「で、ここが、中央新町(ちゅうおうしんまち)、通称、新町(しんまち)! お買い物とかは、ここが便利!」 今日、土曜日の午後、エミィは夢華に街の案内をしてもらっていた。午前中は、シェアハウスでの用事があったので、午後からになったのだ。駅前で落ち合って、そぞろ歩きだ。 「へえ。かわいいお店とかもあるのね」 あちこち眺めているだけで、心が浮き立ってくる。 「それでね?」 と、夢華がある店を指さす。 「あそこが、『ドリーム・エッグ』。有名なパティシエさんがいるスイーツショップ!」 「スイーツショップ」 「うん! あとで、三時のおやつに寄ろう?」 笑顔で夢華が言った時だった。 「うっきゅー!」 「わ!? 出てきちゃダメ、ウッキュー!」 エミィが提げたトートバッグから、ドラゴンパピィのウッキューが、顔を出した。慌ててバッグの中に押し戻そうとしたが、ウッキューは出てこようとするのをやめない。 「ねえ、エミィ、もしかしたら、この前みたいに」 気づいたように、夢華が言った。 「え?」 その言葉に、エミィはバッグの中を覗く。ウッキューが首輪に着いているクリスタルの球体を外す。その玉から、涙滴形のクリスタルが、まるで涙を流すように現れた。 「……! 誰かが泣いてる!」 ウッキューが持つクリスタルには、人々の希望が失われた時に反応する力がある。なぜ、ウッキューのクリスタルにそんな力があるのか、そもそもウッキューがなぜ、そんなものを持っているのか、まったくわからない。だが、先日、夢華がホープ・ジュエルの一つ、レッド・ルビーの力で伝説の戦士○リキュアになった時、こんな事が起きたから、もしかしたら、人間界に散らばったホープ・ジュエルをサガす力に、関係があるのかも知れない。 エミィは、このドラゴンパピィに、何かしら、不思議なものを感じているのだ。 「行こう、エミィ! もしかしたら、あの時の怪物……シツボーグが現れたのかも知れない!」 あの時、カーナ・シー・エンパイアのアイ・スクリームという女が、シツボーグという怪物を操っていた。だから、今度も、その女がシツボーグを使って人の希望を奪い、世界を闇色に染めようとしているのかも知れない。だとすると、このクリスタルは、人々の失望を感知しているのかも知れない。ひょっとすると、○リキュアの力で、人々の希望を取り戻すために、このクリスタルがあるのかも知れない。 なぜ、ウッキューがこれを持っているのか、わからないが、その詮索はあとだ。二人は建物と建物の間の路地に入る。バッグからウッキューが出る。すると、涙滴が動き一方向を示す。 エミィと夢華はうなずき合って、その方へ駆け出した。
行った先の住宅地の、ちょっと狭い通りにいたのは、体高五メートルほどの鎧兜をまとった怪物。右手がメスらしき刃物、左手が注射器になっている。 『シツボォォォォォォォォォグ!』 怪物が咆哮した。周囲が部分的に闇色になっている。あれが広がると、人々の希望が失われるのが、直感でわかった。 右手の拳を握り、強い意志の光を瞳に宿して、夢華が言った。 「エミィ、サポート、お願い!」 「わかった!」 応えると、夢華がスカートのポケットから、スマホサイズの長方形の携帯ミラーを出した。 「○リキュア、叙事詩(サガ)、オープン」 すると、ミラーに夢華の姿が映る。しかし、それは鏡写しではない。例えるなら、スマホの撮影機能のように、左右が逆の状態で映っているのだ。そして、実体の夢華の周りを一冊の本が舞い、その本が開く。 「騎士の章! アーマー!」 騎士の鎧が描かれたページが外れ、ミラーのスリットに自動で差し込まれると、ミラーに映った夢華の体にフィットし、現実の夢華の体にも鎧が生まれる。 「ガントレット!」 腕甲が描かれたページが外れ、ミラーのスリットに。以下「ブーツ!」「ソード!」……。変身後の彼女の髪はルビーレッド、ホープ・ジュエルのレッド・ルビーは髪飾りとして輝いている。そして、それには鳥のごとき白い片翼があった。 「夢を護る剣(つるぎ)、○ュアナイト!」 剣を構え、○ュアナイトとなった夢華が宣言する。 「これ以上、闇色に染めるのは、私が許さない!」 『シツボォォォォォォォォォグ!』 シツボーグが躍りかかってきた。
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