月曜日になった。 「そろそろ九時だな」 そう呟いた時、アパートの俺の部屋のドアがノックされた。 「はーい」 特に期待していた訳じゃなかったが、やっぱり期待してたんだろう、俺は少しばかりドキドキしながら、ドアを開けた。 そこに立っていたのは、ビジネススーツに身を包んだ、キリッとした感じの女性。アンダーリムのメガネをかけ、髪をお団子にしている。そして開口一番。 「ただいま、兄さん」 「え? あー? あ、あー……。お帰り」 思わず「お帰り」って言っちゃったけど。この人、美人で仕事が出来そうだけど、俺より年上っぽい。 「あのー。すみません、俺、二十七歳なんですけど、あなたの年齢は?」 女性はメガネを少し上に上げ、答えた。 「三十三……」 言いかけて、頬を紅くし、咳払いして言った。 「ひく、なな。」 「………………はあ?」 「三十三引く七で、二十六歳よ。兄さん、妹の歳も忘れたの?」 「あ、あー、二十六歳ッスか。……敬語、使った方が、いいですかね、俺?」 「私、妹よ? 妹に敬語を使う兄なんて、有り得ないわ、兄さん」 そう言って、微笑む。 やっぱり、美人だな、この人。 「じゃあ、仕事、始めるわよ。兄さんのパソコンは?」 「あ、ああ、あれ」 と、俺は部屋の奥にあるパソコンを示す。 「失礼します」 そう言って、女性は部屋に上がる。そして、直後。 「私、身内の部屋に上がるのに、『失礼します』なんて、言ってないわ!」 「……いや、自然すぎて、気がつかなかったんで。今、言われて初めて気がついたぐらいで」 女性が頬を紅くする。そして、パソコンデスクまで行き、持参したバッグを床に置く。しばらくパソコンをいじっていて。 「うう、今時、窓ゥズの九・一なんて、有り得ない……」 「一応、十にアップデートしたんだけど、一部のメンテナンスソフトで不具合が出たんで、戻したんだ」 「それに、CPUが一・九ギガヘルツなんて、どんな仕事をするつもり……? まあ、いいわ」 そして、彼女は仕事を始めた。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ。
すげー、完璧なブラインドタッチだ。俺、まだ、あそこまでは出来ないんだよな。
カタカタ、カタカタカタ、カタ、カタ、……カタ。
カタ。カタ。……カタ。…………カタ。
カタ。…………カタ。………………カタ。
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ! 遅いぃぃぃぃぃぃぃ!」 バキィイイイイッ!! 「あああああああー、キーボードがぁぁぁぁ!!」 俺の絶叫も気に留めず、女性は二つに割れたキーボードを手に振り向いて、俺を睨んだ! 「兄さん、いい!? 『遅い』は悪! 『固まる』は犯罪! 悪!即!滅よ! わかった!?」 「わかんねーよ! あんた、何言ってんだ!?」 まるで俺がいないかのように、女性は持参したバッグからスマホを出し、どこかへ電話をかけた。 「……あ、ヤーダ電器さん? 小山です」 こやま、っていうんだ、この人。 「この間、お願いしたパソコンですけど、今から言う住所に持ってきてもらえます? なるはや……いえ、ちょっぱやで!」 と、俺の住所を伝える。 そして、てきぱきとパソコンの撤去作業を始めた。プリンタとか、スキャナとか、いろいろ繋いでるんだけど、ほんと、器用に取り外し、一人で撤去作業をやった。
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