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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第35回   謎の騎士
 ウンディーネがジャンプして、あたしに躍りかかってくる。それをガブリエラが剣で弾いた。しかしウンディーネは、着地すると同時に横滑りするような動きで、ガブリエラの左手側に回る。ガブリエラは剣を横に倒し、ウンディーネに突き込んだ!
 バザールに集まっていた人たちが、悲鳴とともに散っていく。
 ガブリエラの剣を、ウンディーネはそこからさらに、横滑りするかのような速さで避け、背後に回り込んだ。そして短剣をガブリエラの左肩に突き刺した! 幸い、ヨロイに阻まれてガブリエラは無傷みたいだ。
 ホッとしたのもつかの間、ウンディーネがその位置からバク宙であたしの頭を飛び越し、背後に立った。とっさに振り向いてバックステップを踏んだけど、それよりも速くウンディーネが迫ってきた! マズい! 短剣を抜いている余裕がない! そう思ったら、あたしの前に、ハンナが来て、腰の後ろに水平に差していた細長い短剣を抜いて、ウンディーネの攻撃を受けた。
 ウンディーネを押し返すと、そのままの勢いでハンナは斬りかかる。それにあわせるかのように、あたしの背後からガブリエラがダッシュし、ウンディーネの右手側に回る。
 ガブリエラが斬り込むと、ウンディーネはそれを短剣で受ける。その隙を突いてハンナが斬り込んだ!
 ……しかし次の瞬間、ウンディーネの姿が消える。
 ガブリエラが鋭い声で「どこだ!?」と言いながら、辺りを見回す。ハンナも険しい顔で見渡した。
 あたしも短剣を手に周囲を見ていたけど。
 風が唸る音がして、誰かが「上!」と叫ぶ。反射的にあたしは上を見る。短剣を構えたウンディーネが、落下してきていた。あたしはバックステップを踏み、後退する。爆撃でも起きたかのような土煙が起きて、ウンディーネが着地した。その土煙を突き抜けて、ウンディーネが迫る! あたしは後退しながら、その刃を短剣で捌くけど、相手はプロ、こっちが弾くつもりで、防御を崩そうと弾かれている感じだ。
 あたしが数歩下がったところで、ハンナが気合いもろとも、左手側から割り込んできた。それを右手に横飛びに飛んで避けると、ウンディーネはそのままあたしの右手側から突っ込んでくる。あたしが短剣を構えると、ガブリエラが気合いとともにウンディーネに斬りかかった。
 それに気づいたウンディーネはまた横飛びによけ、間合いをとった。今、ウンディーネはあたしたちの五、六メートル先にいる。
「チッ、邪魔ねえ……」
 忌忌(いまいま)しそうにそう言うと、ウンディーネの姿が消えた。かと思ったら、いきなりガブリエラの前に現れた! とっさのことで、ガブリエラも応じることが出来ず、ウンディーネに蹴り飛ばされてしまった。かなりの距離、飛ばされ、ガブリエラは露店の一つに背中から衝突し、苦鳴を上げて動けなくなってしまった。
 ハンナが険しい表情でウンディーネに向かうけど、その先にウンディーネは、いない。ハンナがキョロキョロと辺りを見るけど、見当たらない。あたしも周囲を見る。さっきの例もあるから、上を見たけど、落下してくる姿は見えない。と思った時!
 唸る風とともに、ウンディーネがこちらに向かってくるのが見えた、……建物の屋根を。あっと思う間もなくウンディーネは着地し、ハンナを蹴り飛ばす。ハンナも露店の屋台に激突し、苦鳴を上げて動かなくなった。
「さてっ、と」
 と、ウンディーネがあたしを見る。
「アストリットお嬢さま、古来の習わしに則(のっと)って、復讐の先回りをさせていただきますわ」
 仰々しく頭を下げ、ウンディーネが短剣で襲いかかってくる。どうにか捌けてるけど、あたしじゃ限界っぽい。
 うう、アメリア……シルフと違って、スロー再生で見えないよう。
「あっ!?」
 あたしの短剣が、ウンディーネに弾き飛ばされてしまった。
 ウンディーネが凶悪な笑みを浮かべる。短剣を宙に放り投げて受け止めたり、なんて弄(もてあそ)んでる。
 あたしは数歩、後じさってウンディーネに背を向けて逃げ出した。人の多いところへ逃げれば、なんとかなるかも!
 でも、風の唸る音がしてウンディーネがあたしの行く先に現れた。
「うそ!?」
 さっきから、ウンディーネのジャンプ力といい、移動速度といい、人間とは思えない。
 くぐもった笑い声を立てて、ウンディーネが歩み寄ってくる。
「さあ、お遊びはここまで。お嬢さま、お命をいただきますわ」
 そしてウンディーネが、ダッシュしてきた。

 もうダメ!

 あたしは目をきつく閉じ、体を強ばらせた。次の瞬間!

 カキーン!!

 小気味のいい金属音がした。そしてウンディーネは来ない。恐る恐る目を開けると、あたしの前に、一人の騎士がいた。フルフェイスの兜をかぶってるから、人相がわからないけど、軽装ともいえるヨロイを着ててもわかる、そのスリムなボディーラインは女性っぽい。
「貴様、邪魔をするか!?」
 ウンディーネの言葉には応えず、その女性騎士(デイム)は剣を構える。
 ウンディーネが鬼のような表情になって、あたしたちを睨んで言葉を吐き出す。
「邪魔者は、排除するわ……!」
 そうして背を屈(かが)め……。
「ウッ!?」
 膝から崩(くず)れ、ウンディーネは片手を地に着いた。
「しまった、限界が来たか……!」
 震える脚で、ウンディーネは立ち上がろうとするけど、うまくいかず、片膝をついた。そこを狙って女性騎士が斬りかかった!
 やった、ウンディーネに勝った!
 あたしがそう思った時。
 ウンディーネとあたしたちとの間で、小さな爆発がいくつも起こった。火薬臭いから、爆弾でも投げ込まれたのかしら?
 とにかく煙が朦朦(もうもう)と立ちこめてて、何にも見えない。しばらく咳き込んでいると、少しずつだけど、風がながれて煙が吹き消されていった。

 煙が晴れた時、そこには、ウンディーネも、あの騎士もいなかった。


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