セイギズラーを見る。身長三メートルほどの女の子、まさにそういう形容がピッタリくる。 ファイティングポーズをとると、セイギズラーの胸にあるスマホから、光で出来た記号の羅列が現れ、空中を飛び回る。それが文字列になると同時に、それが「声」となってジャスティスの耳に届いた。どうやら、変身も三回目になって、美郁も○リキュアの能力を徐々に使いこなせるようになって来たようだ。 その「声」は、こう言っていた。
『有力な相手にカラダ売っとけば、売れるし』 『これもアイドルになるための試練でしょ?』 『芸能活動する限り、どうせ大株主とかスポンサーのヒヒジジィと枕営業するんだし』 『今のうちにこういう体験しとけば、将来、映画とかで濡れ場やるときに、参考になるじゃん』 『ここで悔しい思いしとけば、悔しくて泣く演技の時に、この体験を思い出せば、ウソ泣きしなくてリアルになるでしょ?』 『これでアイドルになれるなんて、ずるいよね』 『ずるい』『ずるい』『ずるい』『ずるい』『ズルい』『ずルい』『ずるイ』『卑怯ダ』『クズ』『カス』『きのみん、死ね』……。
同じ女性として、見るに堪えない、聞くに堪えない苦しいものばかりだ。思わず目を閉じ、耳を塞いで片膝をついてしまう。 しかし、ここで倒れたら、真実が明らかに出来ない。 歯を食いしばり、ジャスティスは立ち上がる。そして気合いとともに、セイギズラーに向かい、パンチの連打を浴びせた! よろけるセイギズラーに、身をひねってショートレンジからのキックを撃つ! 吹き飛ばされ、セイギズラーは仰向けに倒れる。追い打ちをかけようとダッシュで迫るジャスティスだったが、器用にネックスプリングで起き上がったセイギズラーの回し蹴りを受け、逆に吹っ飛ばされた。アスファルトの道路に何度かバウンドして起き上がる。痛みはさほどない。これも○リキュアの能力だろう。 起き上がり、ダッシュする。セイギズラーもダッシュで迫ってくる。セイギズラーがパンチを放ってくるが、それをギリギリまで仰向けの体勢になって、セイギズラーの股下をくぐった。三メートルの体高:身長一・六五メートルの体格差が、意外な功を奏した。 左手で地面を叩き、制動をかけると同時に、右腕のバネで宙へ飛び上がる。そして宙返りし、組んだ両手をセイギズラーの後頭部へ落とした! 『セ……セイギズラ……ラー……』 よろけ、セイギズラーがうつ伏して倒れる。 今なら、できる! ジャスティスはプリ・タブレットを開き、被告人……「きのみん」こと飯田木之菓を召喚した。 宙に浮く白いシルエットにジャスティスは問う。 「被告人、告訴された罪状を認めますか?」 先のような告発が「罪」であるわけがない。だが、この場で公正に明らかにすることによって、告発者を逆に裁くことも出来る。 そう思っていたら、被告人のシルエット……マナサマーヌの周囲を、また文字の羅列が取り巻き回転し始めた。
『一生懸命頑張って、オーディション受けてる人もいるのに、有力者と寝て、仕事とるなんて、ずるいよね』 『かわいいからって、いい気になってる』 『アイドルへのショートカット』 『あのドラマのレギュラーが取れたのも、寝たからか』 『裏事情を聞いたんだけど、性的関係に応じたのは、きのみんだけだったって』
木之菓のマナサマーヌが耳を塞いでうずくまる。 「声」として聞こえているジャスティスも、耐えがたい空気に耳を塞ぎたかった。 しかし。 「被告人! 答えなさい! あなたは罪状を認めるんですか!?」 マナサマーヌはうずくまるばかりで、何も答えない。 だが、しばらくして。 『認めます認めます認めます認めます認めます、全部、私が悪いの!』 泣き声交じりに、マナサマーヌが答えた。 「そ、そんな……」 ここで認めてしまっては、彼女を断罪せざるを得ない。このまま放置するわけにはいかないのだ。因果関係は不明だが、道ばたで倒れている、あるいは放心している何人かの人たちは、セイギズラーを消さないと、意識を取り戻さないように感じる。 ジャスティスは両の拳を、強く握りしめた。 どう考えてもセイギズラーの方が裁かれるべきだ。だが、回転しているコメントを信じるなら、木之菓が不正な手段で今の地位を得ていることになる。正当に努力をしている人たちを、踏みにじっているとも言えるのだ。 ジャスティスは、フィニッシュ技を決めようとしたが、どうにもその行動が鈍る。その時だった。 『セイギズラァァァァ!』 倒れていたセイギズラーが起き上がり、ジャスティスに跳びかかってきたのだ! 気づくのが遅れ、殴り倒されてあおむけに倒れたジャスティスに、セイギズラーが馬乗りになる。そしてマウントポジションを取ったセイギズラーが、ジャスティスにパンチのラッシュを浴びせかけてきた!
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