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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第12回   気づきの時
 真っ暗な中に、一人の若い女性がいる。そして、その女性を、白い薄煙(うすけむり)が取り巻いていた。
 輝くような長い赤毛に、エメラルドをはめ込んだような双眸(そうぼう)。そして、額には金色のサークレット。そのサークレットの中央には、「目」を模したようなフレームがあり、その中のアメジストが妖しい光を放っている。
 首飾りがあって、そのトップは翼を開いた鳥のようだ。
 真っ暗なのに、着ている服の色が濃紺だっていうのがわかる。

‘誰? あなたは、誰なの?’

 そう問うけれど、返事はない。
 女性はあたしの問いとは関係のないことを言った。

‘それで、あなたはどうしたらいいと思うの?’

‘え? なに? なんのこと?’

‘あなたにとって、最善の行動は何?’

‘なんのこと? あなたが何を言っているのか、わからないわ あなた、何者なの?’


 女性の言葉の意味がわからないまま、やがて、あたしの意識は遠のいていった……。



 あたしは、右手にフリントロック式の短銃(ピストル)を持ってベッドに腰掛けていた。
「……え? なに、これ? あたし、なんでこんなところにいるの……?」
 辺りを見回す。あたしの部屋じゃない。
「ちょっと待って? なんなの、ここ?」
 あたしは、普通の女子高生のはずなのに、ここって、まるで中世ヨーロッパみたい。
 何が何だかわからないまま、あたしは短銃を見る。その瞬間。

「………………あ、そうか……」

 記憶がよみがえってきた。
「フリントロックを持ってるってことは、明日はアメリアとの一戦か。つまり」
 あたしは短銃を両手で握り込むように持つ。
「ループしてるんだ!」
 よくわからないけど、あたしの時間はこの世界でループしてる! 確信した、これはデジャブなんかじゃないんだ!
「ということは、もしかしたら、このループを終わらせることが出来たら、あたし、元の世界に帰れるってこと!?」
 普通に考えれば、そうなんだろう。ということは、明日、アメリアに勝って、それから。
「……グートルーンに勝たないと。でも」
 高台のてっぺんにいたのに先回りするなんて、それこそ瞬間移動をしたか、あるいは。
「……双子」
 グートルーンは双子で、一人が高台のてっぺん、一人が高台の下にいた。だから、瞬間移動したかのように見えた。でも、それだとすると……。
 あたしは考えて、メイドの一人にあの高台の「案内図」を持ってきてもらった。

 アメリアとの勝負は、楽勝だった。例によって、なぜか相手の剣筋がゆっくりと見えて、あたしの右の太ももを狙った剣を弾いたあと、間合いをとって、あたしは言ってやった。
「残念だったわね、シルフ」
 その瞬間、アメリアの表情が強ばり、そして凶悪なものになる。
「どうしてそれを……!」
「ごめんなさい、いろいろと事情とか聞きたいけれど、あたしには手加減して捕まえて、とか、そんな技術、ないから」
 そして銃を抜き、驚いているアメリアの胸に銃弾を撃ち込んだ。
 卑怯、って思われるかも知れないけど、これ、殺し合いだから。

 ただ。

 平然と人を殺してる自分に、自己嫌悪。

 そのあと、やってきたヴィンに聞いた。
「ねえ、ヴィン、もしかして、グートルーン嬢って、双子なの?」
「え? どういうことですか、姉上?」
「うん、ちょっとね?」
 少し考える素振りを見せてから、ヴィンは答えた。
「よくわかりません。リヒテンベルクという貴族の名前も、初めて聞きますから、おそらく所領を持たない貴族だと思われます。となると、我が領内のアルテンブルク伯爵や、プレーディガー子爵のように、どこかの領地に住んでいる貴族か、と」
 その時、一人の女性が駆け寄ってきた。母親、マクダレーナ・フォン・シーレンベックだ。
「ああ、アストリット、無事だったのね!」
 そしてあたしを抱きしめる。
 そのぬくもりを心地よく感じながら、あたしはヴィンに言った。
「調べておいてね、ヴィン」
 ヴィンが頷いた。


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