学校が終わり、下校時間。 坂道を下り、美郁は希依とともに下校していた。 「ミークちゃんは、何かの部活に入るか、決めた?」 「え? ボク? んー……。一応、生徒会で登録されてる部活のパンフはもらったけど」 昼休み、パンフレットをもらいに行ったら、そこに生徒会長の理鉈がいた。彼女の表情は前に見た時のように、やや眠そうな感じの笑顔だったが「○リキュアに専念しろや」のようなテレパシーがビンビン飛んできたので、ここは帰宅部を選ぶのが無難だろう……。 「そうだ、ケイちゃんは何の部活に入ってるの? 参考にしたいから教えてよ」 希依に水を向けてみる。 「私は、帰宅部。ミークちゃんに話したことがあると思うけど、うちは父が単身赴任、母は帰りが遅いから。私がお夕飯の支度をしてるから、部活はちょっとね」 「ああ、そうか、ケイちゃんには、小学校に通う双子ちゃんの妹がいたんだっけ? 今、何年生?」 「三年生。なんか、いろいろとお料理を手伝いたがるんだけど、危なっかしくって」 と、それでも希依はうれしそうに微笑む。 「いいなあ。うちは高校生のアニキだもん、ボクに対して妙に過保護で困るよ。出来ればケイちゃんのところと取っ替えてもらいたいぐらいだ。でも。そっか。ケイちゃんは、帰宅部か」 パンフに目を通した時に、興味のある部活があるにはあったが。 “やっぱり○リキュアに専念しなきゃ、ダメなんだろうなあ” そう思ってため息をついた時。 「………………!?」 あの時感じた、イヤな感じが背筋を駆け上った。 『……ヒボウだ!』 直感でわかった。そしてヒボウのエネルギーが流れてくる方を探る。 「……ねえ、ケイちゃん、あっちの方角……商店街とは反対で、市民運動公園?だっけ? そのもっと向こうって、確か中央公園があったよね?」 「うん。それがどうかした?」 「ごめん! ボク、急用が出来たから、ここでバイバイするね!」 そう言って、美郁は駆け出す。背後で希依が何か言っていたが、聞き取れなかった。 多分、「何かあったの?」だったように思った。
中央公園から、人々が逃げ出してくる。間違いない、あの怪物がいる。 公園が近づき、公園を取り囲んでいる木々の影から、一体の怪物の姿が見えた。奇異な姿をしている。四本の腕に四本の脚、四つの目に二つの口。まるで、二人の人間が合体したような姿だ。 公園の中に入った時、美郁のスマホが何かを着信した。 スカートのポケットから出すと、画面はある掲示板を表示していた。 「……これ、確かあのタレントの不倫……」 スレッドは「タレント羽屋納総子の不倫」。 書かれていたのは。
『誠実そうに見えても、その本性はただのメス豚』 『美人だと思っていい気になってる』 『この人、前も不倫で騒がれてたよね。話題が大きくなる前に消えたけど』 『それ事ム所の圧力で潰された』 『前に住んでたマンションでご近所トラブル起こして訴えられてた』 『あの顔、整形してるんじゃない?』 『子供がかわいそう』 『旦那がかわいそう』 『枕営業やり過ぎて、感覚が麻痺してる』 『こりゃ干されるな』
もっと非道いことも書かれていた。そしてそのような言葉ばかりが、溢れかえっていく。 ふと、美郁は違和感を覚えた。 「え? なんだろう、何かが繋がっているような……?」 意識を集中する。そして気がついた。 「セイギズラーの頭にある、アレに表示されてるのと同じだ!」 セイギズラーの頭には、スマホのような縦長長方形の物体がある。その物体の表面に表示されているのが、今、手にしているスマホの表示と同じなのだ! それだけではない。そのスマホ状の物体から何かが放射され、あちこちに繋がっているのが感じられる。おそらく、全国の、PCやスマホを見ている人々に繋がっているのだろう。そういった人々の中からこの事態を面白がった人が、また書き込んでそれが表示されているように感じた。 スマホを持った手が怒りで震える。
人の不幸を面白がって、こんな風に書き込みをしてあおるなんて、許せない! 確かに不倫をしたことはいけないと思うけど、それって、その家庭の問題なんじゃないの!? どうして無関係のあなたたちが、騒いでるの!?
そんな怒りとともに、美郁は○リキュアに変身するためのアイテム「プリ・タブレット」を出して、○ュアジャスティスに変身した。
「初めまして〜、○・リ・キュ・ア」 まるでハートマークでもつけていそうな軽い調子の、女の声がした。そちらを見やると、この間の男とは違うが、同じ空気を持った若い女がいた。 直感的に思い、ジャスティスは言った。 「あなた、ミス・テイクね?」 ちょっと驚いたような表情を浮かべた女は、ケラケラと笑って答えた。 「さすが伝説の戦士○リキュア! 私たちのこともご存じなのね! なら、話が早いわ。あなたの正義を、見・せ・て?」 挑戦的な笑みで女が言うと、セイギズラーが咆哮した。
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