屋敷に帰って、自分の部屋に通されると、あたしはベッドに倒れ込んだ。 「も〜、なんなの、これ〜? ひょっとして、異世界に転生〜? あたし、死んじゃったのぉ〜? それとも、転移ってヤツ〜?」 あたしは、記憶を探る。あの舞踏会で意識が、はっきりする前、あたしは一体、なにをやってたの? いろいろ考えるけど、どうしても思い出せない。かろうじて、「こっち」に来る前も、夜だったかなあ、っていうのを感じる程度。 「あ、そういえば、コンビニに行ってた気がするな。じゃあ、やっぱり、トラックに、はねられたとか?」 なんか、もう考えるのもめんどくさくなっちゃった。 「もう寝よ。もしかして、ここで眠りについて、目が覚めたら、元の世界に戻ってるかも知れないし」 あたしはいったん身を起こし、寝巻きを探す。でも、なにがどこにあるのか、さっぱりわからない。だから、あたしはドアを開け、言った。 「ねえ、誰かいるー?」 するとすぐに隣の部屋のドアが開き、若いメイドさんがやって来た。 「お呼びでしょうか、お嬢さま?」 「寝巻き、探してるんだけど?」 「かしこまりました。それから、お嬢さま、壁の紐にどこか不具合が出ましたでしょうか?」 「え? なに、それ?」 あたしが首を傾げると、そのメイドさんは怪訝な表情になって言った。 「壁に下がっている紐を引いてくだされば、わたくしどもの部屋の鈴(ベル)が鳴るようになっておりますが……? というか、お嬢さま、いつもそのように……」 「え……ええ、ええ! なんだか、調子が悪かったみたい! あとでチェックしてみるわ!」 うわあ、そういう仕掛けがあるのか。さすが、領主のお屋敷。
メイドさんがクローゼットの下の方から、ピンク色の寝巻きを出すのを横目で見ながら、あたしは壁を見る。確かに壁の上の方にちっちゃいフックのようなものがあって、そこから太めの紐が下がっていた。 なるほど、これを引くとメイドさんの部屋にあるベルが鳴る仕掛けになってるのね? 今度から、これ使わないと。
寝巻きに着替え、あたしはベッドに仰向けに寝転んだ。なんか、脳が興奮して眠れない。一体、なにが起きているんだろう? ふと、机の傍にある部屋の照明を見る。電気じゃなく、火が灯ってる。ロウソクじゃなくて、ガスの吹き出し口っぽいところに火が付いてる。天井を見ると、シャンデリアほどじゃないけど、複数の火が灯ってて、多分、机の傍の照明と同じもの。付け方と、消し方をちゃんと聞いておかないと、火事とかガス中毒とかのもとになりそう。 あたしは、ベッドから起き上がり、壁の紐の所に行こうとして。 「あ、ベッドのとこにも紐がある。さすがお嬢さま、歩かなくてもいいのね」 あたしは紐を引っ張る。ほどなくしてドアがノックされたんで、あたしは入室を許可する。で、この照明の火はお屋敷に敷設されたパイプからの、ある種のガスによるもので(都市ガスみたいで、すごい!!)、壁にあるダイヤルを回すことで、調節できることを教わった。 例によって、メイドさんから、なんで知らないのか、ものすごく不審がられたけど。
照明を消し、あたしはベッドに入って、目を閉じる。すぐに眠りに落ちたようだけど、夢は見なかった。
|
|