朝食を済ませ、着替えを終えると、睛は言った。 「じゃあ、理鉈ちゃん。わたし、『アリシア・マティ』に行ってくるわね。ああ、お昼、何か買ってこようか?」 そう言うと、理鉈が笑顔で応える。 「今日、佐波木東高校でイベントがあるの。そっちに遊びに行くから」 「イベント?」 「うん。東区の自治会全体が、ゴールデンウィークに佐波木東高で東町祭(ひがしちょうまつり)をやるの。佐波木東町が佐波木市と合併する前から、ずっと続いているんだって。ミークちゃんのお兄さんが通ってる高校で、ミークちゃんも参加するっていうから」 「そうなんだ」 知らなかった。用事が終わったら、行ってみようか。 そんな風に思って玄関に向かうと、ちょうどインターフォンが鳴った。 「はい、大羽(おおう)ですけど」 画面に映っているのは、眼鏡をかけ、耳上で髪を結うラビットスタイルのツインテールにした少女。高校生ぐらいだろうか。 『あの、私、理鉈ちゃんの知り合いで、トバという者ですけど』 「理鉈ちゃん、トバさんっていう、お友達」 声をかけると、キッチンから理鉈が出てきてドアを開ける。 ポシェットを肩から提げた少女がお辞儀をして言った。 「初めまして。ワタシ、斗刃 朱鳥(とば しゅとり)っていいます」 「おはよう、いらっしゃい」 笑顔で言ってから、睛は出かけた。
キッチンに朱鳥を通し、紅茶を用意しながら理鉈は言った。 「もしかして、出来たの?」 「うん」 テーブルに茶器を持っていくと、朱鳥がポシェットから手帳のようなものを出した。 「君のヴェーダだ。残念ながら、あの三つのように完全な復元は出来なかった。やっぱり、このヴェーダには、特別な『何か』があるんだと思うよ?」 「ふうん」 理鉈は手帳様のアイテム……ヴェーダを興味とともにしばし眺める。だが、それも落胆の意識にとってかわられた。 「でも、私は……」 「アラヤ一族の秘法、その影響だね?」 「うん。だから、私じゃ○リキュアには、なれないわよ?」 「そんなの、やってみなきゃ……!」 言いかける朱鳥を制し、理鉈は言う。 「例えば百人いたら、その全員が○リキュアになりたいわけじゃないんだよ、トヴァシュトリ?」 その言葉に朱鳥……トヴァシュトリは、なんともいいようのない、微妙な息を鼻から吐いて、苦い表情になる。 「まあ、そんな顔しないでさ、あとでちょっとつき合わない?」 「つき合うって?」 きょとんとしたトヴァシュトリにリタは笑顔を向ける。 「○リキュアの一人がいるの。会わせたいんだ」 トヴァシュトリは、一瞬「?」を顔に貼り付けたが、すぐに事態を飲み込んだ様で、笑顔で頷いた。
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