妖精が消えてからも、デレラは言いつけ通り、家の片付けや掃除を続けていました。 すると、ばたばたと騒がしい音が聞こえ、ドアが荒々しく開けられ、継母と二人の姉が帰ってきました。 しかし、なんとしたことでしょう、上の姉はベッドに寝かされて片目に眼帯をし、全身、包帯だらけ、下の姉は水を張っていないバスタブに入って、心が壊れていたのです。 継母が怒りの表情で言いました。 「なんてことだろうねえ、『Ball(公式な舞踏会)』だと思ってたら、『bow(屈服する)』の聞き間違いだったとは。国王は、……いや、王子はこの国の民すべてを屈服させるつもりなンだ!」 そして継母は、まるで射貫くような視線をデレラに向けました。 「デレラ、行きなさい、城へ。そして王子を倒しなさい」 しかし、デレラはうつむき、継母に答えません。 継母は黙ってデレラを見ます。そしてデレラの視線は、一番上の姉に向きました。 継母はもう一度言いました。 「デレラ、行きなさい。でなければ、この家を……」 ここで継母が語気を強めます。 「出てけ!!」 デレラは、黙って一番上の姉を見ます。姉も、眼帯をしていない方の目で、デレラを見ます。しかし、姉はいつものように無表情で、感情が読めません。 デレラは小さい声で自分に言い聞かせるように、言葉を繰り返します。 「逃げちゃダメよ逃げちゃダメよ逃げちゃダメよ逃げちゃダメよ逃げちゃダメよ……!」 そして、キッと口を引き結び、台所の裏手……家の外に駆けて行きました。そこに置いてある木箱から、カボチャを取り出します。このカボチャは、母が亡くなる直前まで調理の下ごしらえをしていた、因縁のカボチャでした。 デレラはそのカボチャを頭上に掲げ、一気にかぶります。三角形の目が開き、ジャック・オ・ランタンの如く、光を放ちました。そして「グググ」と口元が震え、直後「ガッ」と口が開きました。
くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
背筋を大きく反らせて夜空を見上げ、甲高い咆哮とともに、デレラ……いえ、暴走したジャック・オ・ランタンが身を震わせます。 それを見た継母が不敵な笑みとともに呟きました。 「勝ったな」
|
|