「ほう? 面白そうなことをやっているじゃないか」
突然、若い男の声が空から降ってきた。 ジャスティスたちが見上げると、そこには四階建ての建物の屋根に立つ、二人の青年。一人は赤茶けた短髪、優男風の青年。もう一人は青い長髪、ややワイルドな印象の青年。この青年は、右脚がその付け根から黄金の鎧で覆われている。 二人とも、どこかギリシャ神話本の挿し絵風の服をアレンジしたような、エキゾチックな装束だった。 「お前たちは!!」 青年たちに向かって、理鉈が叫んだ。そして、どこかに身を隠していたらしいミス・テイクも二階建ての建物の屋根に現れて、険しい表情で叫んだ。 「この世界に来たの!?」 ヘルマが聞いた。 「何者なの、リタちゃん?」 理鉈が奥歯を噛みしめるようにして苦々しそうな表情をした後、眉間にしわを寄せたままジャスティスたちを見て答えた。 「赤い髪の若者がイカロス、青い髪の若者がベレロフォーン……。私たちの故郷を、メチャクチャに踏み荒らしたヤツらだよ……!」 リブラが目を見開く。 「え!? イカロス、ベレロフォーンって、ギリシャ神話の!?」 イカロスとベレロフォーンなら、ジャスティスも知っている。曰く、蜜蝋で組み合わせた翼で空を飛んだものの、太陽に近づきすぎて蜜蝋が溶け、翼がバラバラになって海に墜死した。曰く、天馬ペガサスを駆り、数々の武功を上げて英雄と讃えられたものの、神になろうとして天を目指し、ペガサスから墜落して脚を引きずり、諸国をさすらって哀れな最期を遂げた。 ふとジャスティスは呟いた。 「そうか、あの金色の鎧って、もしかして義足なのかな?」 これは、ジャスティスの先入観だが、もし神話が正しいとしたなら、ベレロフォーンのあの右脚の鎧が義足だとしても、不自然ではない。 ベレロフォーンが嘲るような笑みを浮かべ、言った。 「そうだ、もっと面白くしてやろう」 先刻とは違う声だ。ということは、先の声はイカロスのものか。 二人が、それぞれの手に何かを出現させる。 それは、一片の羽根。イカロスの物は金色、ベレロフォーンの物は銀色だった。 そして二人がその羽根をセイギズラーに投げつける。 その羽根がセイギズラーの額に、重なるようにして刺さった次の瞬間! 羽根がセイギズラーの頭部を、右に左に羽根を生成しながらなぞるように動いたかと思うと、そこに金色と銀色の羽根を交互に組み合わせて作ったかのような王冠が現れた。そして中央部分に真っ赤な宝石が現れて輝く。 セイギズラーが身を震わせ、徐々に巨大化していった。それに合わせて体のデザインも変化していく。突起が現れ、体のパーツも歪に変化する。 十メートルほどの大きさになったとき、巨大化が止まる。そして、セイギズラーが吠えた。 『サバキィィィィング!』 ジャスティスは聞こえた音を、解釈して呟く。 「サバキング……? 裁きの王、か。出世したものだね、王様なんて」 嫌な汗が流れるのを感じながら、ジャスティスは口元に笑みを浮かべてみせるが、完全な虚勢だ。 この怪物体から感じるのは、セイギズラーをしのぐ威圧感、そして脅威。戦えば、まず間違いなく敗ける。
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