そのとき、咳払いをしてヘルマが起訴状の朗読を始めた。 「公訴事実。本件被告人は立場を利用し、執拗に原告に無理難題を押しつけ、出来ないと罵倒した。罪名及び罰条、名誉毀損・刑法第二三〇条第一項、……本件被告人は、執務室内において職員の前で、原告を『脳足りん』と幾度となく罵り、嘲笑した。罪名及び罰条、侮辱罪・刑法第二三一条、……本件被告人は、○×食品カスタマーセンターに執拗に架電し、その中でも特定のオペレータに対して偏執的ともいえる……」 「ねえ、ジャスティス、今回かなり様子が変だわ」 「そうだね。このセイギズラー、いろんな人の集合体をいちいち再現しているみたいだ。さっきの衝撃波、ものすごく気持ちが悪くて痛くて苦しくて。多分、ハラスメントだと思うけど、どうしてこんな一斉に……?」 ジャスティスが首を傾げたとき。 「ジャスティス! リブラ!」と、理鉈が駆け寄ってきた。 「これ! この裏サイト!」 そう言って見せたスマホの画面にあるのは。
『ハラスメントまとめサイト 怨みを晴らすMEeeeeeN!』
黒い背景に墓石のようなもの、ロゴは赤く、ところどころに絵の具の塊を叩きつけたような、爆ぜた赤い飛沫がある。 「なんだい、これ!?」 驚いてジャスティスが問うと、理鉈が困惑したように言った。 「多分、こういう感じでまとめたものがあるんじゃないか、って思ってチェックしてたんだ。いろいろと試して裏サイト見つけたら、ビンゴ! 今、ヘルマが朗読しているような罪状が書き連ねてある。それだけじゃないの! これ見て!」 理鉈が画面をスクロールしていく。ハラスメントの「訴状」のあとに、コメント入力欄があり、そこにたくさんの書き込みがあった。理鉈が画面更新するたびに増えているから、リアルタイムで書き込みが増えていることになる。 そして、その書き込みは、法律の専門家や評論家を気取ったものから、無責任な放言など、おそらく実名で顔を映しながらだと決して口に出さないだろうと思われるような、幼稚かつ屁理屈をこね回した、要は罵詈雑言だ。 そのとき、高笑いがしてミス・テイクが言った。 「誰が作ったのかわからないけど、便利なサイトよねえ。おかげで強力なセイギズラーが生まれたわ。さあ、どうするの、○リキュア? あなたたちの正義は、どう裁くのかしら?」 直後、セイギズラーが吠え、ドス黒い衝撃波を吐き散らす。 それをジャスティスは横飛びに跳んでかわし、リブラはソーサーで自分と理鉈をかばう。 「ねえ、もういいかな、キリがないんだけど!?」 ヘルマの泣きそうな声がした。 見ると、被告人の数が前よりも増えている。数えてみたら、二十五体いた。 「うわあ……。本当にどうしよう……」 今回は正直なところ、厄介だ。このサイトがある限り、マナサマーヌは生まれ続けるだろう。それは言うならば、セイギズラー本体の大部分を構成する「正義中毒」にかかった人々のマナス……意志エネルギーが充填され続けるということでもある。 終わりのないマラソンだ。 理鉈が言う。 「サイトを閉じるしか、ないだろうね」 衝撃波がやんだのでソーサーを消したリブラが聞いた。 「出来るの、そんなこと?」 「トヴァシュトリなら、あるいは……。でも、彼女、こっちのシステムをどこまで理解しているか……」 しかし、やらぬよりは、やった方が得策と判断したようだ、理鉈はトヴァシュトリに電話をかけた。 繋がった段階で、理鉈がスマホをスピーカーモードにして、経緯を説明する。セイギズラーと闘いながらだから、断片的にしか聞こえなかったが、大体、こんな感じだった。
「……というわけなんだけど、出来るかな?」 『OK。バックグラウンドに、こっちで作ったニセのアドレスに誘導するようにする、ウィルスを仕込むのがイイと思う。そうすれば、それ以降は増えないはず。ただ、作り置きのウィルスの中に該当するものがないの。手持ちのヤツを改造する時間が欲しいな。五分でイイから、時間稼いでくれる?』
「作り置き!? ボクの聞き間違いじゃなかったら、この人、『作り置きのウィルス』って言ったかな!? コンピューターウィルスって、作り置くものなの!?」 理鉈が笑顔になる。 「まあまあ。いやあ、まさか、ここまで順応してるとはねえ。嬉々としてコンピュータウィルスを作ってるところが、想像出来るわ、容易に」 「まさか、それ、あちこちにバラまいてないよね……?」 こっちのシステムを試したくて、変なことをやらかしてないか不安でならないが、今はセイギズラーと、セイギズラーに集まってくるマナスに対処する方が重要だ。 ジャスティス、リブラ、ヘルマの三人は頷き合い、セイギズラーと戦った。
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