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作品名:○リキュア Psy! Bang! Shock! 第五話 作者:ジン 竜珠

第9回   第五話 シシュフォスの大岩−9
「○リキュア、ジャッジメント!」
 キーボードの「H」「E」「R」「M」「A」「ENTERキー」を入力する。すると、睛自身が光に包まれ、画面の表示も変わった。
 そこに映し出されていたのは、司法の女神・テミス。その中で、テミスの左手にある天秤の上皿を吊している鎖が光を放つ。睛はペンでその鎖をスワイプする。直後、その鎖は画面から引き出される様にして飛び出し、睛の周囲でグルグルと旋回を始める。その中で睛の身なりが変わっていく。白とピンク色の混在する服、同じく白地で胸の部分に水色でラインの走ったジャケットを前開きで着込み、白をベースに外側にスリットのあるスラックス。そのスラックスのスネ部分は、右は水色、左はピンクで色分けされている。両手には白いオープンフィンガーグローブ、そのグローブの甲にはアクアマリンで出来たような正六角形の結晶体があった。履いているのは、白いショートブーツだ。
 ボブヘアは硬質感を伴って真っ直ぐ伸び、左右に分かれて六十度の角度で展開し、翼に似たシルエットを作る。その髪には水色やピンク色のラインが混在している。そして、白縁のゴーグルを前頭部に引っかけた。
 宙を舞っていた鎖がメタリックな水色になって、上半身に両肩からのたすき掛けとなってXの形になり、発光した。
 最後に胸の中央に、直径三〜四センチほどの、秋霜烈日の検事バッジと同じ、白銀に輝く花弁を四方向に開いた菊の花が現れる。その中央には、情熱を表すようにルビーがあった。
 ベルトの右腰にあるポーチに手帳を収納し、左腰の鞘にペンを挿し込む。ペンを挿すと鞘から鍔を思わせる二本の角のように、金色のパーツが起き上がる。
 光が消えると、睛は右腕を前方に上げ、宣言する。
「秋の霜、夏の日射しのように、厳しくおごそかな意志を持ち!」
 そしてその手を胸の前で強く握りしめる。
「確かな睛(ひとみ)で犯罪の事実を暴く検察官」
 ポーズをつけて宣言した。
「○ュアヘルマ!」

