20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第29回   影は一体、どこ行った?
 ドアを開け、裏庭に出る。満月の晩のせいか、照明を灯したように明るい。
 辺りを見回しても、あの影は見当たら……。


 あれ? 誰かこっちに向かってやってくる。その人影の正体は。
「パトリツィア!?」
「お嬢さま」
 例の如く、反応は薄い。奉公に上がってるお屋敷の娘が、夜中にこんなところにいたら、普通、もっと驚くよね?
 パトリツィアは、あたしに近づいて一礼する。
「こんな夜中に、どうなさったのですか?」
「あなたこそ」
「私は、なかなか寝付けませんでしたので、夜のお散歩をしていました」
 夜のお散歩かあ……。うわあ、嘘くさぁ。でも、それを指摘するのも、どうかなあ? ここは、流しとこう。
「そう。あたしは、ていうか、誰か、裏庭に出てきた人、いなかった?」
 パトリツィアは首を横に振って「いいえ」と答えてから、逆に聞いてきた。
「裏庭に出てきた人、というのは、ひょっとして何らかの賊でしょうか?」
 あたしは両手を胸の前でヒラヒラさせて答えた。
「あ、う、ううん、違うのよ? あ、あたしもちょっと寝付けなくて、家の中を歩いていたら、誰かが裏庭に出て行ったように見えたから」
 とっさについた嘘(うそ)にパトリツィアがどんな反応を示すか……。
「そうですか」
 やっぱり無表情の無感情。この人、実はロボットなんじゃないの?
「お嬢さま」
「なに?」
「もう、お休みくださいませ。お部屋まで、私がエスコートいたします」
「う、うん。わかったわ」
 部屋まで連れてく、って言われたら、戻るしかないわよね。強硬に拒絶したら不自然だし。それに。ガチャンと、ドアが開いたと思ったら。
「お嬢さま、こちらにおいででしたか」
 もう一人のロボット、イザベラが現れた。なんとなく、そうだと思ったわ。彼女を撒いて結構な時間が経ってるから、多分、L字型のもう一方、正面玄関やあたしたちシーレンベックの人間が使う食堂がある側を回ってきたんだろう。一部屋一部屋、中を確認しながら。それに、その顔には、安堵の色みたいなものがある。声にも、そんな感じのトーンがにじんでた。
 なんか、申し訳ないものを感じた。
 パトリツィアがイザベラを見る。
「ダールベルク様。お嬢さまのエスコートをお願いできますでしょうか?」
「わかった」
 イザベラが頷いた。
 あ。確かにイザベラもロボットっぽいけど、パトリツィアと比べたら、この人の方が幾分、人間らしい、さっきからの様子を見ると。
 ……というより、パトリツィアにまるで人間味がない、って言った方がいいか。
 あたしは、パトリツィアの肩越しに、敷地の北側を見た。
 お堀に、林に、煉瓦作りの塀。あたしがいるところからあの塀まで、二百メートル以上はあるかなあ。で、塀のすぐ外には、多分、本物の森。お屋敷の裏庭側の左右はどうなってるのか、よく知らない。前回は、途中で死んじゃったし。
 とにかく、夜は暗いから、あの影がどこに行ったか、確認するのは難しいだろう。昼間にするべきだわ。
 それに、なんか怖いし。



 ……て、夜じゃなきゃ意味ないじゃん!!


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 154