美郁はペンを挿した電子手帳を出す。 「じゃあ、理鉈先輩。これは一体、どうしたんですか?」 「うーん」と、困ったような笑みを浮かべ、理鉈は応える。 「それねえ。例の古文書が保管されてた場所、私の一族が管理してたんだ。で、こっちに来た時には、もう持ってた。多分、無意識に持ってきちゃったんじゃないかなあ?」 「そうなんですか。……じゃあ、理鉈先輩も○リキュアに変身を?」 哀しそうな笑みを浮かべ、理鉈は首を横に振る。 「私じゃ、ダメなんだ。試してみたけど、変身できなかったわ」 「……じゃあ、なんでボクは○リキュアに変身できたの?」 「ミークちゃん、春休みに裁判の傍聴に行ったでしょ? その時にヒボウのエネルギーを感じたんじゃない?」 笑みを浮かべて理鉈が聞いてくる。 「ヒボウのエネルギー……?」 ふと。 「ああ、そういえば、なんかイヤァな何かを感じた瞬間があったなあ」 「うん、それがヒボウのエネルギー。本来、こっちの世界の人間には感じ取れないモノなんだけど、ミークちゃんには出来たんだよね? しかも、イヤな何かだと感じた。だから、きっと○リキュアになれると思ったんだ」 美郁は、改めて電子手帳を見る。 「だからさ、ミークちゃんには、このまま○リキュアをやって欲しいなあ」 「ええッ!?」 突然の言葉に、美郁は心臓が口から飛び出しそうになった。 「ちょ、ちょ、ちょっと待って、理鉈先輩!? ボクにまた変身して、あの怪物と戦えって言うの!?」 「うん」 「いや、うん、じゃなくて!」 理鉈がニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。 「あれ? もしかして怖い?」 「……え、えと……」 実は、少し怖い。あの時は無我夢中だったが、今は、あのような巨大な怪物と戦うというのは、できれば遠慮したい。 「ねえ、ミークちゃん。私の世界はダンザインのために、滅びたも同然。やつらがここに来た以上、こっちの世界も同じになる怖れがある。それを防いでダンザインを追い払えるのは、○リキュアだけなんだよ?」 真剣な表情で理鉈がこちらを見た。 美郁はもう一度、電子手帳を見た。……あの戦いの中で、若い主婦が誹謗中傷で傷つけられているのを見た。ダンザインは、今後もあのようなことをして、人々を傷つけるというのか? 美郁は顔を上げた。 「うん! わかった! ボクは○リキュアになってこの世界を護る!」 強い決意とともに宣言した。 本当にうれしそうに頷いて理鉈は言った。 「よろしく頼むね、○リキュア」
部屋を出た後、学校の廊下を歩きながら、ふと美郁は気づいた。 「あれ? そういえば理鉈先輩、商店街での騒ぎの場にいた男のこととか、ボクが裁判所を出てから感じたこととか、なんであんなに詳しく知ってたんだろ?」 生徒会本部の方を振り返る。 「まあ、今度、聞けばいいか」 美郁は昇降口の方へ向けて再び歩き出した。
美郁が出て行ったあと、そのドアを眺め、すっかり冷めたコーヒーをすすりながら理鉈は思った。
イヤな何かだと感じた、か。
「同族嫌悪じゃなければいいけどね。それに、私が○リキュアに変身できない本当の理由は……」 理鉈はコーヒーを飲み干した。
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