近所の公園にあるスピーカーから、五時になったことを報せるメロディーチャイムが鳴り始めた。 「ふう。五時ね。じゃあ、今日のところは」 「あ、うん、ご苦労様。本当に仕事がきれいに片付いたよ、有り難う」 俺がお礼を言うと、女性は頬を紅くし、 「お役に立ててうれしいです」 と、お辞儀した。あ、なんか、かわいい。 「あの!」 不意に、女性が俺に近づいた。 ちょっと驚いて、ピンク色の妄想に走りそうになっている俺に、女性は言った。 「あの、お願いがあるんですけど!」 「お願い? なんでしょう?」 「明日、保育園、休みなんです、なので、娘を、ここに連れてきてもいいでしょうか?」
………………………………
「あー……。えー、と……。……はいぃぃぃ、娘?」 「はい。娘を入れてる保育園、不祥事があって、明日、保育園に家宅捜索が入るとかで、それで……」 あ、なんか、ニュースで見たな、それ。 「それで、他に頼るところもないし。いいですか?」 「ああ、まあ、そういう事情でしたら……」 「よかった」 女性が、笑顔になる。 「ということは、あなたにとって、姪、ということになりますね」 「あー、そう、です、ね?」 「すると、経費の方は、どうなるのかしら?」 そして女性は携帯を出し、組合長さんと話を始めた。 しばらくして、結論が出たらしい。 「今回に限り、特例として、組合の方で経費を持ってくれるそうです」 「そうですか、それはよかったですね。ところで『姪』がいた場合の経費、ってなんですか?」 「娘の費用(ひよう)弁償(べんしょう)です」 「俺のうちに来るのは、出張扱いなんですね、保育園児の娘さんにとって!?」 じゃあ、保育園に行くのは出勤か!? 「それでは、また明日もよろしくお願いします。あ、パソコンについては私の私物ですので、ロックをかけておきました。開けませんので、そのおつもりで」 そして、女性は帰っていった。 「おーい、それじゃあ、俺のパソコンは、誰が弁償してくれるの? あなただよね? つーか、俺、観たい動画とか、観られないよね?」 その辺、明日、きちんとさせておかないとならない。 あと、娘さんも来るって言うから、お菓子とかも用意しといた方がいいかな?
姪が来たら、「メイワーク」か。
めんどくさいな、イモートワークって。
(わが支社でも始めることにしました。・了)
|
|