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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第16回   決心
 朝食を終えた後、父親であるシーレンベック侯ゴットフリートが、あたしとヴィンを残して人払いをし、話を始めた。
「残るはサラマンダーだけだが」
 シーレンベック侯爵は、今の王妃の遠い親戚になるそうだ。年齢は四十七歳っていうことだけど、四十歳そこそこっていってもいいぐらい若々しい。そして、太い声やひげも相まって、すごく威厳がある。
 ヴィンがその後を続ける。
「屋敷勤めをしている者は、すべてその素性を洗いました。問題はありません。もし現れるとすると、出入りの商人、教師、楽士となりますが。教師については、その身元が保障された者だけが来ますので問題はありませんが、商人、楽士たちは、その都度、事前に調べませんと」
「うむ。では、当分の間、舞踏会の類いは、さけることにしよう」
「では、その間(かん)の、諸侯との交流は?」
 うわあ、ついてけないわ。あたし、聞いてるだけ。
「そうだな……」
 と、お父様は黙ってしまった。ヴィンも何も言わない。
 沈黙に耐えられなくなって、あたしは口を開いた。
「あの……」
 二人の視線が同じタイミングで突き刺さる。
 ぐあ……。授業で先生に当てられた気分だわ。
 そのプレッシャーをどうにか押し返し、あたしは言った。
「殺し屋たちが、なんであたしを狙ってるんでしょうか……?」
 あたしの最初の想定は「復讐の先回りで、グートルーン嬢があたしを狙ってる」だった。でも、その当のグートルーン自体が殺し屋チームの一人・ウンディーネだったし、そもそもチームの一人・ノームがあたしを殺しに来たのは婚約破棄の前。
 すると、あたしが狙われてるのは、なんで?っていう疑問が生まれてくる。あたしはここの人間じゃなく、小松崎(こまつざき)未佳(みか)っていう女子高校生なんだから、こちらの事情は知らない。これはもう、アストリット嬢そのものか、シーレンベック家にその理由があるとしか思えない。くどいけど、そもそもあたしは、この世界の人間じゃないんだから。
 だから、ひょっとしたら、狙われる理由がわかれば、対処できるかも、って思ったんだ。
 二人があたしを見て、それから二人がお互い顔を見合わせ、そして、また二人がこちらを見た。
 なんだ、その海外ドラマみたいな反応?
「なに、二人とも?」
 あたしがそう聞くと、二人はまた顔を見合わせ、またこっちを見て。で、ヴィンが言った。
「あ、ああ、いえ、姉上に心当たりがないのですか。でも、逆恨みということも、じゅうぶん考えられます。我々のような身分の者は敵も多く、暗殺の対象になりやすいのです。ほら、四ヶ月前にも、ハイゼンベルク伯ハンスが病死なさいましたが、実のところは毒殺だったようです。犯人についてはまだわかっていないようですが、所領を襲った弟のサー・マルセルではないかといわれています」
 ここでいったん切り、ヴィンはグラスの中の水を一口飲んで、大きく息をつく。
「下々の者は我々、貴族の身分を羨望、そして妬みのまなざしで見ますが、それは華やかな面だけを見ているに過ぎない。実態はドス黒い思惑と、他者を見下す嘲笑が渦巻く魔窟。華やかな面も、実質の伴わない薄っぺらな紙細工のようなもの。自分でも、時々イヤになります」
 沈んだ表情でヴィンは言う。ふと、お父様を見ると、お父様も腕を組んで難しい顔をしてる。
 それを見て、あたしは決心した。

 話そう。
 あたしがこの世界の住人じゃないこと。
 理由はわからないけど、ここにいるのは日本の女子高校生・小松崎未佳であって、アストリット・フォン・シーレンベックじゃないこと。ループ……同じ時間を繰り返して、殺し屋たちを倒していたこと。
 理解してもらうのは難しいと思うけど、とにかく話そう。

「ねえ、二人とも、聞いて欲しいことがあるの」
 ヴィンとお父様があたしを見る。
 あたしが、決意を固めて口を開いた時だった。


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