ドクゼーンは夕闇が迫る街並みを、とあるビルの屋上から眺める。だが、彼の瞳に映るのは、夜に移りつつある町の光景ではない。 「なるほど。ブランダーや、ミス・テイクの言った意味がよく分かった。確かにこの世界には、『正義の味方』があふれているようだ。なんと面白い世界であることか!」 やや芝居がかった仕草で、大きく腕を開く。そしてそのまま空を見上げ、茜色から紺色へと移っていくグラデーションを胸に抱くようにしながら、また芝居じみた調子で言う。 「この愛しい世界! 一体、どれだけの『正義』が、この世界を護っているのだろう!?」 ゆっくりと街並みを見下ろし、開いた右手を前に伸ばす。 「今、それを確かめてやろう、本当の『正義』たりうるのか?」 右手に、『あるエネルギー』を集め、命令するように言った。
「我こそ正義! 我こそ真実! 悪を裁け! 罪を裁け! 悪は断じて許さず! 出でよ、セイギズラー!」
ドクゼーンの手から、文字の繋がったような光の帯が現れ、空中のエネルギーを拾うように動いて、地上で一つの形に実体化した。 それは体高三メートルほどの人型をした物体。赤いTシャツに青いデニムのショートパンツ、黒とピンクのボーダー柄のオーバーニーソックスに、白いスニーカー。「女」というよりは「少女」といった体型だが、体色は白く、顔にも表情はない。髪はいかにも作り物のような茶色のツインテールだ。 そしてもっとも特徴的なのは、胸部にまるでスマホのような縦長長方形の物体があることだ。 怪物体が少女のような声で吠えた。 『セイギズラァァァァ!』 胸のスマホの画面に、意味不明な記号の羅列が表示され、それが光の帯となって飛び出し、町の通りにいた人々を取り巻く。その取り巻かれた人の中には、意識を失って倒れる人も多くいた。 悲鳴を上げ、人々が逃げ始める。 それを高所から見ながら、ドクゼーンは芝居がかった仕草で言った。 「さあ、舞台は整った! ○リキュアよ、君の出番だ! ……君の『正義』をみせてくれたまえ」
美郁は理鉈と連れ立って帰路についていた。学校近くの商店街でファンシーショップをを冷やかしていると、理鉈が言った。 「ミークちゃん。ミークちゃんは芸能ニュースを見ないっていうことだから知らないと思うけど。羽屋納総子、ゆうべ、遅くに入院したって」 「えっ!?」 キャラクターグッズを手に取りかけて、その手が止まる。 「詳しい報道はなくて、ただ『倒れたから救急搬送された』ってだけで」 「そ、そんな……」 まさか、あの時の一撃のせいなのだろうか? 「さっき、魔法で探査したんだ。どうやら精神的疲労で追い詰められて、過呼吸を起こして倒れたみたい。ただ、不倫騒動の渦中だから、身近にも『自殺未遂か?』って邪推する人がいて、情報が錯綜してたってことらしいよ? 確かに過呼吸を起こした引き金は、ミークちゃんに間違いないと思う。今回はこの程度ですんだけど、これからは気をつけて欲しいんだ。セイギズラーと違って、あのシルエット……マナサマーヌは人の心そのものだから、扱い方に気をつけてね」 「はい……」 理鉈は気遣うように笑顔で見ているが、美郁の心の中には罪悪感にも似た思いがあった。 「ミークちゃん、このことを心に刻んで、これからも頑張って欲しい。君は、○リキュアなんだから」 その言葉に、美郁の心の中に、後悔を越える強い決意が生まれた。
ファンシーショップを出た時だった。 「あ」 と、理鉈はある方向を見る。 「どうしたんですか、リタ先輩?」 と、美郁もその方を見る。その瞬間! 「! この感じ、ヒボウ……!」 間違いない、ヒボウのエネルギーだった。 「ミークちゃん、お願いね」 理鉈の言葉に、美郁は頷く。そして、理鉈に鞄を預け、エネルギーを感じる方へ向かって走りながら、プリ・タブレットを出し、変身する。そして大きくジャンプし、セイギズラーが人々を混乱に陥れている通りに着地した。 ○ュアジャスティスとなった美郁は、左手を斜め前に突き出し、宣言した。 「ギルティ!」 そして右手を斜め前に突き出し、宣言する。 「オア、ノット・ギルティ!」 その両手を前で「パン!」と打ち合わせ、宣言する。 「真実はどこにあるか、ここに明らかにしましょう!」 そしてポーズを決め、宣言した。 「我が名は○ュアジャスティス! ○リキュア・Psy-Bang-Shock! ここに開廷します!」
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