四月。 一年生は二年生に、二年生は三年生に進級した。 編入してきた美郁は、ラッキーなことに希依と同じ二年A組になり、しかも席も窓際の列、その隣の列と、近くになった。 始業式、そしてホームルーム、清掃が終わった時だった。 校内放送で呼び出しがかかったのだ。 『二年A組、四方美郁さん、生徒会本部まで来て下さい。二年A組、四方美郁さん、生徒会本部まで来て下さい』 「なんだろう、生徒会まで来いって?」と、美郁はスピーカーを見た。そして希依を見た。 「希依ちゃん、ボク、生徒会本部がどこにあるか分からないから、教えてくれる?」 「うん、いいわよ」 笑顔で応え、希依は鞄とトートバッグを手に取る。 「ありがとう」 美郁も笑顔で鞄をバッグを手に取った。
佐波木市立佐波木第一中学校は、二つの校舎で構成されている。第一校舎は生徒の教室や保健室などがある三階建て。一階と二階にある渡り廊下で繋がっている第二校舎は二階建てで、職員室や各種実習室、図書室や放送室などがある。生徒会本部は、第二校舎の二階にあった。 ノックをすると、十二畳ほどありそうな広い部屋に、髪のえり足を水色のリボンで一つ結びにした、一人の女子生徒がいた。 オレンジ色のジャケットに薄い青色のブラウス、黄色いネクタイ。そしてチョコレート色のプリーツスカート。襟章は「VB」をデザインしたものになっている。 つまり三年B組の女子ということだ。 美郁は部屋の中を見る。長机や椅子、本棚やプリンター、スキャナーなどを置いた棚。生徒はその女生徒しかいない。どうやら、この女生徒が生徒会長なのか? 美郁は希依を見る。希依が頷いて「生徒会長の浦田(うらた)さん」と言ったので、美郁も頷いて、部屋の中にいる女生徒に言った。 「あの。ボクが四方美郁ですけど?」 椅子に座っていた生徒会長が、笑顔になった。どこか眠そうな表情だが、こういう顔なのだろう。 「ああ、君が転入生のミークちゃん? へえ、ボクッ娘なんだぁ。あ、私は浦田理鉈(うらた りた)。リタちゃん、でいいよン」 話すスピードは普通だが、どこかのんびりした印象がある。そして理鉈は立ち上がると「部屋、変えようか」と、美郁を別の部屋に案内した。 行った先は、二階の一番西側の部屋。教室の広さはさっきの部屋の半分ほど。元は何かの物置だったような印象の部屋だ。中にあるのは、正方形の机に椅子、部屋の隅に長机があり、そこにはコーヒーミルやサイフォン、電磁調理器などがある。長机の隣には化粧台のような机があった。 「ああ、悪いけど君は外で待っててくれる?」 そう言って、理鉈は希依を閉め出した。 「えとね」と、理鉈は化粧台の引き出しを開けて、中から何かを出した。 「なんですか、それ?」 「我が校編入の記念品」 笑顔でそう言って、理鉈は「それ」を手渡してきた。一見、手帳とその背表紙部分に挿し込んだペン。 「手帳、ですか?」 美郁は開こうとしたが、開かない。 「開きませんけど?」 「ン〜。ま、今はまだ、ね」 「は?」 何か、よく分からない言葉に思わず頓狂な声を上げると、理鉈が、やはり笑顔で手をヒラヒラとさせて言った。 「なんでもないなんでもない。『そういうもん』だと思っててよ。なんちゃって手帳、とかさ」 「わけわかりません」 美郁は、呟いた。
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