だが。
『あいつ、犯罪者だったんだ』 『謝罪会見やれー!』 『犯罪者のくせに、これまでいろんな動画を配信してたのか』 『犯罪者なのにDoTuberで有名になるなんて、この国も終わりだな』 『犯罪者は、牢屋に入ってろ』
相変わらず、あとから出現した文字は騒がしい。 それを見ていて、ジャスティスが大きく息を吐く。 「ジャス……ティス?」 ジャスティスはうつむき、また、ふう〜と息を吐く。そして小刻みに震えながら言った。 「君たちは、考えて物を言うクセをつけた方がいい。あと、自分が一番、頭がいいって思う態度も直した方がいい。それから、個人が特定できないだろうって思って、人をディスるのもやめた方がいい。ていうか!」 顔を上げたジャスティスの瞳には、怒りの炎が燃えていた。 リブラが思わずビクッとなると、それには気づかないジャスティスがハンマーの打撃部分を紫色の方に変える。 「君たちは本件には、全っ然、関係ないじゃないかー! 傍聴人たちに退廷を命じます!! ○リキュア・グレートガベル!!」 ダッシュし、被告人がいた辺りの空間でグルグルと回っている文字の群れに、ジャスティスはハンマーを振るう。文字の回転に逆らうようにジャスティスは宙に登って行く。 リブラが見上げる中で、文字が『んぎゃあ!』とか『ぐぎゃぺええ!!』とか『ぐわあっはああああ!!』といった悲鳴に変わっていく。文字だけ見ると、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。 気がつくと、ミス・テイクは姿を消していた。 空高く舞い上がったジャスティスは、重力に引かれるままに落下し、氷漬けのセイギズラーを粉々に打ち砕く。 ハンマーを右肩に担いで立ち上がり、 「これにて閉廷ッ!」 と、鼻息も荒く、ジャスティスがハンマーで地を撃った。 アスファルトに小さなクレーターが出来た。
変身を解き、帰宅する中で美郁は言った。 「ボク、これまで法廷って、真実を明らかにする場だと思ってたんだ」 希依が少し考えて応えた。 「違うの?」 「うん。今日のことで気がついたんだ。法廷は、あくまで事実を開示する場、その事実に対して、原告被告、双方が抱えている真実をすり合わせていく場」 「原告、被告、双方が抱えている真実……」 繰り返した希依に対して頷くと、美郁は続けた。 「事件にもよるけど、お互いが全然違う認識を持ってて、その認識が、それぞれの立場では正しい、ってことがあるだろ? 真実は、人の数だけあるんじゃないかな? でも、起きた事件……事実は一つだ。その事件に対する認識を、いかにして納得できる落とし所に持って行けるか、それが法廷闘争なんだと思う」 もう、空は夕焼けに染まっていた。帰り道ではないが、脇にある坂道を少し上がり、そこから眼下に広がる街並みを見ながら美郁は言った。 「不謹慎だけど、安楽死。あれって、死にゆく人にとっては、生きていくことの方が辛いから死にたいけど、自分では出来ない、だから人に自分を死なせてくれるようにお願いするっていうことだよね? でも、もしそのお願いに応えたら、それは刑法第202条、嘱託殺人。どんな理由をつけても人殺しだ。命はたった一つ、失ったらそれっきり。人間は、与えられた命を、一生懸命、全うするべきだと思う。もっともボクは、死ぬしかないっていうほど追い詰められたことがない。だから、偉そうなことは言えないけど。……そんな風に一つの事実に対して、関わる人それぞれに真実があるんじゃないかな?」 理鉈が美郁を後ろから軽く抱いて、うれしそうに笑顔で言った。 「ミークちゃんは、いろいろと考えてるんだね。やっぱり○リキュアに選んで正解だったわ」
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