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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第31回   ユミルの眼
「………………………………」
 あの日のこと、夢に見ちゃった。
 結局、あたしが何かしなくても、聡実はメールしただろうし、もしかしたら品田さんの方からメールなり、電話なりをしてきたように思う。
「みんな、心配してるかな? それに、お母さん。もしこっちにいる時間と、あたしが元いた時間がリアルタイムで時間が流れてたら、心配してるだろうなあ、たった二人の家族だもん……」

 ふと。

 涙が流れてるのに気がついた。


 朝食を終えると、ヴィンが言った。
「すみません、父上、母上。ちょっとお話があるのですが」
 お父様が「うむ」と重々しい雰囲気で頷く。お母様も表情をかえずに頷いた。
「……えと。ヴィン、あたしは?」
 笑顔になって、ヴィンが言った。
「申し訳ありません、姉上は席を外していただけますか?」
「なんでよう」
 口をとがらせて抗議すると、お父様が静かに言った。
「アストリット、すまないが、ヴィンフリート個人の話なのだ。席を外してくれ」
 お母様も、すまなさそうな顔で言った。
「言うことを聞いて頂戴?」
「う……。わかりました」
 三人から言われたら、引き下がらざるを得ない。あたしは、一人で食堂を出た。


「さあ、ヴィンフリート。話を聞こう。……といっても、およそ見当はつくが」
 ゴットフリートが言うと、ヴィンフリートも頷く。マクダレーナは、どこか不安げだ。
 ヴィンフリートが話を始めた。

 話を聞き終え、今度はゴットフリートの方から聞いた。
「ヴィンフリート、お前がそのことに気づいたのは、いつだ?」
「帰りの馬車の中です」
 と、ヴィンフリートは答える。
「そうか。私も、その日の夜だ」
「わたくしもですわ」
 マクダレーナも頷く。ただ、やはり不安げであることに変わりない。
「どうやら、間違いないな」というゴットフリートの言葉に、
「はい」と答えて、ヴィンフリートは続けた。
「『イグドラシルの秘法』と『魂寄(たまよせ)の法』が成功していることは間違いありません。ですが、その場合、問題になるのは、その回数です。果たして、何度、巻き戻っているのか、それともただ一度きりなのか」
 この言葉に、マクダレーナが息を呑む。
 ゴットフリートは腕を組む。
「『イグドラシルの秘法』は諸刃(もろは)の剣(つるぎ)だ。この秘法の効力により、アストリットはたとえ殺されても、よみがえる。だが、それには反作用が……」
 夫の言葉にマクダレーナがうつむく。それをチラと見てから、ヴィンフリートは言った。
「昨日の朝の、シルフことアメリアとの戦いにおいて、姉上は優れた剣技を見せたようです。姉上にはそのような技術はないはず。これが、呼び寄せられた魂の持つ技能(スキル)なのか、繰り返したが故にその剣筋を暗記して、先読みしたのか……」
「もう一つある」
 ゴットフリートはヴィンフリートの言葉を遮る。ヴィンフリート、そしてマクダレーナがこちらを注視する。
 一呼吸おき、ゴットフリートは言った。
「『ユミルの眼』だ」
 確信を持って。


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