その時、閃いた。 「そうだ、ヴィンに聞こう! お屋敷の武器庫に、銃が他にもあるはず!」 あたしはパジャマのまま部屋を飛び出して、ヴィンの部屋に飛び込んだ。 「ヴィン、ちょっといい!?」 すると、ヴィンは着替え中(ハダカの背中が見えた)だった。 「うわっ、姉上!?」 裏返った感じの声を上げて、ヴィンがこっちを見る。でも、ビックリしたのはこっちも同じ。 「はわわわ! ゴメン、ヴィン!!」 あたしは、とっさにドアを閉じる。いやあ、あたしが通ってんの、女子高だからね、生(ナマ)の男子の背中なんて、見たことないから、免疫ないし! 壁に体をあずけて、胸のドキドキをおさえながら深呼吸していて、なんとなく。
服脱ぐと、ヴィンって思ったより、華奢(きゃしゃ)だったなあ。それに、脇の向こうにチラッと膨らみが見えたような気が……。ま、気のせいね
そう思ってると、ドアが開いて、ヴィンが顔を出した。 「……姉上、な、なにか、御用、ですか……?」 ヴィンもほっぺたを赤くしてる。そういやそうか、いくら貴族の息子でなんか武術をやってるっていっても十五歳だもん、思春期まっただ中だわね。家族でも、ハダカを見られるのはイヤに決まってるわ。 「さっきはごめんね、ヴィン。ノックするの忘れてた……」 あたしは素直に頭を下げた。 「……それ、で。ご用件は?」 怒ってる感じはないか。いい子で助かったわ。だったら、ストレートに用件を。 「ねえ、ヴィン、このお屋敷に武器庫みたいなものあるわよね? そこに、短銃(ピストル)、ないかな?」 「ええ、ありますよ。でも、なんで必要なんですか?」 「う、うん、ちょっとね。あ、急ぎなんだけど、いいかな?」 少し考えて、ヴィンは言った。 「わかりました。でも、姉上、そのお召し物で武器庫まで行くのですか?」 その言葉に、あたしは自分がまだパジャマ姿だったことを思い出した。 「……うん、いいわ。ホントに急ぎだから」 「わかりました。行きましょう」 そして、ヴィンの案内で武器庫へ向かった時。 「ヴィンフリート様、お時間、よろしいでしょうか?」 背後から、声がした。振り向くと、一人の騎士。この人は領内に十八人いる騎爵の一人で、アルブレヒト・フォン・トラウトマンって人。お父様と同い年で、厳格な雰囲気を持ってるナイスミドル。八の字型の鼻ひげをはやしてる。お父様の信任も厚く、普段は主人と使用人だけど、まったくのプライベートでは、タメ口でつき合う中……だと、ヴィンに聞いた。お屋敷の警護長で、敷地内に、このお屋敷ほどじゃないけど、まあ、それなりに立派なお屋敷にご家族と一緒に住んでる。 ちなみに、ほかの警護の人は、二〜三人単位でルームシェアのような感じで、やっぱり敷地内に住んでる。 「なんだい、トラウトマン卿(きょう)?」 「例の件ですが」 例の件、だけでヴィンには、わかったらしい。 「すまない、少し待ってもらえないか? 急用が入ってしまったんだ。父上の執務室で待っていてくれないか」 「かしこまりました」 そう言って、トラウトマンさんは、去って行った。 「ねえ、ヴィン、重要なことだったんじゃないの? 大事な用件だったんじゃあ?」 なんか気になってあたしは聞いたけど、ヴィンは笑顔で言った。 「大丈夫ですよ、姉上。トラウトマン卿には、彼をリーダーにしてちょっとした『調べ物』を頼んだんです。姉上の用事が済んだ後でも、問題ありませんよ」 「そう……?」 調べ物? 調べ物……。 う〜ん、なんか、引っかかってるけど。 何かについての調べ物、調べ物、調べ物……。 ダメだ、思い出せないや。
で、武器庫に来たけど。 なんか、武器が一杯。まあ、武器庫だから当たり前だけど、見たことないものまである。 「あれ? おかしいな、ここにあるはずなんだけど?」 「どうしたの、ヴィン?」 「ええ、姉上、銃器の内、短銃が一挺(いっちょう)もないんです。おかしい、これは問題です!」 「他の場所にある、とか?」 「もちろん探しますが、もし見つからないとするとたいへんです、武器管理の問題になる!」 そう言って、ヴィンはあちこち探し始めた。
結局、短銃(ピストル)は見つからなかった。ヴィンは武器庫を飛び出した。執事とか事務官とかと、いろいろと対策を講じないとならないらしい。 あたしはあたしで。
どうしよう……。 今の時間を断っても、結局「鍛錬」なんて話は出るし、きっとヴィンやお父様、お母様も賛成するだろうし。 うー、あたしが見てたアニメの異世界転移系の主人公は、頭が良くて知識も豊富で機転が利いてたのに、なんで、あたし平凡なのよぅ!
|
|