お喋りの中で睛が口にした単語について、美郁はクッキーを一口かじってから、睛に聞いた。 「その『デザインコンクール』ってなんですか?」 「ああ、それはね? ……ちょっと待ってて」 そう言って立ち上がると、睛はどこかへ行き、ちょっとして戻ってきた。その手にあるのは一冊のスケッチブック。 睛はスケッチブックを開いた。 「わあ」と驚いたような声を小さく上げたのは希依だ。そこに描かれていたのは、ルビーと思しき宝石を飾る王冠のようなデザイン。 「あとはね」 そう言って、睛はページをめくる。ほかにもサファイヤ、エメラルド、そういった宝石を彩る、いや引き立てるようなデザインが描いてあった。 「佐波木市の北区に『アリシア・マティ』っていう大手のジュエリーショップがあるわよね? 今度、あそこで新作ジュエリーのデザインコンクールがあるの、若手デザイナーさんとか、芸術系の学校を卒業した人向けに。私にも通知が届いて、応募したら一次審査と、それから二次審査も通過したんだ!」 心の底からの笑顔を、睛は浮かべているようだ。 「すごいじゃないですか!」 と、希依は目を見張る。 「うふふ、ありがと。……それでね、このコンクール、ちょっと変わってて」 そう、さっき出てきた単語で、美郁が気になっていたのはその「変わったコンクール」というところだ。 「うん、その変わってるところって、なんですか?」 美郁の質問に、睛は少し困惑したような笑みとともに言った。 「二次審査までは、向こうが指定してきた、カットされた宝石に合わせてデザインするんだけど、最終審査は、何百と用意されたパーツを組み合わせてオリジナルデザインを作るっていうものらしいの。あくまでも、噂なんだけどね」 希依がスケッチブックから顔を上げて言った。 「じゃあ、これは?」 「それは、二次審査用のスケッチ。あと、噂通りなら、どんな形の、どんな素材のピースがあるかわからないから、一応、想定を、ね」 美郁はもう一度スケッチブックを見て、尊敬の念とともに言った。 「本当にすごいんですね」 睛は満面の笑みで「ありがと」と応えた。
お茶会が終わると、午後五時。理鉈の家を出て、美郁は希依を商店街の途中まで見送ることにした。 しばらくは睛のセンスに対する賛美だったが、不意に美郁は、希依が何かについて口ごもったことを思い出した。 「そうだ。そういえばケイちゃん、なんだか気になることがあったみたいだけど、何?」 「え? ……ああ、あれなら気にしないで。たいしたことじゃないし、私の気のせいかも知れないから」 結局、笑顔でごまかされてしまった。
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