抜き。「病気は血に宿る」って、どこから来た発想なのよぅ。まさか吸血鬼(ヴァンパイア)に「ほう、体の具合が悪いとな? どれ、血を抜けば治るぞ? で、抜いた血は我が輩に寄付するがよろしい」とか言われたんじゃあ?
 外科的処置になるともっと野蛮で、薬草を口の中に入れて猿ぐつわ噛ませて、四〜五人で押さえつけて、大量出血箇所を焼きごてでジュゥ〜。
 これ、絶対殺人行為でしょ?
 挙げ句の果ての最終手段が「神への祈り」。
 もうこっちから教えてやろうかって思ったわよぅ〜、「マウス・トゥ・マウス」とかぁ。
 もはや医療行為とはいえないわね。こういうのって、実は教会とか修道院とか、町の人の仕事らしい。それをなんで貴族の子女がやってるかっていうと〜。
 ぶっちゃけ、教会とか修道院に力を付けさせないためなんだって。ほら、貴族の男子が何らかの紛争に出て怪我をして、教会とかのお世話になっちゃうと、その分、そこに借りが出来ることになるでしょ? もちろん、向こうも何が何でも生かさないとならないから必死だろうけど。
 そういうのを防ぐために、貴族の子女が看護学を学ぶのは、半ば強制になっているらしい。
 いい迷惑だわぁ〜。
 あたしはベッドにうつ伏せに寝転んだ。ぐったり疲れたわ、夕ご飯まで、こうしてようっと。
 って思ってたら!!
 誰かがドアをノックした。そして。
『お嬢さま、ハンナです。今、お時間よろしいでしょうか?』
 よろしくないわ、晩ご飯まで、ちょっと寝かせててくれる?
 ……とは、普通言わないわよねえ。
 立ち上がってあたしは言った。
「なあに、ハンナ?」
『ちょっと、ご相談したいことが。人に聞かれたくない話ですのでお部屋に入れていただければ、と』
 ああ、あたしの部屋のドアの傍には、警護の女性騎士(デイム)がいるもんね、ドア越しじゃ、内緒話なんか出来ないわ。
「ええ、いいわよ」
 入室の許可を出すと、ハンナがドアを開け、締めてから一礼した。そして、三歩ほど進んで、また一礼する。
「昨日(さくじつ)は、ウンディーネを名乗る殺し屋に襲撃されました」
「そうだったわね。ごめんなさい、怪我をさせちゃって」
「いいえ」と、首を横に振ってハンナは言った。
「それが私(わたくし)の任務ですから」
 うう、それ、あたしにとっては結構、重い話なのよねえ、なにげに。
「ところで、ウンディーネは強敵でした」
「うん」
「短剣を操る技術そのものは、おそらく私とガブリエラ・メルダース様の二人がかりであれば、しのげたでしょう。恐るべきはその脚力。移動、そして他者を彼方へ蹴り飛ばす力。まるで叙事詩(サガ)に詠(うた)われるスレイプニィルがいたなら、まさにあの如き者かと。そこで、お願いなのですが」
「うん?」
 まさか、あたしの護衛を降りたい、とか?
「報酬のアップを要求いたします!」
「………………はい?」
 ハンナが両手を拳(こぶし)に握り、胸の高さに上げ、炎のオーラでも背負ってるんじゃないかっていうぐらいの気迫で、フンフンと鼻息も荒く言った。
「騎士であるメルダース様は、ともかく! そもそも私(わたくし)はメイドなのです! メイド、それは身の回りのお世話係! メイド、それは時に、お仕えするご主人様のサンドバッグ!」
「…………あたし、ハンナをサンドバッグにした覚えないけど?」
 殺しはしたけど、あれは正当防衛だから。
「というわけで」
「何が、というわけで、なの?」
「私(わたくし)はここに、お手当ての増額を要求する次第であります!」
「……命にかえても、あたしを護るって……」
 ハンナがニッコリとして答えた。
「ご主人様に尻尾を振らない犬は、おりませんわ?」
「……………………」
「それに、ウンディーネがあそこまで強敵だとは。お嬢さまが仰った、謎の騎士が現れなかったら、死んでいるところでした」
 ……。
 気持ちはわかるわよ、気持ちは?
 でも結局。

 銭(ゼニ)に転ぶんかい、ハンナ!


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