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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第28回   謎の影、また見ちゃった
 夕食を終えたあたしは、部屋に戻り次のバトルについて、記憶を元にシミュレーションしてた。
 まず、ハンナが散歩しようと誘ってくるから、その前夜に高台の階段と手すりを細工しておく。これを絶対忘れないこと。
 徹底的に頭にすり込むようにして、あたしはベッドにもぐり込んだ。

 このループが終われば、元の世界に帰れるんだ。

 そんなことを願いながら。

「……ッ!?」
 今、なんか、大きな音、しなかった!?
 あたしは起き上がる。部屋の中はまだ暗い。
「時計は……。そうか、ライト機能はないんだ、この世界の時計。それよりは」
 あたしはベッドから出た。そしてドアへ向かう。あたしの部屋の前には、警護の女性騎士(デイム)がいるから、もし大きな音が起きてたら、彼女も聞いてるはず。
 ……前のことを思い出して、いやな予感はしたけど。
 ドアを開けると、横から、すぐに静かな声がした。
「いかがなさいました、お嬢さま?」
 廊下には、照度を落とした明かりが灯っていた。ドアのそばに立っている、鎧を着て鎗を持っているボブカットでクセッ毛で、あたしと同じぐらいの背丈の女性騎士(デイム)、イザベラ・ダールベルクがあたしを見る。この人、無表情っていうかなんていうか、考えてることが読めないのよねえ。だから、怒ってるのかどうかもわからない。
「ねえイザベラ、今、大きな音がしなかった?」
「いえ。しませんでした」
 だから、ウソを言ってるのかどうかも、表情からじゃわからない。
「そう……。でも、確かにあたし、聞いたわよ?」
「音はしませんでしたよ?」
「……」
 いやあ、なんていうかぶっきらぼうっていうか。声からもウソかどうか判断できない。
 ていうか、やっぱり、この返答か。
「そうなんだ。……あれ?」
「どうかなさいましたか?」
 あたしが首を傾げたんで、イザベラが聞き返す……無表情で。
「うん。廊下の向こうに、白い影が……。なんか、メイドさんっぽい格好をしてたような……」
「気のせいですよ、お嬢さま。こんな時間にメイドがお屋敷に来るというのは、考えられません。お嬢さまお付きの者が、隣室に控えておりますから、確認なさっては、いかがでしょうか?」
 それを聞いたあたしは。
「……………………ちょっと、ゴメン! 部屋に不審者が入らないか、ガードしてて!」
 あたしはイザベラの前を通って、駆け出した。
「あ、お嬢さま、お待ちください!」
 今のイザベラの声、慌てたっぽい。でも、そんなのに気を止めてる余裕はない。影を追っかけたいし、イザベラも騎士だから、体は鍛えてるだろう。追いつかれて引き戻される可能性がある。あたしは、全力で走った。

 階段は二段抜かし、踊り場はワンステップ。手すりを利用して、方向転換。一階廊下に到着して周りを確認する。
 もう影は見えなくなってた。
「……確かに、影が……」
 あたしがいるのは、L字型になった廊下の、ちょうど折れ曲がったところ。正面、右手、どっちかに行ったはず。
 イザベラの足音が聞こえてきたんで、あたしは正面の直線廊下を走った。途中、右手側の窓から、中庭を確認することも忘れない。
 そして、突き当たって左右を確認。左手の廊下を行くと騎士たちの詰め所、それから何に使ってるかわからない部屋が数室。右手は厨房、そして騎士たちや使用人たちのダイニング。その途中に、裏庭へ出るドア。
 影がいるっていう根拠はなかったけど、あたしは裏庭へ出るドアへ向かった。


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