美郁(みいく)たちは理鉈と睛(しょう)が住んでいる家に集まり、スマホ越しにトヴァシュトリも交えて、ミーティングしていた。トヴァシュトリも交えたのは、「報せておきたいことがある」と彼女から連絡があったからだ。 スピーカー状態にした理鉈のスマホからトヴァシュトリの声がした。 『例のサイトなんだけど。誰が作ったか、なんていうのは、さすがに民間じゃ調べられないしプロバイダに情報の開示請求も出来ないんだけど、別のウィルスを仕込んで情報を取ってみたの』 睛が右の肘をテーブルに突き、右手を額に当てて、目を閉じて苦々しい表情になり、ため息をつく。美郁も同じ心境だ。 希依(けい)が困惑した笑みで理鉈に言った。 「リタ先輩、トヴァシュトリさんには、いろいろと教えておいた方がいいと思います」 理鉈が苦笑する。 「今回だけ、大目に見てよ。……で、何か、わかったの?」 『ちょっと妙なんだけどね? さっき言ったウィルスを使って、こちらで用意した、位置情報特定用のダミー・アドレスのリンクを踏ませるように、「問い合わせ」なんかを利用して何度か連絡を取ってみたんだ。そうしたら、相手の位置情報はそちら……佐波木市にあることがわかった』 一同の間に、衝撃が走る。 『さっきも言ったように、個人あるいは法人の特定は出来ない。わかるのは、位置情報だけ。偶然かも知れないけど。……何か分かったら、また連絡するわ』 そして、通話を終える。 理鉈が腕を組んで言う。 「佐波木市って言っても、広いから。それに、ただの偶然だろうし、今さらそのことを話してもしょうがないから、先に話を進めよう」 美郁たちが頷く。そして、まず美郁が聞いた。 「イカロスとかベレロフォーンっていう、あの二人について、教えてもらえないかな?」 頷き、理鉈が話す。 「私たちにも、詳しいことはわからない。ある日、ヤツらは何の前触れもなく、やって来た。何かを捜してたみたいだったな。あの羽根があったでしょ? ヤツらは、その羽根を色んな動物に刺して、空を、陸を、そして海を探索していた。その過程でのヤツらの行動は、まさに破壊活動だったわ。そのあとは、この前も話したとおり、ダンザインの三人がヤツらと戦って、追い払って。でも、そのあとに……」 しばし、空気が沈んだ。 ややおいて、希依が口を開く。 「唐突っていうか、いきなり変な話をするんだけど、あの二人が捜しているのって、『翼』じゃないかしら?」 美郁たちが希依を見る。希依は話を続ける。 「あくまで神話通りだとしたら、の話だけど。イカロスもベレロフォーンも、天へ昇ろうとした。イカロスは翼がバラバラになって墜落して、ベレロフォーンは翼のある天馬ペガサスから墜落して、片脚が不具になった。……まあ、そんなことがわかっても、何の意味もないんだけどね」 バツが悪いのか、希依の声はだんだん尻すぼみになる。 確かに、連中の目的が分かったところで、何の意味も無い。仮に「翼」が目的だとしても、それが何なのか、どこにあるのか分からないのでは、あの二人との交渉がそもそも成立しない。 次に、睛が言った。 「あいつらの戦力なんかが、詳しく分かるかな?」 理鉈は首を横に振る。 「わかるのは、あの羽根を使っての生物兵器、そして異常に高い格闘能力や、超常能力。早い段階でダンザインの三人が、私たちの目に入らないところを戦場に設定したから、他にも戦力があるのか、それはわからない」 「それだけでも、とんでもないことだね」と、美郁は呟く。 そして改めて美郁は言った。 「もし、またヤツらが現れるとしたなら。全力で、戦うしか残されてないってことだよね、ボクたちには!」 その言葉に、一同が頷いた。
夜。 入浴を終え、美郁は自室のベッドに座り込んで、○リ・タブレットを見ていた。 「○リキュアの強さって、どこから来るんだろう? ダンザインたちが思うように、正義感から? それとも、肉体的な強さ? 何にしても、このままじゃ、あの二人には対抗出来ない。もしまた、あの二人が現れたら……」 しばし考え、結論が出ないことを悟った美郁は、ため息をついてベッドに仰向けに寝転んで天井を見た。 「ケイちゃんたちと力を合わせれば、きっとなんとかなるよね」 そう、呟く。 祈りにも似た思いで。
だが、美郁たちの知らないところで、静かに異変が起きていた。 破壊されたサバキングの残滓、その粒子は宙を舞い、何百人かの街の人々に取り憑いていたのだ。 取り憑かれたほとんどの者は、何の異常も示さないうちに、その粒子は消滅したが、何人かの者は……。
「おうコラ! 俺はこの街一番のDoTuberやぞ!? 俺に目ェつけられたら、こんな小さな中華屋なんか、すぐに潰れてまうんやぞ!? わかったら、チャーシュー麺に虫が入っとったことの誠意、見せんかい!!」
「ふうん。ここのスイーツショップ、評判ほどじゃないなあ。え? 私? 私はネットで超有名なスイーツ評論家だけど?」
「この投稿小説、設定に新鮮さはなく、文章も凡庸、展開もありきたりでキャラクターにも魅力がない。私は、この小説評価サイトの運営者として、この小説の判定は、最低のE判定とする。悪いことは言わないから、コンテストに投稿することは、やめなさい。絶対に賞は取れない」
深夜、電源の入った、たった一つのパソコン画面のみが照明となる、事務室の中。 窓から街並みを眺めながら、右手に持ったスマホで右肩を軽く叩く仕草をしながら、笹可児 亜羅祢(ささかに あらね)は低くくぐもった笑い声を立てた。 「フフフ……。思った以上の効果があったわ。どうせ、明日の朝には元に戻ってるでしょうけれど、いいヒントが手に入った。人間たちの自意識を『外向き』に刺激してやれば、……プロテウスを覚醒させてやれば、たちまちこの世界は大混乱。『ハラスメントのまとめサイト』は何故か途中で使えなくなったけど、また別のサイトを作ればいいだけのこと。フフフ……、アアーハッハッハッハッハ!」 一人、亜羅祢は高笑いをした。 窓ガラスに映るその顔は、明らかに人間の“それ”ではなかった。
プロテウス。それは、ギリシャ神話に登場する海の神にして、変身を得意とする神。そこから転じ「オンライン内のアバターの外見が、ユーザーの外向性や行動などに影響を与えること」を「プロテウス効果」という。これを応用して、ビジネス上でコミュニケーションなどに活かすという手法がある。
しかし、もしそれが「ネット内の過剰な自意識」の発露に繋がってるとしたら?
(○リキュア Psy! Bang! Shock! 第七話・了)
※侮辱罪と名誉毀損罪の違い。「うわ、気持ち悪い」や「脳が腐ってる」のような抽象的で、ぶっちゃけその人物を具体的に表しているといえない場合が侮辱罪、「やっぱり片親だと、常識に欠けるな」など、具体的な状況などを指摘して中傷している場合が「名誉毀損罪」。
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