というわけで、あたしは今、裏庭でアメリアと対峙してる。最初に剣筋を外してくる位置とタイミングはわかってるから、それはよけるとして、次が……。 だめだ、思い出せない。 これはもう、ここで殺されてもう一度、ループするしかない。で、ループしたらフリントロックを死守する! 運が良ければ、アメリア戦以降にループするかも!
うう、剣で刺されるのも斬られるのも、痛いからやだなあ〜。
アメリアは、自分の剣・レイピアを手に言った。 「まずは、オーソドックスに剣での攻撃を想定します。私が剣で突き込みますので、お嬢さまはその剣で私の剣を弾いてください」 「わかったわ」 うん、わかってる。あたしが頷くと、アメリアも頷く。そして、柔らかい笑顔を浮かべ、言った。 「お嬢さまの剣も、私の剣も、刃が落としてある訓練用の剣です。それに私の方は寸止め致します。ですが、剣の重さは本物と同じです」 この笑顔、作り物なのよねえ。なんか、きしょっ! あたしは剣の重さを確かめる振りをして、そんなことを思った。そして、剣を構える。 アメリアが頷く。 「相手は奇襲をかけてくるでしょうけど、とりあえず、剣筋がわかるように、ゆっくりと剣を突き出します」 あたしが頷くと、アメリアが「では」と言って、剣をくるくると回して見せた。 こっちを殺すつもりで、そんなことする意味ある? ……ああ、余裕ぶっこいてんのかぁ。でも、剣技の実力差がありすぎて、腹、立たないわ。 アメリアを見ながら、あたしは、集中した。慎重にかからないといけない。 そして、鍛錬が始まった。確かに、アメリアは、ゆっくりと剣を出してくるんで、どこを狙っているか対応も出来る。ていうか。
え? なにこれ? ムチャクチャゆっくりに見える。これ、ゆっくりと出してくるっていうレベルじゃない。喩えるなら。
DVDをスロー再生してるみたい。
何度か、剣を弾いた時。アメリアの剣があたしの左肩を狙ってきた。 ここだったわね、アメリアがフェイントかけてくるの。
あたしの左肩を狙うかに思えたアメリアの剣は、素早く外向きの弧を描いて左肩への軌道から逸(そ)れ、あたしの右の太ももを狙った! 「てやっ!」 気合いをかけて、剣でアメリアのレイピアを弾く。 「……んなッ!?」 明らかに狼狽してアメリアの表情が変わる。 驚いてるなあ。ろくすっぽ剣を握ったこともない、貴族の小娘が、殺し屋のフェイントを捌(さば)いたんだから。さて、次も、ゆっくり見えるとは限ら……。
スロー再生継続。
あたしはアメリアの剣をことごとく弾いていった。 「くそっ、クソッ!」 アメリアの表情が、険しいものに変わる。そりゃそうよねえ、ろくすっぽ……以下略。 「ギッ!」 歯を食いしばり、アメリアが呻いてあたしのおなか目がけて一気に剣を突っ込んできた。あたしは身をかわした。これなら、アメリアの剣を狙える! 「てやっ!」 気合いをかけてアメリアのレイピアを、剣でたたき落とす。……つもりだったけど、小気味のいい音とともに、刃が途中から折れた。 「ウソ!? 折れちゃった!?」 剣を落とすつもりだったけど、折れるなんて、あたしそんなに力が強かったっけ!? ほとんど反射的に、アメリアは、その場からバックステップで離れる。そして、レイピアを投げ棄てると、どこに持ってたか、短剣を出した。今度はそれであたしに斬りかかる。 でも、引き続きアメリアが斬りかかる時はスロー再生状態。なので余裕でかわせる。そしてあたしは言った。 「そういえば、あたしの剣って刃が落としてあるのよね、あなたのと違って!?」 「それがどうしたの!?」 がなるように言ったアメリアに、あたしは答えた。 「じゃあ、これであなたを殴っても問題ないわね!」 「なッ!?」 驚いているアメリアに構わず、あたしは剣の「腹」の部分で、アメリアの横面(よこつら)を張った。刃の部分がアメリアの肩をかすめたけど、問題なし。悲鳴を上げ、アメリアは地面に倒れる。豪快に横倒しになったけど、大丈夫かな? しばらくアメリアは動かなかったけど、やがてゆっくりと上半身を起こし、あたしをにらんで言った。 「たとえ何十人何百人、殺しても、何万ディン何十万ディンの報酬をもらっても、あんたみたいな『乳母(おんば)日傘(ひがさ)』一人を殺せなかったら!! ……殺せなかったら、私の棄民街での十年は、辛かった訓練、そして標的を殺し続けた年月(としつき)は、まったくムダなの!!」 「おんばひがさ」ってのが、意味わかんないけど、ものすごく悔しいっていうのは伝わった。 「姉上ーッ!」 声をした方を見ると、ヴィンや三人の騎士がこっちに向かって駆けてきていた。
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