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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第26回   待っときゃよかった……
 裏庭で三人の騎士に取り囲まれ、アメリアは後ろ手に縛り上げられてる。ついでに座らされ、剣を突きつけられてる。三人の内、一人はトラウトマンさんだ。騎士たちはいつも紐を持ってる訳じゃないけど、一人が紐を取りに行ってる間、トラウトマンさんともう一人の騎士が剣で威嚇しながらだから、アメリアも下手な動きは出来ない。
「姉上が無事で何よりでした。実はこのアメリアという女は、姉上を殺しに来た殺し屋だったんです」
 うん、知ってる。……なんてことは言えない。
「え!? ヴィン、本当!?」
 このあたりが無難よね。
 頷いてヴィンは言った。
「一ヶ月前のことです。怪しい動きをしていた、出入りの商人が、散歩中の姉上を、クロスボウで狙っているところに、偶然、出くわしたのです。そこで締め上げたり、自白剤を使って調べたところ、その商人は姉上を殺しに来た殺し屋だとわかりました。コードネームは、ノーム。四人組の殺し屋、その一人です」
「四人組……」
 と、戦慄の表情を浮かべるあたし。うなずき、ヴィンは続ける。
「四人はそれぞれ四大元素の精霊にちなんだ名前を持っています。残りの三人は、シルフ、ウンディーネ、サラマンダー。すでに姉上の身近に潜伏しているとのことですが、誰がどのように潜り込んでいるかは、チームのメンバーも知らないとか。それ以前に、彼らはお互い会ったこともない、と。そこでまず、屋敷のメイドを、調べることにしたんです」
「調べるって、どうやったの? ……………………」
 このあと、なんて言ってたか、忘れたわ。
「最近雇った者の中で、疑わしい者に遠方へ行く用事を言いつけ、留守の間に部屋の中や持ち物なども徹底的に調べました。その結果、このアメリアの旅行鞄の内の皮の裏から、あるものが見つかりました。それがわかったのが、アメリアが帰ってきた後、深夜のことでした。持ち出していた鞄を部屋に戻す余裕もなかったのですが、とりあえず今朝、それを突きつけて、事情を聞こうとしていた矢先、こういうことに」
 よかった、ヴィンがうまいことつなげてくれて。
 ヴィンは上着のポケットから布きれを出した。
「鞄の内側の皮を剥がしたら、こんなものがあったんです」
 その布きれには、何かの魔法円のようなものがあって、その上下左右にノーム、シルフ、ウンディーネ、サラマンダーと書いてあった。やっぱ、日本語に思えたけど、ここ本当に日本じゃないの? 
 それはともかく、シルフのところに、赤黒い拇印のようなものがあった。この赤黒いのって、なんか、血っぽい……。やっぱ血なんだろうなあ。
「おそらく、これは連中のシンボル、あるいは誓いの印でしょう。この拇印から察するに、アメリアはシルフだと思われます」
 …………………………。
「ああ、そうか!!」
「うわ!? 姉上、どうかなさいましたか!?」
 ヴィンだけじゃない、三人の騎士も、アメリアも驚いてる。
「あ、え、えーと、ごめんね、驚かせちゃって。なんでもないわ」
 怪訝な表情の五人を笑いでごまかす。
 いやあ、今、繋がったわ。今、ここにトラウトマンさんがいるってことは、さっきヴィンに言ってた「例の件」って、このことだったんだ。
 え? ちょっと待って? ていうことは、あのままだったらアメリアの正体がわかって、こんな風にお縄になってて、あたしムダなバトルしなくてもよかったってこと?


 ……くわあぁぁぁ〜。


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