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作品名:○リキュア Psy! Bang! Shock! 第六話 作者:ジン 竜珠

第5回   第六話 アクタイオンの冤罪……?−5
 ミークと上崎は校舎前にある花壇のところで話をしていた。といっても、主に、上崎の方が喋っているが。
「この連休、僕は隣の県の親戚の家に、泊まりがけで遊びに行ったんだ。そこは山の麓にある町で、山の方に行って、同い年の従兄弟や近所の子どもたちと釣りとか、川遊びとかやって遊んだんだ。とっても楽しかった。でも、その夜、僕たちが眠ってた真夜中……」
 そこで、上崎は息を飲み込む。
「泊まっていた親戚の家が火事になった。僕や、叔父さん叔母さんはなんとか逃げ出せたんだけど……」


『ハァハァ……。大丈夫、紀矢(のりや)くん?』
『うん、僕は大丈夫だよ、叔母さん。……あれ? ゆっくんは?』
『え? 幸春(ゆきはる)? さっきまで、そばにいたのに!? お父さん、幸春は?』
『あの燃えている柱の向こうだ! 家の中にお母さんの形見を取りに戻った! 今は、火が強くて行けない!』
『え!? 幸春、幸春ーッ!!』
『ねえ、消防車はまだなの!?』
『サイレンは聞こえてる! もうすぐ来る!』
『あ! 叔父さん、火の中に飛び込んだら危ないよ! ……誰か、誰か、助けて!! ……そうだ、周りにいるみんな、助けて!! ……な、なんだよ、なんで、スマホとか向けてるんだよ……。なに撮ってるんだよ、そんなことしてるぐらいなら、助けてよ! ゆっくんを、叔父さんを助けてよ! ねえ!!』


「そのあと、消防車が到着して火を消してくれて。叔父さんは火傷で助かったけど、ゆっくんは……」
 話の内容に、美郁は言葉がない。
「ゆっくんは、おばあちゃん子で、去年、亡くなったおばあちゃんの形見を、宝物にしていたんだ。火事のときにそれを取りに戻って、そのまま助からなかった」
「そうなんだ……」
 寂しげな表情で息を吐き、上崎が美郁の方を見る。
「朝方、避難所代わりに泊まった旅館のテレビで、あの火事のニュースを見た。家が燃えている映像に『視聴者提供』っていう字が入ってたよ。あの燃え盛る炎の中で、ゆっくんは死んでいったんだな、って思ったら、この動画を提供した『視聴者』っていう奴に対して、怒りが湧いてきた。こんな動画を撮っている暇があったら、何か出来たんじゃないのか、何のつもりでこんな動画を撮って、さらしものにしたんだ、って。今思えば、あの火の勢いじゃ、誰にも何も出来なかったと思うけど、ニュースを観て泣いている叔母さんのことを思うと、本当にどうしようもないぐらいの怒りが……」
 想像するだけで、胸が苦しくなる。美郁にはこのような体験はないが、いかに相手の心情を慮(おもんぱか)るかという共感力が大事なのだ。
「四方さん、いつだったか、火事の動画を見ている連中に注意をしたよね?」
「うん」
「あのとき、ちょっと離れたところで、そのやりとりを見ていたんだ。正直に言う。あのときは、『何言ってるんだ』って思った。『そんなの、どうってこと、ないじゃないか』って思った。『親が法律関係者だからって、難しいこと言うな』とも思ったな。でも、当事者になってみて、初めて君の言うことがわかった」
「ボクは、君のように辛い体験はしたことがないよ」
 美郁の言葉に、上崎はゆっくりと首を横に振る。
「今なら、四方さんの言葉が、僕の心に勇気をくれるんだ。『わかってくれる人がいるんだ』って」
 そして柔らかな笑みを浮かべる。
 上崎の、やや寂しげな笑みに、美郁は少なくとも一人には、自分の思いが伝わったことに胸が温かくなるのを覚えた。


 夕刻。
 ある建物の屋上で仰向けに寝転び、ブランダーは夕空を眺めて呆けていた。
「あー……。遠山さんは本当に大酒飲みだからなあ。臨時就任のときの『プチ歓迎会』で、思い知ったわ〜。大岡判事とか他の職員も、あの人から逃げるの、うまいよ。……う〜、まだ頭が痛ェ……。二日酔いだわ、完全に。三軒目以降は、覚えてないし。今日は何にも出来なかった。なんで、あの人、普通に仕事が出来るんだ? ほんとに人間か、あの人? あ〜、今日も、帰るか……、ってわけにもいかないわなあ。○リキュアたちが本当に正義の執行者なのか、確かめなきゃだし。ついこの間も、新たな○リキュアが現れたっていうし。……なんで、この世界じゃあ、サイ・バーンの力が使えないんだ? アレさえ使えたら。そうしたら、『ヒボウ』が三人の間でランダムにリレーションされるということもないんだろうに。そしたら、今回はミス・テイクにブン投げるのになあ」
 今日は、どうにも調子が悪い。明日以降にしよう。そう思って起き上がったとき。
「……あ? なんか、あるな? ……もういいや、あれで」
 あぐらをかいたまま、ブランダーは右手を顔の位置まで上げて、言った。

「え〜。……我こそ正義、我こそ真実、……悪を裁け、……え〜っとなんだっけ……。ああそうそう、……罪を裁け。悪は断じて許さず。来い、セイギズラー」

 ブランダーの掌から文字の連なりのようなモノが出現し、不規則な点滅をしながら、空間をフラフラヨロヨロとさまよい、街の雑踏へと吸い込まれ、そこからまたヒョロヒョロとどこかへ流れて行った。
「これでよし。どこかへ行ったが。……まあいいかぁ、今日は、もう撤収。データの分析は……。どうでもいいや」
 そう言って、ブランダーは姿を消した。


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