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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第32回   死・亡・確・定
 ……まあ、なんていうかね。
 想定外のことが起こっちゃったのよ。


 お父様やお母様、ヴィンのお話が終わったらしく、三人が食堂から出てきた。あたしはヴィンに近寄って、聞いた。
「ヴィン、毎日聞くようで悪いんだけど、グートルーンについて、何かわかった?」
 ここはおさえておかないとならない。今の時点で「グートルーン・フォン・リヒテンベルク」なんて人間は存在しない、なんてことがわかっちゃうと、少々マズいことになるからね。だって、そうでしょ? ハンナが、調査している人との繋ぎをやって、その時にグートルーン、つまりウンディーネと出会って取引をして、あたしを高台に誘導するんだから。もし今日「実は『グートルーン・フォン・リヒテンベルク』なんて人間は存在しない」ってことがわかると、高台での決闘がなくなっちゃって、ウンディーネがどう動くか、まったくわからなくなっちゃう。予定も心構えも、大狂いだわ。
 この先の展開を知ってるっていうアドバンテージが、生かせない。
 ヴィンがちょっと難しい顔をした。これは多分、「すみません、まだわかっていません」だわ。ヨシヨシ。
「姉上、実は『グートルーン・フォン・リヒテンベルク』なんて人間は存在しないんです」
「………………………………………………え?」
 今、この弟くんは、なんて言ったのかしらあ?
「昨日、アメリアを尋問する中で偶然に出てきた話題なのですが、そもそも『リヒテンベルク』という貴族が存在しないそうなのです」
「…………………………」
「今日、王都に人をやって、国内の叙爵(じょしゃく)された者のリストを確認することになっています」
「あ、ああ、そう、なんだ。グートルーンなんて貴族の令嬢、なんて、いないんだ……」
 ため息をつき、やや呆れたようにヴィンは言った。
「お恥ずかしながら、所領を持っていない貴族については、その全部を把握できていないんです。姉上もご存じのように、伯爵以下は、一定以上の税金と寄付金を納めれば、叙爵されますし」
「そ、そうよね……」
 あたしは脳から血が下がるのをこらえながら言った。
「でも、なんでアメリアがそんなこと、知ってるの? もしかして、ウソ、ついてるかも」
 わずかな希望。実はアメリアが、大ウソぶっこいてる。この際、「アメリアが嘘ついてる」ってことを確認すると、ヴィンに変な風に思われるっていうことはスルーしてね? でないと、あたし的にまずいから。どうあっても、前の展開通りでないと、まずいのよ!
「アメリアは、殺し屋シルフとして、王国全土を巡っています。殺す標的(ターゲット)の中には、貴族もいるそうで、その関係でリストを手に入れ、さらに実地に歩いて確認しているそうです。それに、アメリアがそんな嘘をつく必要性はないと思います」
「あ、あは、あはははははは、そうよね! ……ゴメン、今の忘れて」
 そして、あたしはなんとなく気になって聞いた。
「ねえ、アメリア、どうなったの?」
 少しだけ、沈痛な色をその顔に浮かべ、ヴィンは言った。
「こちらに有用な情報は、ないようなので、昨夜遅くに、処刑しました」
「…………………え?」
「我が家門に対する無礼ですので、裁量権は領主にあります。彼女の行為は、十分、処刑に値するものですので」
「ああ、そ、そう……………………」
「では、失礼します」
「あ、ああ、うん、ありがとね、ヴィン」
 ヴィンにお礼を言って、あたしは自分の部屋に戻った。
 なんとかベッドまで、倒れないよう、こらえてから、ぶっ倒れた。


 ……で、今に至る、というわけ。
 時計見ると、もう十時過ぎだわ。朝食終えて、ヴィンの話聞いてから、一時間以上経ってる。時間の経つのは早いなあ。
 なんか、頭のキャパ、超えてる話だったわ。特に処刑とか。
 それに。

 前と、なんか展開が変わってきてる。確か、今朝、ヴィンがお父様たちと話をする、なんてことはなかったはずだし、そもそも今の時点で、グートルーンの正体もバレてるし。

 ……そうか、アメリアが生きてたことで、展開が変わったのか。
 参ったなあ、これじゃあ、ウンディーネがどう攻めてくるか、わからないじゃん。わかるのはただ一つ。

 どう攻めてくるか、わからないから、相手の裏のかきようがないってこと。

 はい、詰みました!!

 これは、死亡確定だわ。どうやって殺されるか、よく覚えとこ。でも、相手はプロの殺し屋だから、いつ、どこで、どうやって殺されたか、わからないうちに死ぬ可能性、大なんだけれど。


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