月曜日、佐波木市でウェブニュース配信をしている「SABAKI−ニュース.コム」。ここは社員数、実質七名のネットニュース配信会社だ。 午前九時。 「おい、新人」 編集長が、左目を隠すような、ワンレングスのボブヘアの若い女性に声をかける。 女性が立ち上がり、かけていた眼鏡を外す。 「社長、私は『新人』なんて名前じゃありません。尾前川 留衣(おまえがわ るい)っていう名前があるんですが?」 その言葉に、社長はため息交じりに何度も頷いてから言った。 「わかったわかった、悪かった。……今、特殊詐欺撲滅キャンペーンで注目されてる、DoTuberの『B4(ビー・フォー)すいんどら』の取材に行ってくれ、今日」 「え? それ、相川さんの仕事でしょ?」 「あいつ、夕べ遅くにバイクで事故って、肋骨折って入院してな。今朝、電話が架かってきた。アポはもう取ってある。取材用のメモなんかはあいつのPCに入ってるし、多分、ノートも作ってるんじゃないか? ああ、入稿の締め切りは、今日の十八時な」 「了解です」 そう言って留衣は頷いた。
午前九時十分、社が入っているテナントビルを出ると、留衣はメモを再確認する。 「約束の時間は午前十時、場所は佐波木市海向(かいこう)町三丁目……。よくわかんないわ、タクシーで行こ、経費で落ちるし」 そして、スマホを出し、「B4すいんどら」の動画をチェックする。そして「あるもの」に気づくと、空を見上げる。 口元に笑いを浮かべ、留衣は呟いた。 「面白いもの、見〜つっけた」 そして周辺を見て、再度、呟く。 「……時間が合わないわね。じゃあ、ちょっと別の騒ぎを起こしとくか」 留衣はその場から軽くジャンプして、近くにある二十階建てのビルの屋上に立つ。その時には、その格好は変わっていた。 この国では珍しい、エキゾチックなものに。
そう、尾前川留衣は、ダンザインのミス・テイクだったのだ! 彼女は魔法の力により、「SABAKI−ニュース.コム」の社員として潜入していたのである。 「さて、と。○リキュアたちは学生だから、今の時間は学校よね。彼女たちの学業を邪魔するのは、さすがによくないわ。それに、今回、生み出そうとするセイギズラーも、タイミングがちょっと、ね。と、なると、時間を稼がないと」 ミス・テイクは、ビルの屋上伝いに海向町へ向かう。そして、目的地周辺に着くと。 「火事にならない程度に……」 ごく弱い魔法弾を打ち、適当なビル数棟のガス管を傷つけた。 ガス漏れ騒ぎが起こり、しばらくして留衣のスマホに「取材日延期の相談」について連絡があった。
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