最終話 アストライアの帰還B〜アルゴナウタイ−4
その一室は、市内の料理屋の二階。午後四時五十分の今、開店準備をしているところだ。 「あ、エーコちゃん、一階に行って爪楊枝の予備、持ってきてくれる?」 「はい!」 年配の女性から「エーコちゃん」と呼ばれた若い女性は返事をして、一階へと向かう。だが、途中で何かに引っ張られたように、のけぞって制止した。 「? どうしたの、エーコちゃん?」 年配の女性には見えないが、「エーコちゃん」には仰角を描いて外部へと光る糸が一本、伸びていて、「エーコちゃん」は、まさにその糸に引っ張られたのだ。 しばらくおいて。 「エーコちゃん」は、ゆらりとこちらに向いて言った。 「あのさあ、おばさん、私、この街では一番の、有名なスイーツ評論家なんだよ?」 「え? 何言ってるの、エーコちゃん?」 「……チッ、知らねえのかよ……。ネットぐらい、チェックしろよな?」 「……どうしたの、エーコちゃん……?」 年配の女性からすれば、エーコちゃんのこの様子は異常としかいいようがない変貌の仕方だ。だが、これこそが「エーコちゃん」の隠れた一面であった。 異様な雰囲気に、年配の女性がタジタジとなる。構わず「エーコちゃん」は言う。 「その私に、爪楊枝の予備を持って来いなんて雑用、言うかなフツー?」 「……え、エーコちゃん……?」 年配の女性は、何を言ってよいやら分からず、ただオロオロするばかりだ。 「わかる? 私、フォロワー数がハンパないんだっつってんの! あんたみたいなおばさんより、何十倍も何百倍も偉いの! その私に用事言いつけるなんて、どんだけ、ご立派なのかな!?」 笑ったような顔で、エーコは怒号を吐き出す。 恐ろしさで年配の女性が縮こまった瞬間。 「ヒヒッ!?」 そんな奇声を発し、エーコが窓際に駆け寄る。だがそれは横向きであり、自分の意志というより、何かに引っ張られていった、そんな風に見えた。 ガシャッ!と音を立てて、エーコが窓ガラスにぶつかる。そして身を引きつらせ、突然、口を大きく開け、目を見開いて硬直した。 その直後、年配の女性にもハッキリと見えたのだ、エーコの体から白い人の形に似た「何か」が、光る糸に引っ張られて窓の外に抜けていくのを! 「ヒャッ!?」 年配の女性も、驚愕の光景に腰を抜かして尻餅をついた。 エーコは目と口を大きく開いたまま、ズルズルとへたり込み、人事不省になったようだった。
亜羅祢に引っ張り出されたプロテウスは、空中で何らかのエネルギーを集め、実体化する。 『サバキィィィィング!』 実体化した「それ」は、咆哮し、着地する。その姿は積み重ねたティラミスを胴体に、右腕前腕部が二等辺三角形に切ったイチゴのショートケーキ(尖った方が先端に来ている)に、左腕前腕部が何種類かのフルーツとフルーツソースを組み合わせた直方体のフルーツケーキになっており、胴体下部の左右につけた二対のクッキーを車輪にしてモンブランを頭部に据えた、全高十メートル越えの怪物だった。その頭頂部の栗(と思しき物体)には黒光りする王冠がついている。 『サバキィィィィング!』 また咆哮すると、周囲に文字が躍り始めた。そして電子的で抑揚のない声で、その文字が読み上げられる。
『一丁目の「ぱっしょん」、チョコレートケーキの甘さに深みがない。よって私が裁きを下す』
サバキングがクッキーの車輪を回して、車道を走り出した。自動車を吹っ飛ばしながら。
最終話 アストライアの帰還B〜アルゴナウタイ−5
歩道を走りながら、希依は美郁に電話を架けている。 「ミークちゃん、中央区の朱見台(あけみだい)一丁目にこの間の怪物……サバキングが現れたの! わかるかな、場所!?」 『うん! ヒボウのエネルギーがビンビン伝わってくる!』 「今どこ!? ここから遠いのかな!?」 『もうすぐ、到着するよ!』 「え?」 返答が終わると同時に、空から美郁が降ってきた! 「お待たせ!」 「え!? ええっ!? ミークちゃん、どうやってここに!?」 驚きながら問うと、美郁は近くのビルを指さす。 「建物の屋根伝いに」 「……………………え? どゆこと?」 「ボクにもよくわからないんだけど、どうやらヒボウのエネルギーを感じ取ると、○リキュアの力が使えるみたいなんだ、限度はあるけどね」 笑顔で美郁は言う。 「そういえば、私も走り詰めだけど疲れてないし、走るスピードもいつもより速かったかしら?」 ふと、希依も己の変化に気づく。 そのとき、見たことのある軽自動車が、二人の近くに停車した。ドアが開き、そこから睛(しょう)と理鉈が現れる。 美郁が少し驚いた様に言った。 「リタ会長!? なんで睛さんの車に!?」 理鉈、やや緊張を伴った表情で答える。 「途中で出会ったんだ。睛ちゃんもヒボウのエネルギーを感じて、来たんだって!」 美郁が号令をかけた。 「じゃあ、行くよ、みんな!」 希依と睛が頷いた。
