アメリアを倒した二日後の夜。 あたしはヴィンの部屋に行った。 「ヴィン、今、ちょっといい?」 『え? あ、姉上!? ちょ、ちょっと待ってください!!』 妙に慌てた様子の返事。そして、かすかに聞こえるバタバタした音。 ややおいて、ドアが開いた。 「お待たせしました、姉上。どういった用事でしょうか?」 なんか、慌てた様子は隠せてない。それに。 「ねえ、ヴィン。部屋から、ちょっと変なニオイがただよってくるんだけど」 「気にしないでください!!」 ヴィンが笑顔で、でも猛烈な勢いで言う。 「そ、そう?」 その勢いに、あたしはちょっと鼻白んだ。 「それより! 何か御用があるんじゃないですか!?」 ヴィンの、なんだか妙な気迫に押されたまま、あたしは言った。 「グートルーンについて、何か、わかった?」 少しおいて、ヴィンが言った。 「人をやって、フォルバッハ侯爵の周辺も、あわせて探っていますが、まだ、これといって」 「そう」 「でも、関係ないとは思いますが、一つ、面白いことがわかりました」 「面白いこと?」 「はい」 と、ヴィンは頷いた。 「あの場で婚約破棄した上、新たな婚約まで宣言までしたというのに、フォン・フォルバッハの家では、一切、婚礼の用意をしていないようなのです」 「用意をしていない?」 「はい。もちろん、この先で破談になる可能性もなくはないのですが、宣言をした以上、サー・ハインリヒのお父上である、サー・テオバルトの耳に入らぬはずはない。そうなれば、必ず何らかの動きがあるはずなのです。例えば、両家の交流の宴とか。ですが、そういう様子は一切ない、と」 「ふうん」 なんか、妙な感じね。 「ああ、それと、もう一つ、いいかしら?」 「はい、なんでしょう?」 「フォン・フォルバッハ家には、誰が調査に行ったの? そいつが嘘を言ってる可能性があるかも……」
今の質問の答えを聞いたあと、ふと、あたしは聞いてみた。 「ねえ、もう一つ、とかって言ったけど、もう一個だけ、いい?」 「はい、構いませんよ」 ヴィンは笑顔で言った。 「あのね……」
ハンナが「散歩に行こう」と誘ってくる前夜。あたしは、人の目を盗んでお屋敷を出て、ある「仕込み」をしておいた。もし、同じ出来事がループしているなら、この「仕込み」、きっと大きな武器になる。
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