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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第11回   高台での決闘
「え? グートルーン? どうしてあなたがここに?」
 そこにいたのは、婚約者(名前、忘れた)を奪ったっていう、リヒテンベルクのお嬢さまだった。
「さあ? どうしてかしらね?」
 グートルーンは不敵な笑みを浮かべて、あたしを見てる。電撃の如く、あたしの脳裏に閃いたものがあった。
「先回りね!? 復讐に対する!!」
 鼻で嗤(わら)い、グートルーンが言った。
「そうね、そう思っておきなさい」
「えっとね、あたし、復讐っていう習わしがあるのは、聞いたけど、乗り気じゃないの。だから、さ、ここなら人もいないし、あたしがあなたに復讐をして、あなたがあたしに降参した、っていうことにしない?」
 そうよ、復讐なんて、とんでもない。もし、あたしのこの申し出を受け入れてもらえたら、あたしもグートルーンも、winwinじゃない! ……あ、そうか、グートルーンは名誉とか、体面とか、傷がつくのか。
「ええっとね? あなたの名誉に傷がついちゃうっていうのは、わかるわよ? でも、実際に決闘めいたことするより、ずっといいと思うの」
 グートルーンは苦笑いを浮かべ、首を横に振って、何かを出した。それは、短剣。
「ちょ、ちょっと待とうか、ね!?」
 あたしは、こっそりと右手で日傘の取っ手をひねる。万が一の時が来ちゃった。うまく捌けるといいけど。ていうか!
『何やってるのよ、ハンナ、あなた、あたしの警護でしょ!? 早く来なさいよ!』
 石畳を踏みつけ、グートルーンが迫る。瞬時の勘で、あたしはそれを避ける。ていうか、アメリアの時みたいに、相手の動きがものすごくゆっくりに見えた。
「うそ!? 今のを避けるなんて!?」
 なにやらグートルーンが驚いているけど、構わずあたしは傘から剣を引き抜く。そして斬りつけたけど。
 カキーンっていう音とともに簡単に弾かれた。そして、グートルーンが軽快にステップを踏んであたしの右手に来ると、短剣を突き込んでくる。今度もあたしはそれを避ける。斬りかかると、相手は短剣なのに簡単に弾く。また軽快なステップで、今度はあたしの背後に回ると、グートルーンは短剣を突き込んできた。あたしはそれを避ける。
「また!? どうしてこれを避けられるの!?」
 グートルーンが驚いているけど、あたしは短剣で長剣を弾くとか、ドレス姿なのに軽いステップであたしの周囲を移動するとか、まるで戦い慣れているかのようなグートルーンに驚いていた。
 とりあえず、あたしは道を駆け下りる。もしかしたら、ハンナはゆっくりと道を上がっているのかも知れない。合流できれば!
 傘は風を受けてあたしの動きを鈍らせるんで下りながら閉じて、あたしは道をグルグルと駆け下りる。グートルーンに追いつかれないこと、そしてハンナと合流すること、これを考えながら。
 そして、一番下まで来た。
「どういうこと? ハンナがいない?」
 途中でもハンナには出会わなかった。これ、一体、どういうこと?
 その時、だれかがやってくる気配があった。
「! ハンナ!?」
 ハンナが来たんだ! そう思ってそちらへ行こうとしたら。
「……グートルーン……! どうして……?」
「さあ? どうしてかしらねえ?」
 そこにいたのは、不敵な笑みを浮かべたグートルーンだった。ちょっと待って? さっきまで高台のてっぺんにいたでしょ、この人!? なんであたしの目の前にいるの!?  瞬間移動でもしたの!? それとも、もしかして、双……。
 あたしの思考をさえぎり、グートルーンが短剣を向けてきたんで、あたしは振り回して強引に開いた傘を盾にしたけど、刃が簡単に貫き、そのまま押し込まれた。体勢が崩れたあたしに、グートルーンが左脚でハイキックを放つ。蹴り飛ばされたあたしは、そのまま転がる。
 そして、あたしは強い力でつり上げられた。冷たい何かが首筋に当たる。それが短剣の刃だと気がついた瞬間、鋭い痛みが首を走り、紅くて温かいシャワーがあたしの首からほとばしり出た。
 意識が遠くなっていく中、誰かの会話が聞こえたけど、理解できなかった……。


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