20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:○リキュア、第2話ぐらい? 作者:ジン 竜珠

第4回  
 土曜日、午後。ここ、矢風医院は土曜の午後は、休診だった。
 カルテをチェックしながら、矢風は唸っていた。
「うーん。竹野葉太くん、なかなか治らないねえ。もしかして、何かが神経にさわってるのかな? うち、CTがないから、詳しく検査できないし、検査できないから、大きい病院への紹介状も書けないしなあ」
 ちょっと考え。
「……のぞみさんに相談してみるか」
 矢風は、以前、夢の木市の三つ隣の市にある大学病院に勤務していた。だが、医院をやっていた父親が病気に倒れ、あとを継ぐべく、病院を辞めた。だが、ほかにも理由があった……。
「……はい、はい。……そうですか。すみませんでした」
 電話をしてみると、ちょうどオペ中だという。大学病院時代、愛望の母・のぞみは先輩であり、頼れる姉のような存在だった。いや、ある意味で師のように思っていたところもあったと思う。
 とりあえず、病院まで行ってみよう。今、電話した限りでは、他の外科医に話が聞けそうだった。カルテを封筒に入れ、矢風は外へ出た。

 あれは、大学病院を辞める、一ヶ月前のことだった。疲労骨折を見逃してしまい、その患者が症状を悪化させてしまったということがあった。確かに、疲労骨折の初期ではX線検査でもつかみにくい。当時、矢風自身に激務が重なって集中力が落ちていたという事もあったかも知れない。それでも、患者がアスリートであり、症状を詳細に検討すれば、CTで調べるということにも意識が向いたはずなのだ。
「失望されたし、僕自身、自分にも失望したなあ、あの時は」
 父の病気は、ある意味で「きっかけ」だったのかも知れない。
 ふと、暗たんたる気持ちになった。ひょっとしたら、葉太に対しても、たいへんな誤診をしているのかも知れない。
 そう思うと、さらに気分が沈む。
 気がつくと、一人の青年が目の前に立っていた。風貌も着ているものも、この国らしくない。外国人旅行者だろうか?
 そう思っていたら、青年が言った。
「いい色、出してますね?」
 どこか危険なものを感じる笑みを浮かべて。
「え? いい色? なんだい、それ?」
 そう応えた時、青年の手に、灰色の玉があるのが見えた。その瞬間、矢風の中にあった失望が、大きく膨れ上がっていくのを感じた……。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 451