変身した美郁……ジャスティスたちは、跳躍し、サバキングに迫る。 サバキングは、また電子的な声を発した。 『一丁目の「ぱっしょん」、チョコレートケーキの甘さに深みがない。よって私が裁きを下す』 そして右腕を上げ、肘を曲げて三角形の頂点を「ぱっしょん」の店舗に向ける。すると、ショートケーキのイチゴが真っ赤に輝いたかと思うと、ショートケーキが肘のところで回転を始めた……ドリルのように! まさにそのドリルを店舗に直撃させようとした刹那、ジャスティスの跳び蹴りがサバキングの胸を蹴り、そのバランスを崩させた。 着地したジャスティスたちは、ちょうど三角形を描くようにサバキングを取り巻く。サバキングは頭部をグルグルと回転させていたが、どうやら自分に蹴りを食らわせたジャスティスに狙いを定めたらしい。 『サバキィィィィング!』 一声吠えると、右腕を構える。イチゴが真っ赤に輝き、腕が回転を始めた。そのドリルを、バックステップでかわすと、ドリルが車道に直撃し、貫く。その間隙を突いて、ヘルマのチェーンが、サバキングの右上腕部を捉える。そして腕の動きを止めている間、リブラが、リバティーソーサーを放った! だが、光の円盤はサバキングの左前腕が盾となって、弾かれた。さらに、サバキングの膂力がヘルマのチェーンを振りほどく。 ジャスティスが弧を描いて地面を走り、ジャンプしてサバキングの背に跳び蹴りを放つ。その衝撃に押されて動いたサバキングだったが、そもそも四輪の脚を持つ安定した体型、倒れることはなくそのまま進んでこちらを向いた。そして、イチゴを輝かせる。 ヘルマが言った。 「あのイチゴが光ると、右腕がドリルになる。わたしに考えがあるの、この攻撃は、しのいで!」 ジャスティスはリブラと顔を見合わせ、ヘルマに頷いた。 向かってきたドリルを左右に分かれてジャスティスたちは、かわす。そして、リブラがソーサーを放つ。だが、やはり、左腕のフルーツソースに、滑るように弾かれた。 再び、弧を描きジャスティスが地面を走る。そして、今度はさらに高くジャンプし、サバキングの後ろ頭を蹴った! 少しばかりよろけたが、やはりサバキングの体勢は崩れない。 サバキングがこちらを向き、右腕を構える。すると、今の間に作業を終えていたらしいヘルマがチェーンをイチゴの根元に投げつけ、一周させて絡めた。そして、チェーンの端を地面に突き刺す。 回転し始めた右腕のイチゴに引っ張られたチェーンの、もう一方の先はサバキングの右後輪の付け根に巻き付けてあった。そのためサバキングの体勢は左斜め前に向けて、崩れる。 突き刺したチェーンの片方が地面から抜けると、そのまま轟音とともに、車道に倒れ込んだ。その衝撃で、根元が括(くび)られ、イチゴが吹っ飛ぶ。 倒れたサバキングに向けて、ジャスティスはガベルを出現させた。ジャンプして一撃を、と思ったとき。
最終話 アストライアの帰還B〜アルゴナウタイ−6
『サバキィィィィング!』 咆哮とともに、サバキングが左腕のフルーツソース状の粘液を空高く、ぶちまけた! 降ってきた粘液は地面に広がる。 「うわっ!?」 粘液のために滑って、ジャスティスはそのまま倒れる。リブラやヘルマも同じく倒れたようだ。 『サバキィィィィング!』 その隙に、咆哮とともにサバキングが左腕を伸ばして起き上がる。 ジャスティスも起き上がる。とにかく、この粘液地帯から離れなければ、身動きがとれない。 「○リキュア・リバティーソーサー!」 リブラがソーサーを放つ。二枚のうち、一枚は跳ね返したがその衝撃で腕が弾かれ、もう一枚はもろに顔面に命中した。粘液がなくなって、滑らせて弾く力がなくなったようだ。 直後、ヘルマの声がした。 「ジャスティス!」 ヘルマがジャスティスの頭上にチェーンを通す。先端が電信柱に絡んだのを確認して、ジャスティスは左手でチェーンを掴み、身をひねって器用にチェーンの上に立つ。