夕食を終えたあたしは、部屋に戻り次のバトルについて、記憶を元にシミュレーションしてた。 まず、ハンナが散歩しようと誘ってくるから、その前夜に高台の階段と手すりを細工しておく。これを絶対忘れないこと。 徹底的に頭にすり込むようにして、あたしはベッドにもぐり込んだ。
このループが終われば、元の世界に帰れるんだ。
そんなことを願いながら。
「……ッ!?」 今、なんか、大きな音、しなかった!? あたしは起き上がる。部屋の中はまだ暗い。 「時計は……。そうか、ライト機能はないんだ、この世界の時計。それよりは」 あたしはベッドから出た。そしてドアへ向かう。あたしの部屋の前には、警護の女性騎士(デイム)がいるから、もし大きな音が起きてたら、彼女も聞いてるはず。 ……前のことを思い出して、いやな予感はしたけど。 ドアを開けると、横から、すぐに静かな声がした。 「いかがなさいました、お嬢さま?」 廊下には、照度を落とした明かりが灯っていた。ドアのそばに立っている、鎧を着て鎗を持っているボブカットでクセッ毛で、あたしと同じぐらいの背丈の女性騎士(デイム)、イザベラ・ダールベルクがあたしを見る。この人、無表情っていうかなんていうか、考えてることが読めないのよねえ。だから、怒ってるのかどうかもわからない。 「ねえイザベラ、今、大きな音がしなかった?」 「いえ。しませんでした」 だから、ウソを言ってるのかどうかも、表情からじゃわからない。 「そう……。でも、確かにあたし、聞いたわよ?」 「音はしませんでしたよ?」 「……」 いやあ、なんていうかぶっきらぼうっていうか。声からもウソかどうか判断できない。 ていうか、やっぱり、この返答か。 「そうなんだ。……あれ?」 「どうかなさいましたか?」 あたしが首を傾げたんで、イザベラが聞き返す……無表情で。 「うん。廊下の向こうに、白い影が……。なんか、メイドさんっぽい格好をしてたような……」 「気のせいですよ、お嬢さま。こんな時間にメイドがお屋敷に来るというのは、考えられません。お嬢さまお付きの者が、隣室に控えておりますから、確認なさっては、いかがでしょうか?」 それを聞いたあたしは。 「……………………ちょっと、ゴメン! 部屋に不審者が入らないか、ガードしてて!」 あたしはイザベラの前を通って、駆け出した。 「あ、お嬢さま、お待ちください!」 今のイザベラの声、慌てたっぽい。でも、そんなのに気を止めてる余裕はない。影を追っかけたいし、イザベラも騎士だから、体は鍛えてるだろう。追いつかれて引き戻される可能性がある。あたしは、全力で走った。
階段は二段抜かし、踊り場はワンステップ。手すりを利用して、方向転換。一階廊下に到着して周りを確認する。 もう影は見えなくなってた。 「……確かに、影が……」 あたしがいるのは、L字型になった廊下の、ちょうど折れ曲がったところ。正面、右手、どっちかに行ったはず。 イザベラの足音が聞こえてきたんで、あたしは正面の直線廊下を走った。途中、右手側の窓から、中庭を確認することも忘れない。 そして、突き当たって左右を確認。左手の廊下を行くと騎士たちの詰め所、それから何に使ってるかわからない部屋が数室。右手は厨房、そして騎士たちや使用人たちのダイニング。その途中に、裏庭へ出るドア。 影がいるっていう根拠はなかったけど、あたしは裏庭へ出るドアへ向かった。
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