 ヘルマはジャンプし、ジャスティスの隣に立つ。それに気づいたジャスティスとリブラが驚き、口々に言う。
「あ、あなたは!?」
「え!? ま、まさか、睛さん!?」
 そしてジャスティスが「あること」に気づく。
「そんな……! あなたは……!?」
 それに笑顔で応え、ヘルマはセイギズラーを見た。
「わたしは○ュアヘルマ。被告人が召喚できないのね?」
 すぐに状況に適応したのだろう、ジャスティスが応える。
「うん。そもそもあのセイギズラーが何を訴えているのか、わからないんだ」
「そう。……任せて、わたしは検察官、今から原告の代わりに被告を起訴してあげる!」
 セイギズラーが小刻みに震え、衝撃波を放ってくる。それを左右に分かれてかわすジャスティスとヘルマ。
 宙で反転し地面に両手をつくと、そのバネを使って空高く舞い上がり、髪の翼で風を受けてセイギズラーの背後に回り込む。セイギズラーが反射的に振り返るタイミングを狙って、ショートレンジの飛び蹴りを放つ。
 吹っ飛ばされるセイギズラーを確認し、二人にアイコンタクトする。
「ジャスティス! リブラ!」
 二人が頷き、吹っ飛ばされたセイギズラーに左右から駆け寄る。そして、リブラはセイギズラーの右腕を取り、ジャスティスは左腕を取る。そして「せーの!」と二人で声を合わせ、同時にセイギズラーの膝裏を蹴って膝を折らせ、腕と肩を押さえてセイギズラーの動きを封じた。
 ヘルマがプリ・タブレットを手にし、起訴状を喚び出す。そして朗読に入った。
「公訴事実。本件被告はネットの掲示板を使用し、執拗に、または拡散希望と称して原告の人格をおとしめんとし、事実、おとしめたものである。罪名及び罰条、名誉毀損、刑法第二三〇条」
 そしてタブレットに「PROSECUTION(起訴)」と打ち込む。すると、ヘルマの上半身のチェーンが光を放ち、緩んだ。自動的に頭の上にあるゴーグルが下りてきて目の前に来る。その視界に、セイギズラーのスマホの中で隠れながらも蠢く被告人が、ハッキリと表示されていた。チェーンを右手で引き出し、セイギズラーの胸のスマホに撃ち込む。
「出てきなさい、被告人!」
 怒りとともに叫ぶと、ヘルマは両手で力一杯、チェーンを引っ張る。セイギズラーが大きくのけぞり、ジャスティス・リブラがそれを力一杯支えた。
 コミカルなカリカチュアの様にスマホの画面が盛り上がり、そこから等身大の白い人影が引っ張り出されて、アスファルトの地面に転がった。
 ジャスティスが人影に言う。
「被告人。今の検察官の起訴状ですが。罪状について認めますか?」
 水色に光る鎖に絡められたまま、人影が起き上がる。
『バカを言っちゃいけないよ! 僕は真実を言ったまでだ! 真実を言って何が悪い!? アイツらは、この国にとって、ダニだ!』
 と、人影がセイギズラーの方に頭を向ける。だがヘルマが反論する。
「あなたがやったことが、どれだけ原告の社会的立場をおとしめたか、それ以前にその心を! どれほど傷つけたか、わからないんですか!?」
 私情が入らないように心がけたつもりだったが、それでも入ってしまった。まだまだ未熟だと思いながら、ヘルマは続ける。
「原告の人権に根ざすことを、あたかも社会悪であるかの様に指摘するということが、どういうことであるのか、思い至らなかったのですか?」
 被告人のマナサマーヌが、変わらぬ態度で言う。
『知ったことか。僕はこの国にとって、いいことをしたんだ。そうだ、僕こそが正義なんだ。……なんで被告人として責められないとならないんだゴルゥア!!』
 マナサマーヌが身を震わせ、チェーンの戒めを振りほどこうとする。そして。
『こいつらはなあ、この国の法律すら混乱させたんだ……!』
 と、ネットに書き込んだ内容を、次々と吠え散らかす。
 痛む頭を押さえ、怒りも抑えながらヘルマはジャスティスを見た。
 ジャスティスも苦虫を噛みつぶした様な表情で頷く。ジャスティスが次のステップに行く、そう思ったが、それと同時にマナサマーヌが吠えた。
『僕は、この国のために、こいつらを糾弾し続けるぞ! ヒャアッハハハハ、ハ!? ……!? セ、セセ、セセセセセセセセセセセセセセセ』
 マナサマーヌが小刻みに、そして不規則にブルブルと震え始めた。
 それを見たリブラが訝しげに首を傾げる。
「……何?」
 ジャスティスも言った。
「さあ?」
 ヘルマも何が起きたか、わからず、ただ見ていることしか出来ない。
 三人が見ている中で、マナサマーヌが吠えた。
『セイギズラァァァァ! 僕が世界で一番、ものを知ってる! 一番、頭がいいんだぁ!! だから、僕は正義を執行する! この国のために!』
 何やら、薬物でもキメたかのような演説を始めたかと思ったら、その姿が変容を始める。
 いったい、何が……と思った瞬間。
「やかましい!」
 そんな声がした方を見ると、ティアラにある五つの宝玉を輝かせ……というより、宝玉から光を迸らせて、怒りのオーラをまとわせたジャスティスがマナサマーヌを睨んでいた。かと思ったら、爆音とともにジャスティスが空へ向かってジャンプする。
「You are Guilty! ○リキュア・グレートガベル!」
 そして、怒気を孕んだ声が、空から降ってきた!
 紫色の光を振りまくハンマーで、ジャスティスが変容しかけた被告人のマナサマーヌを打ち砕く!
『グギャァァァァァァ!!』
 悲鳴とともに、マナサマーヌは光の粒になって消滅する。
 ハンマーを打ち下ろした体勢のまま、ジャスティスは動かない。
 なんだろうと思っていたら、頭だけをギギギと、こちらに向け、ジャスティスが言った。
「……弁護人の最終弁論、忘れちゃった……。ごめん……」




 リブラが苦笑とともに右手をヒラヒラさせて言った。
「いいっていいって」
 セイギズラーがゆっくりと立ち上がる。
 もう戦闘意欲のないことが、数メートル離れていても、ヘルマには分かった。
 そして、何をするでもなく、セイギズラーは光の粒となって消えていった。
 消える瞬間、こちらを見てお辞儀をしたように思ったが、ヘルマの気のせいかも知れなかった。

「これにて、閉廷! ……で、いいの、これ?」
 ジャスティスが、恐る恐るハンマーを地面に打ち付けた。
「コン!」と、小さな音がした。


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