すると、今度はリブラの声がした。 「ジャスティス!」 ソーサーが、宙を舞っている。ジャスティスはジャンプして宙で身をひねり、低空にあるソーサーに着地すると、それを足場にしてさらに高空にあるソーサーに乗る。そのソーサーがまるでブーメランのようにリブラの方に舞い戻り、さらに方向を変えてサバキングに向かうと、それを足場にしてジャスティスは空高く跳躍した。 「You are Guilty! ○リキュア・グレートガベル!」 ジャスティスは紫色に輝くハンマーを、サバキングの脳天に振り下ろした。 だが、消滅させることは出来ない。着地する途中でジャスティスは、リブラが張っていたチェーンに降り立ち、それを足場にジャンプした。 「グレートガベルッ!」 下からすくい上げるように、紫色のハンマーをサバキングの胴体に叩きつける。だが、それでも、消滅しない。 着地する途中、リブラが投げてくれたソーサーに乗り、それを足場にジャンプし、ジャスティスは渾身の力で、野球のバットのようにガベルを振り、サバキングの頭部に打ち込んだ! 「○リキュア・グレートガベルッ!!」 ガベルが命中した瞬間、サバキングの体にガベルの命中点を起点にして光のヒビが入り、光の粒子となってサバキングは消滅していった。 着地、というより、ほとんど墜落したジャスティスは、片膝立ちになり、ガベルを杖にして肩で息をした。 「やったね、ジャスティス!」 笑顔でリブラが駆けてくる。その後ろから、やはり笑顔でヘルマが歩いてくる。 ジャスティスも、苦しいながらも笑顔を返したときだった。
「なんだ、もう終わりか?」
突然、若い男の声がした。 その声の主は、二十メートルぐらい上空にいる。青い髪、右が金色の義足。ベレロフォーンだった。そして、その隣にいるのは、赤い髪の若者、イカロス。 イカロスがいかにも不機嫌そうに言った。 「今、来たばかりだというのに、な」 ベレロフォーンがニヤリとして言う。 「なあ、イカロス。せっかく来たんだ、このまま引っ込むというのも、どうかなあ?」 鼻から息を吐き、やはり不機嫌そうに言った。 「そうだな。この街から出られない以上、せめて少しでも面白く、過ごしたいものだ」 「この街から出られない」だの、「少しでも面白く」だの、彼らの言う言葉の意味がジャスディスには理解出来ない。いや、リブラにもヘルマにも、ひょっとしたら理鉈にも理解出来ないのではないか? イカロスが右手を空に掲げる。すると、その手に、強烈な黒いエネルギー球が生まれた。そのエネルギー球は、まばゆい稲妻にも似たスパークを幾筋も伸ばしながら、大きく膨らんでいく。その大きさがバスケットボール大になった頃、イカロスは唱えた。 「εξελιξη,η ΛΑΒυΡΙΝΘΟΣ,ο(エクセリクシ、ラヴィリンソス)!」 イカロスは、エネルギー球を地上に投げつける。すると、そこを中心にして、雷(いかづち)のような光が幾筋も放射される。 まばゆさと衝撃波による突風で、ジャスティスは目を閉じ、腕で突風を防いだ。 やがて突風とスパークが収まり、目を開いたジャスティスが見たのは。 「……こ、これは……。遺跡……?」 道幅は二メートルを少し越えたぐらい、高さは三メートルぐらいあるだろうか。上下左右の四方を黄土色の煉瓦を組み合わせて作ったような通路が、ジャスティスの前後を形作っていた。照明らしいものがないにも拘わらず、明るい。どうやら、この壁自体が発光しているようだ。
最終話 アストライアの帰還B〜アルゴナウタイ−7
慎重に歩くと、やがて直進と左折の二つの分岐点が現れる。左折の方を覗くと、そちらも途中で別の道があるようだ。 「まさか、ラビュリントス……迷宮、なんじゃ?」 そう呟いたとき、左折側から何かが現れた! かわす間もなく、その「何か」がジャスティスに激突する。 壁に背中から激突し、悲鳴を上げて倒れ込んだジャスティスが見上げたのは、ベレロフォーン。 ベレロフォーンがニヤリとする。 「この間、一番、威勢が良かったのは、お前だったように思ったが?」 ガベルを杖にジャスティスは立ち上がる。まだ渾身のグレートガベルを放った消耗から、回復出来ていない。 とりあえず、一旦、退却して体勢を整えた方がいい。しかし、ここは迷宮のようだ。 「……悪いけど、君の相手をしているほど、ヒマじゃないんだ、ボク」 バックステップを踏み、近くの曲がり角に入り、ダッシュする。