直感的にジャスティスは理解した。 今なら、いける! 左腰の鞘、そこにある鍔のような金色の二本の角を、鞘の方に折りたたむと、バネ式のようにペンが飛び出る。ペンを引き抜き、左手で右腰のポーチから手帳を出す。 ペンで画面をタップすると、一枚の書類が表示される。 「被告人を召喚します!」 書類が宙に投影され、一つのシルエットに変わる。それは女性のようだ。 「被告人に質問します。あなたは容疑を認めますか? それとも否認しますか?」 シルエットが答える。 “認めます。私は、サンドイッチ作りを手抜きして、出来合いのものを購入しました” 少しだけ、ジャスティスの胸が痛む。だが、ジャスティスは粛々と進めた。 「それでは、情状証人の出廷を認めます」 画面をタップする。すると、シルエットの周囲を取り巻くように、いくつもメッセージが現れた。
『この人、悪くないよ?』 『お母さんはたいへんなのよ』 『なんで、この女性を悪く言うの?』 『このコメ主、昭和生まれか!』 『だったら、お前もサンドイッチ、家族に作れよ!』
このように、被告人を擁護するメッセージばかりだった。 笑みで表情が緩むのを感じながら、ジャスティスは言った。 「判決を言い渡します。主文。被告人は無罪」 シルエットが光に包まれて消える。 次に、ジャスティスは厳しい表情で、セイギズラーを見る。ペンを鞘に、手帳をポーチに戻し、右手の平を上に、左手の平を下にして、両腕を前に伸ばす。 「では、原告の虚偽告訴罪について、審理に入ります!」 八咫鏡の中にある太極マークが回転を始めた。それと同時に、ティアラの宝珠が点滅を始める。すぐに宝珠が五つとも輝く。 「原告の虚偽告訴罪が成立! あと、食べ物を粗末にしちゃ、ダメ!」 太極マークが八咫鏡から飛び出し、ジャスティスの手に収まり、白の勾玉が上になって巨大化する。白を右手で、紫を左手で掴み、上下に引く。すると勾玉の間には、銀色のポール。そのポールが一メートルほどの長さになったところで、白の勾玉の「尾」の部分をポールに接続し、それを掴んで空目がけて振り上げる。紫の勾玉が、まるで鎚(つち)の打撃部分のようになる。 そして、空高く跳躍し、叫んだ。 「You are Guilty! ○リキュア・グレートガベル!」 紫色に輝くハンマーで、ジャスティスはセイギズラーを殴った。 光の粒子になり、 『ゴメンナサ〜イ』 と言いながら、セイギズラーは消滅した。 「これにて、閉廷!」 気がつくと、あの男は姿を消していた。
駐車場へ向かう途中で、若い母親は掲示板を見て、震えていた。 そうだ、自分は手抜きをしようとしていた。いくら疲れていたからと言って、サンドイッチぐらい……。 そう思っていたら、その書き込みに対して、次々と返信が書き込まれていった。そのどれもがコメント主を非難し、母親を応援するものだった。同時に、コメントに対する「いいね」の増加が止まり「boo!」と言っているかのように「ダメ」アイコンが急速に増え始めた。 自分に味方がいることを知り、母親は涙が止まらない。 「ねー、ママー、どうしたのー?」 娘が母親の服を引っ張り、きょとんとした表情で聞いてきた。 「うん、うん……。ごめんね、明日はちゃんとご飯作るから、今日は買ってきたサンドイッチで我慢してね?」 すると、娘は笑顔で言った。 「うん! でも、ママ、いそがしくてつかれてるの、ゆみちゃん、しってるから、むりはしないでね?」 その言葉に、母親は「結美……」と呟き、娘の頭を撫でた。
変身を解いた美郁は、パン屋の前でへたり込んでいる男を見た。男は、夢から意識を覚ますように何度か頭を振る。そしてスマホを見て困ったような表情になり、ため息をついた。こちら側に歩いてきた男が、すれ違う時、「偏見でものを見たらいけないなぁ」と呟くのが聞こえた。 少なくとも、男は自分の書き込みに対し、間違っていたと反省したようだ。 それに安堵の思いを抱いたが、すぐに。 「生徒会長に、話、聞かなきゃ」 今すぐに、事情を聞かないとならない。 美郁は、まだ会長がいることを祈りながら学校へと引き返した。
ここはどことも知れぬ空間にある、見るからに豪奢な洋風の建物。今は昼下がりのようだ。 そして、ダイニングでテーブルに着き、ワイングラスを手に持った威厳ある男に、あのザンバラ髪の青年が報告する。 それを聞いた威厳ある男が、歓喜を隠さずに声を上げた。 「そうか! 遂に現れたか、○リキュアが! ……○リキュア、お前の正義を見せてみろ!」 男はワインを飲み干した。
幸い、というか、まるで美郁が来ることを予期していたように、理鉈は残っていた。 理鉈は柔らかい笑顔で言った。 「長い話になるからねえ。ま、コーヒーでも飲みながら、話そうよ。お茶菓子もあるし」 そして、理鉈は、まずコーヒーの準備にとりかかった。
(プリキュア Psy! Bang! Shock! 第一話 アストライアの帰還@・了)
あとがき
読了いただいた皆様、有り難うございました。 一応、連載物を想定してはいるんですが、この年になるといろいろとしんどくて(まあ、年のせいだけじゃないんですが)。 なので、第二話はいつになるか。
ところで生徒会長の「浦田 理鉈(うらた りた)」ですが。 「王様戦隊キングオージャー」の「リタ・カニスカ」と奇しくも同じ名前ですが、これは、いろいろと設定を作っていく過程でこの名前になったんです。どうしようかとは思ったんですが、この名前には、ちゃんと意味があるので、このまま進めることにしました。 ていうか、もし「リタ」という言葉の意味をご存じない状態で、「王様戦隊」の方が名付けられているとしたら、そっちの方が恐るべき「偶然」です! ……まあ、さすがにそういうことはないと思いますけれど。
というわけで、もし第二回があったら、またお読み下さいねーっ(@^▽^@)!
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