帰りの馬車の中で、あたしは素朴な疑問を抱いていた。 ループしてるのは間違いない。 じゃあ、世界はどうなってるの? 世界全体がループしてるの? もしかして、ほかの誰かも同じようにループして、あるいは別の誰かのループにあたしが巻き込まれてるの?
……え、……うえ、あねうえ。
「え? 何か言った、ヴィン?」 ヴィンが呼ぶ声に、あたしは我に返った。 「ああ、ですから、復讐については僕が相手のことを徹底的に調べ上げて、必ず姉上が勝てるようにしますから。僕を信じてください!」 「あ、う、うん、お願いね」 あたしの言葉にヴィンは笑顔で頷いた。 復讐かあ。結局、グートルーンはウンディーネっていう殺し屋だったわけだしなあ。 そうだ、そのことをハインリヒに話して、牢屋に入れてもらうか、どうかしてもらって、先回りできたら! …………却下。誰があんな外道と会うもんですか! アストリットがあの男を引っ叩(ぱた)いてた理由が、わかった気がするわ!
お屋敷に帰ってきたあたしは、とりあえずベッドと壁の隙間にあるフリントロックを確認した。明日は、アメリアとの戦い。そして、ウンディーネ、ハンナとの戦い。サラマンダーは……。裏庭に行かなければいい、っていうものじゃないわよね。おそらく、サラマンダーは何らかの手段で、すでにお屋敷に潜入してる。それが「今」なのか、「もっと先」なのか。 とにかく怪しい人はチェックしないと。 確か、アメリアからウンディーネまでは三日ぐらいあったはず。その間にヴィンにも協力してもらって、探そう! あたしの記憶に間違いがなければ、サラマンダーが使う武器は弓矢かボウガン。用心して近づかないと……! あたしはいろいろと考えながら、パジャマに着替え、眠りについた。
翌朝、あたしが目を覚ました頃、ドアがノックされた。 入室の許可を出すと、メイドさんが入ってきて朝の挨拶をした後、予想通りの言葉を言った。 「お嬢さま、事情はヴィンフリート様から伺っております。朝食の前に、軽く鍛錬をしようと、アメリアが申しておりますが。いかがなさいますか?」 「わかった。鍛錬してもらうわ。アメリアさんなら、トレーニングに、うってつけだもの。腕の立つ武術者なのよね?」 あたしは笑顔で答えた。心の中は戦闘モードになってたんだけど。 「はい、昨日(さくじつ)は領主様のご下命でヒューゲル伯爵の御領(ごりょう)へ伺っておりましたが、昨夜遅くに戻って参りました。お嬢さまの事情を伺って、アメリアも心配しております。復讐するに際し、相手の防衛は必至。必ず勝利を収めるためには、鍛錬が必要、とアメリアが申しておりました。運動の出来るお召し物で、裏庭へお越しください。それでは」 一礼し、メイドさんはドアを閉めた。 「よし、まずはここでアメリアを倒して、そのあとヴィンに相談を……!」 あたしはベッドと壁の隙間のフリントロックを……。 「え? ない? 下に落ちたかな?」 あたしは隙間のさらに奥に手を突っ込む。 「……ない。えっと、別のところだったかな?」 ベッドの上をずりずりと移動して、フリントロックを探した。 「ちょっと待って!?」 床に寝そべり、ベッドの下に手を……って、隙間が五センチぐらいしかないじゃん、今、気がついたけど!! 「うわ、どうしよ、まずいまずいまずい! ベッドを動かして……!」 あたしはなんとかベッドを動かして探そうとしたけど、一人の力で動かせるものじゃない。 「そうだ、ひょっとしたら、別のところに仕舞ったのかも!」 家捜しでもしてるかのように(実際そうだったんだけれど)あちこち探し回った。 「ない! 銃がない! 銃が……」 どこを探しても銃がない! どういうこと!? あたしの頭は、パニックになりかけていた……。
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