その日の夜。 報告はハンナ、ガブリエラが正式なレポートにまとめるらしいけど、一応、あたしの口からも夕食前に、食堂でお父様、お母様、そしてヴィンに話した。 「アストリット!」 泣きそうな顔と声で、お母様があたしを抱きしめる。 「どこか、怪我してない!? 痛いところか、ない!?」 ……。 お母様には、本当に心配かけたんだなあ。あたしも涙ぐんでる。 「あの、お父様、あの時、あたしを助けてくれた騎士なんですけど……」 「うむ」と、お父様は腕を組む。……あたし、まだ、言いかけだったんだけど? 「それについては問題ない。訳あって素性は明かせないが、味方と思ってくれて構わない」 ヴィンを見ると、笑顔で頷いた。言いかけてお父様に遮られたことは、あとでヴィンに聞こう。 お父様が言った。 「ウンディーネ、そしてサラマンダーに対しての対策は、こちらで考える。だから、アストリットは安心していなさい。さあ、食事だ」 この言葉に、メイドさんたちがお料理の載ったカートを押して来た。
食事が終わると、お父様はヴィンに後で部屋に来るように言って、食堂を出た。 「ねえ、ヴィン、ちょっといい?」 あたしは小声でヴィンに言う。 「なんですか、姉上?」 だから、ヴィンも小声で答えた。お母様がこちらのやりとりに気づいたらしく、あたしを見たけど、あたしが笑顔で一礼したんで、お母様も頷いて(なんか、不安げだった)食堂を出た。 二人きりになったのを確認して、あたしは言った。 「単刀直入に聞くね?」 「はい」 ヴィンが歩きながら笑顔を返してくる。 「あの時、助けてくれたの、ヴィンよね?」 食堂を出て、少しだけ、間が空いた。ヴィンの表情は、驚いているようでも、狼狽しているようでもない。読めないなあ、この子の表情。 不意に、ヴィンは声を立てて笑い始めた。 「……え? なに、今の、笑うとこなの?」 ひとしきり笑って……ていっても、笑い転げるっていうほどでもなかったけど、で、あたしの呟きも聞こえてないっぽいけど……ヴィンは答えた。 「ああ、姉上、すみません、笑ってしまって。もし本当に僕なら、お父様がお隠しになるはずはありませんよ。でも、悪くない話ですね、姉上の危機に、颯爽(さっそう)と駆けつける謎の騎士、その正体は姉の身を案ずる弟!……、それこそ騎士物語(ロマンス)のようだ」 「本当にあなたじゃないの?」 「はい。今日、僕は一日、家庭教師の下(もと)で、デーン語の勉強をしていましたよ、お屋敷で。誰に聞いてもらっても、同じ答えが返ってくるはずです」 「そう……」 「じゃあ、僕は父上に呼ばれていますので」 「あ、うん」 ヴィンはその場を去って行った。 うーん、ヴィンだと思ったんだけどなあ。 つまり、それって。
ヴィンが、実は女の子だっていうことが前提になる話。だって、騎士が女性ぽかったって、誰にも話してないもん。
あたしの中で、あの時見たヴィンの後ろ姿って、女の子になってるのよねえ。
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