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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第19回   随分と巻き戻ったなあ
「あああ〜結局、一睡も出来なかった〜」
 ヴィンにループの話をした後の記憶が、全っ然ないわ〜。一体、何があったの〜?
 あたしはもそもそとベッドから出て、両足を床に着いた時、ドアがノックされた。
 入室の許可を出すと、メイドさんが入ってきて朝の挨拶をした後、こんなことを言った。
「お嬢さま、事情はヴィンフリート様から伺っております。朝食の前に、軽く鍛錬をしようと、アメリアが申しておりますが。いかがなさいますか?」
「……………………………………え?」
「昨日(さくじつ)は領主様のご下命でヒューゲル伯爵の御領(ごりょう)へ伺っておりましたが、昨夜遅くに戻って参りました。アメリアも心配しております。ご存じのように、アメリアはお嬢さまの護衛を務めることもある、武術者です」
「いやいやいやいや、ちょっと待って、話がわからない」
 メイドさんは笑顔で要点だけを言う。
「復讐するに際し、相手の防衛は必至。必ず勝利を収めるためには、鍛錬が必要、とアメリアが申しておりました。運動の出来るお召し物で、裏庭へお越しください。それでは」
 一礼し、メイドさんはドアを閉めた。
 ええっとう。
 今の話をストレートに受け取ったら。
「ぐああぁ〜。そこまで巻き戻ったか〜」
 頭を抱え、あたしはベッドと壁の隙間からフリントロック式の短銃を出した。
 また、アメリアとの勝負をやるとか、信じられないんですけど〜?

 で、おんなじことの繰り返しで、アメリア倒して、ウンディーネ倒して、ハンナ倒して。
 なんか、だんだん殺し方の手際がよくなっていってて、このままだとあたし、殺し屋になっちゃうんじゃないかしら?


 そしてウンディーネを倒した翌日。
 朝食を終えた後、父親であるシーレンベック侯ゴットフリートが、あたしとヴィンを残して人払いをし、話を始めた。
「残るはサラマンダーだけだが」
 うわあ…………。
 ほんとに繰り返してきたわ……。
 ヴィンがその後を続ける。
「屋敷勤めをしている者は、すべてその素性を洗いました。問題はありません。もし現れるとすると、出入りの商人、教師、楽士となりますが。教師については、その身元が保障された者だけが来ますので問題はありませんが、商人、楽士たちは、その都度、事前に調べませんと」
「うむ。では、当分の間、舞踏会の類いは、さけることにしよう」
「では、その間(かん)の、諸侯との交流は?」
「そうだな……」
 と、お父様は黙ってしまった。ヴィンも何も言わない。
 さて、と。
 あたしもループに従って、おんなじこと言った方がいいのかな?
 そんなことを考えていたら。
 同じようにしばらく考えていたお父様が、小さく「うむ」と呟いて言った。
「とりあえず、私が病気になったことにしよう。我が領内での、今月の舞踏会はもうすんでいるから、しばらく時間は稼げる。他の貴族の来訪もご遠慮願うよう、領内の執政参与にも通達しておく」
「では、諸侯の舞踏会へは、僕が父上の名代(みょうだい)ということで、参加いたします」
「ああ、頼む」と、お父様は頷いた。
 あー、えーと。
 あたしがなんで狙われてるのか、それが知りたいんだけど。
 この前聞いた、「貴族への妬み」ってことでいいのかな?
 二人がサラマンダーについての話を再開したとき。
 食堂のドアがノックされた。お父様が入室の許可を出すと、ドアを開けて入ってきたのはメイド長のヘルミーナさんだ。年齢は四十前後、メガネをかけて、ちょっと神経質そうで、実際、いろいろとうるさい。確かに有能な人なんだけれど。
「ご主人様、ライトマイヤー様の伝令がお見えになりました」
「ロード・ワルターの? ということは、例の紋章官について、何かわかったのか?」
「私には、何も。ご主人様に直々に申し上げたいと」
「うむ、わかった」
 そう言って、お父様は立ち上がり、食堂を出て行った。
 後に残されたあたしとヴィン。一応、聞いてみるか。
「ねえ、ヴィン。なんであたし、狙われてるの?」
「…………は?」
 ヴィンが怪訝そうな表情になる。
「あの、姉上? 何を仰っているのですか?」
「だから、あたしが狙われる理由。貴族への妬みっていうやつ?」
 ため息をつき、あたしの顔をじっと見ていたヴィンだけど。
「申し訳ありません、今日は、僕は馬上鎗(ランス)の鍛錬で、領内北方のアルテンブルク伯のところへ行かねばなりません。今夜、また改めて、お話し致しましょう」
 そう言って、食堂を出て行った。


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