「え? グートルーン? どうしてあなたがここに?」 そこにいたのは、婚約者(名前、忘れた)を奪ったっていう、リヒテンベルクのお嬢さまだった。 「さあ? どうしてかしらね?」 グートルーンは不敵な笑みを浮かべて、あたしを見てる。電撃の如く、あたしの脳裏に閃いたものがあった。 「先回りね!? 復讐に対する!!」 鼻で嗤(わら)い、グートルーンが言った。 「そうね、そう思っておきなさい」 「えっとね、あたし、復讐っていう習わしがあるのは、聞いたけど、乗り気じゃないの。だから、さ、ここなら人もいないし、あたしがあなたに復讐をして、あなたがあたしに降参した、っていうことにしない?」 そうよ、復讐なんて、とんでもない。もし、あたしのこの申し出を受け入れてもらえたら、あたしもグートルーンも、winwinじゃない! ……あ、そうか、グートルーンは名誉とか、体面とか、傷がつくのか。 「ええっとね? あなたの名誉に傷がついちゃうっていうのは、わかるわよ? でも、実際に決闘めいたことするより、ずっといいと思うの」 グートルーンは苦笑いを浮かべ、首を横に振って、何かを出した。それは、短剣。 「ちょ、ちょっと待とうか、ね!?」 あたしは、こっそりと右手で日傘の取っ手をひねる。万が一の時が来ちゃった。うまく捌けるといいけど。ていうか! 『何やってるのよ、ハンナ、あなた、あたしの警護でしょ!? 早く来なさいよ!』 石畳を踏みつけ、グートルーンが迫る。瞬時の勘で、あたしはそれを避ける。ていうか、アメリアの時みたいに、相手の動きがものすごくゆっくりに見えた。 「うそ!? 今のを避けるなんて!?」 なにやらグートルーンが驚いているけど、構わずあたしは傘から剣を引き抜く。そして斬りつけたけど。 カキーンっていう音とともに簡単に弾かれた。そして、グートルーンが軽快にステップを踏んであたしの右手に来ると、短剣を突き込んでくる。今度もあたしはそれを避ける。斬りかかると、相手は短剣なのに簡単に弾く。また軽快なステップで、今度はあたしの背後に回ると、グートルーンは短剣を突き込んできた。あたしはそれを避ける。 「また!? どうしてこれを避けられるの!?」 グートルーンが驚いているけど、あたしは短剣で長剣を弾くとか、ドレス姿なのに軽いステップであたしの周囲を移動するとか、まるで戦い慣れているかのようなグートルーンに驚いていた。 とりあえず、あたしは道を駆け下りる。もしかしたら、ハンナはゆっくりと道を上がっているのかも知れない。合流できれば! 傘は風を受けてあたしの動きを鈍らせるんで下りながら閉じて、あたしは道をグルグルと駆け下りる。グートルーンに追いつかれないこと、そしてハンナと合流すること、これを考えながら。 そして、一番下まで来た。 「どういうこと? ハンナがいない?」 途中でもハンナには出会わなかった。これ、一体、どういうこと? その時、だれかがやってくる気配があった。 「! ハンナ!?」 ハンナが来たんだ! そう思ってそちらへ行こうとしたら。 「……グートルーン……! どうして……?」 「さあ? どうしてかしらねえ?」 そこにいたのは、不敵な笑みを浮かべたグートルーンだった。ちょっと待って? さっきまで高台のてっぺんにいたでしょ、この人!? なんであたしの目の前にいるの!? 瞬間移動でもしたの!? それとも、もしかして、双……。 あたしの思考をさえぎり、グートルーンが短剣を向けてきたんで、あたしは振り回して強引に開いた傘を盾にしたけど、刃が簡単に貫き、そのまま押し込まれた。体勢が崩れたあたしに、グートルーンが左脚でハイキックを放つ。蹴り飛ばされたあたしは、そのまま転がる。 そして、あたしは強い力でつり上げられた。冷たい何かが首筋に当たる。それが短剣の刃だと気がついた瞬間、鋭い痛みが首を走り、紅くて温かいシャワーがあたしの首からほとばしり出た。 意識が遠くなっていく中、誰かの会話が聞こえたけど、理解できなかった……。
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