一歩一歩が重く、エネルギーが脚に吸い取られているような気がする。適当に走ると、轟音がして、壁が破砕された。制動をかけて止まると、もうもうとした土煙の中から、苦鳴が聞こえてきた。 「……もしかして、リブラ?」 ヨロヨロと立ち上がった影は、○ュアリブラだ。 「リブラ!?」 「あ、……ああ、ジャスティス……」 ようやく、といった感じで声を絞り出すと、リブラは近くの壁に背を預ける。そして。 「気を、つけて……」 そう言って、自分がぶち抜いた壁を見る。その直後だった。 おぞましい咆哮とともに四、五メートルほど前方の壁をぶち抜き、何者かが現れる。ジャスティスはリブラを抱え、とっさに飛び退く。ぶち抜いた壁、立ちこめる土煙から、また咆哮が轟く。 煙が収まると、そこに立っている姿を見留めることが出来た。 体高は二メートル越え、筋肉質の巨躯に鎧をまといグレートアクスを手にした怪物。その頭部は曲がりくねった角を持つ牡牛だった。 「ミノタウロス……」 驚き、というより半ば恐怖とともにジャスティスは呟く。 そのとき、背後から自分を追ってきたベレロフォーンの、軽口気味の声がした。 「ここにいたか。いつもながら、ここは迷うよなあ、探すのに、苦労したぜ」 直後、今度は数メートル右手側の壁が破壊された。そして、ヘルマが転がり出る。 「ヘルマ!」 ジャスティスが声を掛けると、ヘルマがどうにか起き上がり、こちらを向く。だが、その向こう側にイカロスの姿が見えた。 「睛さん、逃げて!」 ジャスティスの声もむなしく、ヘルマはイカロスに蹴り飛ばされ、こちら側に転がる。 左手側にはミノタウロス、右手側にはベレロフォーン、正面にはイカロス。背後は壁で天井も塞がれている。 逃げ場など、どこにもなかった。
最終話 アストライアの帰還B〜アルゴナウタイ−8
ラビュリントスの外側から、理鉈は中の様子を探る。だが、まったく探知出来ない。 「みんな……、大丈夫かしら……」 不安と焦燥感だけが、理鉈の全身を駆け巡る。彼女が使える探知魔法は、この壁を突き通せないようだ。それに、使える攻撃魔法の中で最強の威力を誇る魔法光収束弾も、この壁を破壊出来ない。 ふと、自分自身のヴェーダ……○リ・タブレットを制服のスカートのポケットから出す。本当なら、“適性”があるとお告げが下って手に出来た彼女は、○リキュアになれるはずなのだ。 だが、今の彼女は変身出来ない。いや、変身が不可能になったというべきか。 イカロスたちの襲撃があったとき、それはあまりにも突然だったため、ヴェーダは、すべて破損してしまった。先代から継承して一度も変身していない状態のときは、たとえ○リキュアの変身アイテムといえど、破損する怖れがあるのだ。それをトヴァシュトリが修繕している間に、ダンザインの三人がイカロスたちを追い払った。 安堵したのもつかの間、今度はダンザインの三人によって、人々が正義面の怪物・セイギズラーへと次々に変貌を遂げた。 そこで人々の心を護るため、理鉈は「アラヤの秘法」を使ったのだ。 そもそもアラヤの一族は神官の一族。様々な秘儀が伝えられているが、その中に壊れそうな人々の心を、術者の中に待避させて護る、というものがある。次々に怪物化していく人々の心が本当の怪物になってしまわないように、理鉈は最奥儀の一つを使ったのだ。 しかし、それには同時に術者に、重大な事柄に対しての決定権がなくなってしまう、という反作用があった。人々の意識が内在するため、彼らの意思を統一しなければならないのだ。それ故、理鉈は大きな魔法や各種秘儀が使えず、また○リキュアにも変身出来ない。
百人いたら、その全員が○リキュアになりたいわけじゃない
まさに、彼女の中にあるほとんどの“意志”は危険の伴う○リキュアになど、なりたくない、と思っているのだ。 もっとも、トヴァシュトリの言葉から判断する限り、何か特別なファクターがなければ変身出来ないようだが、先代の○リキュアは七代も前の先祖であり、確認する術はない。 地響きがし始めた。どうやら、ラビュリントスの中で何かが起きたらしい。 「みんな……」 こんなとき、何も出来ない自分がもどかしく、悔しい。涙がにじんできたとき、理鉈は天に向かって叫んだ。 「みんな! お願い! 力を貸して! みんなの気持ちは分かってる! でも、今は私に協力して欲しいの!」 頬を伝った涙が、ヴェーダに落ちた、その刹那!
