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作品名:○リキュア Psy! Bang! Shock! 第二話 作者:ジン 竜珠

第2回   第二話 アストライアの帰還A−2
「私はね、こことは違う世界から来たんだ。異世界っていうやつ?」
「異世界、ですか?」
「うん。アパーム・ワールドっていう、水と緑に満ちた、美しい世界」
 故郷のことを話し始めた理鉈の表情は、郷愁に浸るようなものになっている。
「そこはね、科学技術というより魔法技術が発達した世界だった。いうなれば魔法科学技術っていう特殊な文明。魔法の力や魔力で動く機械なんかがあって、ここでは考えられないような便利なところがあったけど、反面、魔力が変な風に干渉して、純粋な科学技術の方が便利なこともあった。でも平和で、みんなの笑顔に満ちた理想郷だった。……そんなある時、謎の敵が攻めてきたの」
 それまで牧歌的な雰囲気さえ漂っていた生徒会本部に、急に不穏な空気が満ちてきたような気がした。
「やつらは、アパーム・ワールドを征服するのが目的ではないようだった。何かを探しているようだったな。でも、その行動が結局、世界破壊に繋がった。私たちの抵抗は虚しく、みんな、なすすべもなく震えおののいていたわ。そんな時、三人の若者が立ち上がった。彼らは『ダンザイン』を名乗って、敵を追い払った。彼らは密かに世界を滅ぼしかねない『禁忌』とされる力を手に入れていたの。でも、そのおかげで世界は救われた」
「もしかして、その『禁忌』の力っていうのが、ボクが変身した……?」
 そう思うと、少し怖くなる。
 理鉈はコーヒーを一口すすり、次の言葉まで少し間を置いた。それは焦らしているのではなく、口にするのを躊躇(ちゅうちょ)しているように見えた。
「『ダンザイン』は、ドクゼーンという青年をリーダーとして、彼に共鳴したブランダーという青年、ミス・テイクという女性で構成されていた。さっき、ミークちゃんが出会ったのはブランダーね。あの頃より、髪が伸びてて手入れしてないみたい。『禁忌』の力というのは、アパーム・ワールドに存在するすべての魔法の、その始まりだといわれる力……『サイ・バーン』っていう精神の力」
「サイ・バーン……」
 復唱してみる。なんとなく精神を崩壊させるような力に思えた。
「サイ・バーンは、精神の根源ともいえる力。相手の精神そのものに強力な影響を与えるんだ。根源の次元レベルで干渉するから、相手は絶対にあらがえない。だから、撃退できた。そんな力を使った彼らを問題視する人たちもいたけど、ほとんどの人たちは英雄視した。彼らを救世主として祭り上げたんだ。そして、そこに問題があった」
 なんとなく思ったので、美郁は口をはさなんだ。
「ダンザインの三人が、独裁者とか暴君とかになったとか?」
 歴史を見ればそんな例は散見されるし、そこまで大げさでなくても権力を手にした瞬間、変貌する人というのは、日常でも聞く話だ。
 だが、その予想は違った。理鉈は首を横に振って答えた。
「自分たちを英雄として祭り上げる人々の姿に、ダンザインの三人の方が危機感を感じたんだ」
「へえ。逆なんて珍しいですね」
 そう言って美郁はコーヒーをすする。
「そうだねえ。普通は、逆だよねえ」
 と、理鉈も苦笑いして続けた。
「ダンザインたちは、自分たちを英雄とする人々の精神に危うさを感じた。これは、ともすれば他者依存に繋がる。この先、何かが起きた時、自分たちで問題解決に乗り出すことをせず、誰かに任せきりにしてしまうのではないか。そこで彼らは、人々に強くなるようにメッセージを出し、同時に、戦う力の育成を始めた。でも、一朝一夕にうまくいくものじゃない。彼らは平行して、サイ・バーンの力を手にした時に参考にした古文書群の分析を進めた。その中で、彼らは知ったんだ、伝説の戦士・○リキュアのことを」
「伝説の戦士……」
 自分の意識の中に流れ込んできた情報と、重なるワードがいくつも脳裏に浮かぶ。
「それって、さっきボクが変身した……!」
 理鉈が頷く。
「そう。さっきミークちゃんが変身したのが、まさに○リキュアさ」
 美郁もまだ完全に○リキュアのことが理解出来ていない。例えていうなら、一つのドアを開けて部屋に入ったが、その部屋にはまた別のドアがあり、それには鍵が掛かっているような、そんな感じなのだ。
「ダンザインたちは、衝撃を受けた。世界が危機になると現れる伝説の戦士。でも、先の戦いでは現れなかった。ダンザインたちは、その理由を、『人々に正義感がないから』だと考えたんだ。ムチャクチャだろ?」
 と、理鉈は呆れたように苦笑する。
「そうですね」
 正義感がないから伝説の戦士が現れなかったとは、どういう思考経路を辿ったのだろうか。
「そしてダンザインたちは、恐ろしいことを始めた。サイ・バーンの力の一部を改良して、『ヒボウ』というエネルギーを生み出し、そのエネルギーで人々の正義感を強化していったんだ。そしてその結果、人々は怪物になった。……正義の味方面(みかたづら)をした怪物に」
 美郁は、さっき戦った怪物を思い出す。確かあの怪物は「セイギズラー」と吠えていなかったか?
「あっという間だったよ、世界が正義面の怪物・セイギズラーで溢れかえったのは。まさに地獄のようだったね。セイギズラーになった人たちは、みんな自分が正義だと思って、それを押しつけ、それを否定されると暴れ回った。無事だった人々は、隠れたり、私のように他の世界に転移して逃げたりした。だから、今、あの世界がどうなってるのか、わからない。でも、ダンザインの連中は他の世界に渡ったみたいだね。そして、遂にこの世界に現れた」


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