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作品名:わが支社でも始めることにしました。 作者:ジン 竜珠

第2回  
 月曜日になった。
「そろそろ九時だな」
 そう呟いた時、アパートの俺の部屋のドアがノックされた。
「はーい」
 特に期待していた訳じゃなかったが、やっぱり期待してたんだろう、俺は少しばかりドキドキしながら、ドアを開けた。
 そこに立っていたのは、ビジネススーツに身を包んだ、キリッとした感じの女性。アンダーリムのメガネをかけ、髪をお団子にしている。そして開口一番。
「ただいま、兄さん」
「え? あー? あ、あー……。お帰り」
 思わず「お帰り」って言っちゃったけど。この人、美人で仕事が出来そうだけど、俺より年上っぽい。
「あのー。すみません、俺、二十七歳なんですけど、あなたの年齢は?」
 女性はメガネを少し上に上げ、答えた。
「三十三……」
 言いかけて、頬を紅くし、咳払いして言った。
「ひく、なな。」
「………………はあ?」
「三十三引く七で、二十六歳よ。兄さん、妹の歳も忘れたの?」
「あ、あー、二十六歳ッスか。……敬語、使った方が、いいですかね、俺?」
「私、妹よ? 妹に敬語を使う兄なんて、有り得ないわ、兄さん」
 そう言って、微笑む。
 やっぱり、美人だな、この人。
「じゃあ、仕事、始めるわよ。兄さんのパソコンは?」
「あ、ああ、あれ」
 と、俺は部屋の奥にあるパソコンを示す。
「失礼します」
 そう言って、女性は部屋に上がる。そして、直後。
「私、身内の部屋に上がるのに、『失礼します』なんて、言ってないわ!」
「……いや、自然すぎて、気がつかなかったんで。今、言われて初めて気がついたぐらいで」
 女性が頬を紅くする。そして、パソコンデスクまで行き、持参したバッグを床に置く。しばらくパソコンをいじっていて。
「うう、今時、窓ゥズの九・一なんて、有り得ない……」
「一応、十にアップデートしたんだけど、一部のメンテナンスソフトで不具合が出たんで、戻したんだ」
「それに、CPUが一・九ギガヘルツなんて、どんな仕事をするつもり……? まあ、いいわ」
 そして、彼女は仕事を始めた。

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ。

 すげー、完璧なブラインドタッチだ。俺、まだ、あそこまでは出来ないんだよな。

 カタカタ、カタカタカタ、カタ、カタ、……カタ。

 カタ。カタ。……カタ。…………カタ。

 カタ。…………カタ。………………カタ。

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 遅いぃぃぃぃぃぃぃ!」
 バキィイイイイッ!!
「あああああああー、キーボードがぁぁぁぁ!!」
 俺の絶叫も気に留めず、女性は二つに割れたキーボードを手に振り向いて、俺を睨んだ!
「兄さん、いい!? 『遅い』は悪! 『固まる』は犯罪! 悪!即!滅よ! わかった!?」
「わかんねーよ! あんた、何言ってんだ!?」
 まるで俺がいないかのように、女性は持参したバッグからスマホを出し、どこかへ電話をかけた。
「……あ、ヤーダ電器さん? 小山です」
 こやま、っていうんだ、この人。
「この間、お願いしたパソコンですけど、今から言う住所に持ってきてもらえます? なるはや……いえ、ちょっぱやで!」
 と、俺の住所を伝える。
 そして、てきぱきとパソコンの撤去作業を始めた。プリンタとか、スキャナとか、いろいろ繋いでるんだけど、ほんと、器用に取り外し、一人で撤去作業をやった。


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