“汝、天則を護る者か?”
「え?」 どこからか、声がした。
“汝、掟を護る者か?”
また声がする。
“汝、悔悟せし者を許す者か?”
“声”はヴェーダからしているのが分かった。 その言葉に、理鉈は頷いていた。 「はい。私は、天則を護る者、掟を護る者、悔悟せし者を許す者です」 直後、ヴェーダがまばゆく輝き始めた、金色(こんじき)に。 そして、理鉈は理解した。己の中にいる者たちが、協力してくれたことを、そして、○リキュアへの変身方法も。 理鉈は右手にヴェーダを持ち、左手を開いて空に掲げ、叫んだ。 「○リキュア・ジャッジメント!」 頭上、三メートルのところに金色の光点が生まれる。 「ヒラニヤガルバ!」 そのキーワードで、光点が、ひと一人が入れるほどの大きな金色の卵になる。その卵が降りてきて、理鉈の体をその中に囲う。卵の中で水流が起こり、理鉈の服装が替わっていく。 やがて卵が割れ、中から、あふれる水流とともに、○リキュアになった理鉈が現れた。オレンジ色のスーパーロングヘア、金色の衣、パールホワイトの長手袋、黒いベルト、金色のミニ丈のエンベロープスカート、パールホワイトの膝上のロングブーツ。 理鉈が宣言した。 「我はリタ(天則)を護る者、ヴラタ(掟)を護る者! 法を司る、黄金の○リキュア、○ュアヴァルナ!」 リタは理解した。○リキュアになるためには、ヴェーダの声を聞き、一体となることが必要だったのだ。 だが、それだけでは不十分。ヴェーダに己の心を見せなければならない。 それが、今の場合、リタの涙だった。歴代の○リキュアの中には、血を垂らした者もいたようだが、普通は口づけでいいようだ。それも伝わってきた。 ヴァルナは壁に手を当て、「念」を送った。
“みんな、聞いて。今からみんなを救い出すから!” 一同から、やや弱々しいながらも、了承した意識が届く。 その状況に早くしなければ、と、急きながらヴァルナはエネルギーを左手に収束させる。そして。 「○リキュア・アパスパーサム!」 左手から水流で出来た縄が現れ、ヴァルナはそれをラビュリントスの壁に打ち込む。何の苦もなく壁を貫き、縄は迷うことなく迷宮を進んで三人を絡め取る。 それを確認し、再び念をかける。すると、中で縄だった水流がところどころ刃のようになって壁を斬り裂き、外壁を砕いた。 三人がヴァルナの足下に転がる。 弱々しい声でジャスティスが言った。 「あ、ありがとう、リタかいちょ……。……え?」 そして数瞬の間を置き、 「えええええッ? ちょ、ちょっと待って、リタ会長だよね? えっと、○リキュア……? それに、こう言ったら失礼だけど、目がパッチリ開いてる……?」 リブラもヘルマも驚いている。 微笑んで頷き、理鉈は言った。 「私の名前は○ュアヴァルナ。ごめんね、遅くなって」 そして片膝をつき、ジャスティスを優しく抱擁する。ジャスティスも、抱き返す。 「ヴァルナがそんなことを思う必要ないよ? 有り難う、助けてくれて」 しばらく抱き合った後、ヴァルナはジャスティスに手を貸しながら立ち上がる。ラビュリントスの壊れたところから、イカロス、ベレロフォーン、そして牛頭人身の怪物が出てくる。察するに、ミノタウロスか? こちらの世界に来たときにギリシャ神話の本も読んだが、ラビュリントスはイカロスの父・ダイダロスがミノタウロスを閉じ込めるために造ったものだそうだ。となると、案外、イカロスもベレロフォーンも本当に神話の存在なのかも知れない。 消耗しているジャスティスを下がらせ、ヴァルナは拳を構える。リブラとヘルマも、それぞれソーサーとチェーンを手に、ファイティングポーズをとった。 ベレロフォーンがニヤリとして、面白そうに言った。 「おいおい、一人増えてるじゃないか」 イカロスはつまらなそうに言う。 「まったく、いい加減にしてくれ」 そして、イカロスたちも向かってきた!
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