ドアを開け、裏庭に出る。満月の晩のせいか、照明を灯したように明るい。 辺りを見回しても、あの影は見当たら……。
あれ? 誰かこっちに向かってやってくる。その人影の正体は。 「パトリツィア!?」 「お嬢さま」 例の如く、反応は薄い。奉公に上がってるお屋敷の娘が、夜中にこんなところにいたら、普通、もっと驚くよね? パトリツィアは、あたしに近づいて一礼する。 「こんな夜中に、どうなさったのですか?」 「あなたこそ」 「私は、なかなか寝付けませんでしたので、夜のお散歩をしていました」 夜のお散歩かあ……。うわあ、嘘くさぁ。でも、それを指摘するのも、どうかなあ? ここは、流しとこう。 「そう。あたしは、ていうか、誰か、裏庭に出てきた人、いなかった?」 パトリツィアは首を横に振って「いいえ」と答えてから、逆に聞いてきた。 「裏庭に出てきた人、というのは、ひょっとして何らかの賊でしょうか?」 あたしは両手を胸の前でヒラヒラさせて答えた。 「あ、う、ううん、違うのよ? あ、あたしもちょっと寝付けなくて、家の中を歩いていたら、誰かが裏庭に出て行ったように見えたから」 とっさについた嘘(うそ)にパトリツィアがどんな反応を示すか……。 「そうですか」 やっぱり無表情の無感情。この人、実はロボットなんじゃないの? 「お嬢さま」 「なに?」 「もう、お休みくださいませ。お部屋まで、私がエスコートいたします」 「う、うん。わかったわ」 部屋まで連れてく、って言われたら、戻るしかないわよね。強硬に拒絶したら不自然だし。それに。ガチャンと、ドアが開いたと思ったら。 「お嬢さま、こちらにおいででしたか」 もう一人のロボット、イザベラが現れた。なんとなく、そうだと思ったわ。彼女を撒いて結構な時間が経ってるから、多分、L字型のもう一方、正面玄関やあたしたちシーレンベックの人間が使う食堂がある側を回ってきたんだろう。一部屋一部屋、中を確認しながら。それに、その顔には、安堵の色みたいなものがある。声にも、そんな感じのトーンがにじんでた。 なんか、申し訳ないものを感じた。 パトリツィアがイザベラを見る。 「ダールベルク様。お嬢さまのエスコートをお願いできますでしょうか?」 「わかった」 イザベラが頷いた。 あ。確かにイザベラもロボットっぽいけど、パトリツィアと比べたら、この人の方が幾分、人間らしい、さっきからの様子を見ると。 ……というより、パトリツィアにまるで人間味がない、って言った方がいいか。 あたしは、パトリツィアの肩越しに、敷地の北側を見た。 お堀に、林に、煉瓦作りの塀。あたしがいるところからあの塀まで、二百メートル以上はあるかなあ。で、塀のすぐ外には、多分、本物の森。お屋敷の裏庭側の左右はどうなってるのか、よく知らない。前回は、途中で死んじゃったし。 とにかく、夜は暗いから、あの影がどこに行ったか、確認するのは難しいだろう。昼間にするべきだわ。 それに、なんか怖いし。
……て、夜じゃなきゃ意味ないじゃん!!
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