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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第23回   ヤバいじゃん!
 帰りの馬車の中で、あたしは素朴な疑問を抱いていた。
 ループしてるのは間違いない。
 じゃあ、世界はどうなってるの? 世界全体がループしてるの? もしかして、ほかの誰かも同じようにループして、あるいは別の誰かのループにあたしが巻き込まれてるの?

 ……え、……うえ、あねうえ。

「え? 何か言った、ヴィン?」
 ヴィンが呼ぶ声に、あたしは我に返った。
「ああ、ですから、復讐については僕が相手のことを徹底的に調べ上げて、必ず姉上が勝てるようにしますから。僕を信じてください!」
「あ、う、うん、お願いね」
 あたしの言葉にヴィンは笑顔で頷いた。
 復讐かあ。結局、グートルーンはウンディーネっていう殺し屋だったわけだしなあ。
 そうだ、そのことをハインリヒに話して、牢屋に入れてもらうか、どうかしてもらって、先回りできたら! …………却下。誰があんな外道と会うもんですか! アストリットがあの男を引っ叩(ぱた)いてた理由が、わかった気がするわ!

 お屋敷に帰ってきたあたしは、とりあえずベッドと壁の隙間にあるフリントロックを確認した。明日は、アメリアとの戦い。そして、ウンディーネ、ハンナとの戦い。サラマンダーは……。裏庭に行かなければいい、っていうものじゃないわよね。おそらく、サラマンダーは何らかの手段で、すでにお屋敷に潜入してる。それが「今」なのか、「もっと先」なのか。
 とにかく怪しい人はチェックしないと。
 確か、アメリアからウンディーネまでは三日ぐらいあったはず。その間にヴィンにも協力してもらって、探そう! あたしの記憶に間違いがなければ、サラマンダーが使う武器は弓矢かボウガン。用心して近づかないと……!
 あたしはいろいろと考えながら、パジャマに着替え、眠りについた。

 翌朝、あたしが目を覚ました頃、ドアがノックされた。
 入室の許可を出すと、メイドさんが入ってきて朝の挨拶をした後、予想通りの言葉を言った。
「お嬢さま、事情はヴィンフリート様から伺っております。朝食の前に、軽く鍛錬をしようと、アメリアが申しておりますが。いかがなさいますか?」
「わかった。鍛錬してもらうわ。アメリアさんなら、トレーニングに、うってつけだもの。腕の立つ武術者なのよね?」
 あたしは笑顔で答えた。心の中は戦闘モードになってたんだけど。
「はい、昨日(さくじつ)は領主様のご下命でヒューゲル伯爵の御領(ごりょう)へ伺っておりましたが、昨夜遅くに戻って参りました。お嬢さまの事情を伺って、アメリアも心配しております。復讐するに際し、相手の防衛は必至。必ず勝利を収めるためには、鍛錬が必要、とアメリアが申しておりました。運動の出来るお召し物で、裏庭へお越しください。それでは」
 一礼し、メイドさんはドアを閉めた。
「よし、まずはここでアメリアを倒して、そのあとヴィンに相談を……!」
 あたしはベッドと壁の隙間のフリントロックを……。
「え? ない? 下に落ちたかな?」
 あたしは隙間のさらに奥に手を突っ込む。
「……ない。えっと、別のところだったかな?」
 ベッドの上をずりずりと移動して、フリントロックを探した。
「ちょっと待って!?」
 床に寝そべり、ベッドの下に手を……って、隙間が五センチぐらいしかないじゃん、今、気がついたけど!!
「うわ、どうしよ、まずいまずいまずい! ベッドを動かして……!」
 あたしはなんとかベッドを動かして探そうとしたけど、一人の力で動かせるものじゃない。
「そうだ、ひょっとしたら、別のところに仕舞ったのかも!」
 家捜しでもしてるかのように(実際そうだったんだけれど)あちこち探し回った。
「ない! 銃がない! 銃が……」
 どこを探しても銃がない! どういうこと!?
 あたしの頭は、パニックになりかけていた……。


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