とある通りの騒ぎ、そしてその方向から来る異様な「何か」を感じ取り、希依はその場にやって来た。彼女が来た時、うずくまった白いシルエットが罪を認めたところだった。だが、希依の心の中には、シルエットの「本心」が流れ込んできていた。 「違う……。違うでしょ? あなたが言いたいこと、本当は違うじゃない! どうして言わないの!? ねえ、どうして!?」 そう叫んだ時。 「自分から言い出せない人もいるんだよ?」 不意に、そんな声がした。振り返ると、そこにいたのは。 「生徒会長? どうして、ここに?」 きょとんとなっていると、理鉈が口元に笑みを浮かべて、あるものを希依に手渡した。それは、一見すると、ペンを挿した手帳。 「自分ではうまく言えない人の代弁者、あなたには、それが出来るみたいね」 その言葉に、希依は渡された手帳を見る。その瞬間、手帳から「何か」が流れ込んできた。 その流れ込んできたものを自然に受け入れた希依は、手帳を開いた。それはケースに入れたモバイル端末のように、画面があり、そこに文字入力のキーボードがあった。 決意とともに、希依は言った。 「○リキュア、ジャッジメント!」 キーボードの「L」「I」「B」「R」「A」「ENTERキー」を入力する。すると、希依自身が光に包まれ、画面の表示も変わった。 そこに映し出されていたのは、司法の女神・テミス。その中で、テミスの左手にある天秤が光を放つ。希依はペンでその天秤をスワイプする。直後、その天秤が画面から飛び出し、希依の周囲をグルグルと飛び回り始めた。その中で希依の身なりが変わっていく。白とピンクの混在する上着、ピンクをベースに、白や水色の曲線が混在するフレアスカート、両手に白い手袋、その手袋の縁はピンクで彩られている。そして両脚には膝丈で白い縁取りのあるピンクのブーツ。 ロングヘアはさらに伸びて左右に広がり、ピンクをベースにして前髪の一部が水色の曲線に彩られたものになる。そして左右に翼を模したような飾りのある白いカチューシャが現れる。その中央には、赤いハートがあった。 宙を舞っていた天秤の皿は、白く円い飾りとなって希依の両肩に着く。胸の中央には、直径三〜四センチほどの、弁護士バッジと同じ、黄金に輝く十六弁の向日葵が現れ、その中には白い天秤のマークがあった。 最後にベルトの右腰にあるポーチに手帳を収納し、左腰の鞘にペンを挿し込む。ペンを挿すと鞘から鍔を思わせる二本の角のように、金色のパーツが起き上がる。 光が消えると、希依は両腕を上に上げ、宣言する。 「公正なるは無私の太陽の如く」 そして胸の前で両腕を交差させて言った。 「時に暖かく、時に冷静に事件を見て被告人を護る弁護人」 ポーズをつけて宣言した。 「○ュアリブラ!」 その声に、セイギズラーが動きを止め、リブラを見る。土煙が収まり、腕でパンチをガードしていたジャスティスと、砕けたアスファルトの道路が見えた。 瞬間、理解した。 「え? ミークちゃん? ミークちゃんだったの?」 セイギズラーの下から抜け出し、痛むらしい体の部位を押さえ荒い息をついて、ジャスティスがこちらを見た。そして驚愕の表情を浮かべる。こちらがジャスティスの正体が分かったように、向こうもこちらの正体が分かったのだろう。 だが、それは今は脇にどけていた方がいいようだ。リブラはセイギズラーと、うずくまっているシルエットを見る。 「これは……!」 セイギズラーの胸から放射された細い糸のようなものが、シルエットの周囲を巡っている文字の羅列に繋がっており、さらにその文字列から、シルエットにも細い糸のようなものが出てシルエットをがんじがらめにしているのだ。 『これじゃ、言いたいことが言えない!』 リブラは腕を交差させ、右手で左の肩当てに、左手で右の肩当てに触れる。そして。 「○リキュア・リバティーソーサー!」 肩当てが、一つはピンク色、一つは水色に発光し、肩から外れる。それをフライングディスクのように、リブラは投げ、シルエットをがんじがらめにしていた糸を断ち切った。 円盤が自動的に肩に戻ると、リブラは言った。 「被告人、あなたの思いを述べなさい」 シルエットがゆっくり立ち上がる。そして。 『……いやだった。こんなことして、こんな思いまでして、アイドルになんか、なりたくない。何度もそう思った。でも、偉い人から、これも大事な通過点だって言われて、こうしないと事務所も仕事がもらえないって言われて。先輩から、そのうち慣れるよ、って言われたけど、そんなことなかった。いや! いや! いや! いや! こんなのいや!』 すると、シルエットの周囲を先刻とは違う色の文字列が現れて回り始めた。
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