ウンディーネがジャンプして、あたしに躍りかかってくる。それをガブリエラが剣で弾いた。しかしウンディーネは、着地すると同時に横滑りするような動きで、ガブリエラの左手側に回る。ガブリエラは剣を横に倒し、ウンディーネに突き込んだ! バザールに集まっていた人たちが、悲鳴とともに散っていく。 ガブリエラの剣を、ウンディーネはそこからさらに、横滑りするかのような速さで避け、背後に回り込んだ。そして短剣をガブリエラの左肩に突き刺した! 幸い、ヨロイに阻まれてガブリエラは無傷みたいだ。 ホッとしたのもつかの間、ウンディーネがその位置からバク宙であたしの頭を飛び越し、背後に立った。とっさに振り向いてバックステップを踏んだけど、それよりも速くウンディーネが迫ってきた! マズい! 短剣を抜いている余裕がない! そう思ったら、あたしの前に、ハンナが来て、腰の後ろに水平に差していた細長い短剣を抜いて、ウンディーネの攻撃を受けた。 ウンディーネを押し返すと、そのままの勢いでハンナは斬りかかる。それにあわせるかのように、あたしの背後からガブリエラがダッシュし、ウンディーネの右手側に回る。 ガブリエラが斬り込むと、ウンディーネはそれを短剣で受ける。その隙を突いてハンナが斬り込んだ! ……しかし次の瞬間、ウンディーネの姿が消える。 ガブリエラが鋭い声で「どこだ!?」と言いながら、辺りを見回す。ハンナも険しい顔で見渡した。 あたしも短剣を手に周囲を見ていたけど。 風が唸る音がして、誰かが「上!」と叫ぶ。反射的にあたしは上を見る。短剣を構えたウンディーネが、落下してきていた。あたしはバックステップを踏み、後退する。爆撃でも起きたかのような土煙が起きて、ウンディーネが着地した。その土煙を突き抜けて、ウンディーネが迫る! あたしは後退しながら、その刃を短剣で捌くけど、相手はプロ、こっちが弾くつもりで、防御を崩そうと弾かれている感じだ。 あたしが数歩下がったところで、ハンナが気合いもろとも、左手側から割り込んできた。それを右手に横飛びに飛んで避けると、ウンディーネはそのままあたしの右手側から突っ込んでくる。あたしが短剣を構えると、ガブリエラが気合いとともにウンディーネに斬りかかった。 それに気づいたウンディーネはまた横飛びによけ、間合いをとった。今、ウンディーネはあたしたちの五、六メートル先にいる。 「チッ、邪魔ねえ……」 忌忌(いまいま)しそうにそう言うと、ウンディーネの姿が消えた。かと思ったら、いきなりガブリエラの前に現れた! とっさのことで、ガブリエラも応じることが出来ず、ウンディーネに蹴り飛ばされてしまった。かなりの距離、飛ばされ、ガブリエラは露店の一つに背中から衝突し、苦鳴を上げて動けなくなってしまった。 ハンナが険しい表情でウンディーネに向かうけど、その先にウンディーネは、いない。ハンナがキョロキョロと辺りを見るけど、見当たらない。あたしも周囲を見る。さっきの例もあるから、上を見たけど、落下してくる姿は見えない。と思った時! 唸る風とともに、ウンディーネがこちらに向かってくるのが見えた、……建物の屋根を。あっと思う間もなくウンディーネは着地し、ハンナを蹴り飛ばす。ハンナも露店の屋台に激突し、苦鳴を上げて動かなくなった。 「さてっ、と」 と、ウンディーネがあたしを見る。 「アストリットお嬢さま、古来の習わしに則(のっと)って、復讐の先回りをさせていただきますわ」 仰々しく頭を下げ、ウンディーネが短剣で襲いかかってくる。どうにか捌けてるけど、あたしじゃ限界っぽい。 うう、アメリア……シルフと違って、スロー再生で見えないよう。 「あっ!?」 あたしの短剣が、ウンディーネに弾き飛ばされてしまった。 ウンディーネが凶悪な笑みを浮かべる。短剣を宙に放り投げて受け止めたり、なんて弄(もてあそ)んでる。 あたしは数歩、後じさってウンディーネに背を向けて逃げ出した。人の多いところへ逃げれば、なんとかなるかも! でも、風の唸る音がしてウンディーネがあたしの行く先に現れた。 「うそ!?」 さっきから、ウンディーネのジャンプ力といい、移動速度といい、人間とは思えない。 くぐもった笑い声を立てて、ウンディーネが歩み寄ってくる。 「さあ、お遊びはここまで。お嬢さま、お命をいただきますわ」 そしてウンディーネが、ダッシュしてきた。
もうダメ!
あたしは目をきつく閉じ、体を強ばらせた。次の瞬間!
カキーン!!
小気味のいい金属音がした。そしてウンディーネは来ない。恐る恐る目を開けると、あたしの前に、一人の騎士がいた。フルフェイスの兜をかぶってるから、人相がわからないけど、軽装ともいえるヨロイを着ててもわかる、そのスリムなボディーラインは女性っぽい。 「貴様、邪魔をするか!?」 ウンディーネの言葉には応えず、その女性騎士(デイム)は剣を構える。 ウンディーネが鬼のような表情になって、あたしたちを睨んで言葉を吐き出す。 「邪魔者は、排除するわ……!」 そうして背を屈(かが)め……。 「ウッ!?」 膝から崩(くず)れ、ウンディーネは片手を地に着いた。 「しまった、限界が来たか……!」 震える脚で、ウンディーネは立ち上がろうとするけど、うまくいかず、片膝をついた。そこを狙って女性騎士が斬りかかった! やった、ウンディーネに勝った! あたしがそう思った時。 ウンディーネとあたしたちとの間で、小さな爆発がいくつも起こった。火薬臭いから、爆弾でも投げ込まれたのかしら? とにかく煙が朦朦(もうもう)と立ちこめてて、何にも見えない。しばらく咳き込んでいると、少しずつだけど、風がながれて煙が吹き消されていった。
煙が晴れた時、そこには、ウンディーネも、あの騎士もいなかった。
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