翌日、金曜日。 放課後、保健室に、相良愛望はいた。彼女は保健委員であり、六時間目終了直前に体調を崩した生徒に付き添って、保健室に来ていたのだ。 「大丈夫、ようちゃん?」 ようちゃんと呼ばれた男子……竹野葉太(たけの ようた)がうなずいた。 「うん。なんとか、落ち着いたよ。ゴメンね、めぐちゃん」 「気にしないで。それより、ようちゃんは心臓が弱いんだから、無理しないでね?」 愛望は笑顔で応える。愛望と葉太は従兄弟同士だ。愛望の父と葉太の母が兄妹になる。小さい頃は、愛望の母は三つ隣の市にある大学病院に勤務していた。しかし、小学校四年生の時、母はこの街の病院から招聘(しょうへい)されて勤務することになって、引っ越してきた。葉太はこの街に住んでいたが、小学校の学区が違っていたので、中学に上がって、始めて、同じ学校に通うことになったのだ。 「……!」 不意に、葉太が左の二の腕を押さえ、顔を歪める。 「まだ痛むの?」 「……うん」 葉太は一ヶ月ほど前、左肩に、何針も縫う大けがをした。その傷はもう治ったが、治った頃から、ケガをした訳ではない二の腕が、時折、痛むようになったという。 心配になって、愛望は聞いた。 「お医者様には、行ってるのよね?」 「うん」 「ちゃんと、お薬、飲んでる?」 「飲んでるよ。……これ、だけど」 と、葉太は、ポケットに入れたピルケースを見せる。それを受け取り、愛望は中の薬剤を確認する。 「トラムゼットンかあ。強い薬、飲んでるわね」 この薬剤には、トラマドール塩酸塩とアセトアミノフェン、二種類の有効成分が配合されており、効果が高い代わりに服用初期に眠気や、吐き気を覚えたりするケースが、ままある。また、長期間服用すると、薬剤耐性がついて効き目が弱くなったり、薬剤に対して依存症になったりすることもある。 「前の薬が、あまり効かなくてね」 愛望が返したケースを葉太がポケットに入れた時、保健室の引き戸が開いた。 「あ、愛望先輩?」 振り返ると、そこにいたのは。 「あれ、夢ちゃん? どうしたの、保健室に? どこか、ケガでもした?」 一学年下で、同じ小学校出身の岸夢華だった。 「そうじゃなくて」 と、夢華は手にした、A5サイズの紙を見せる。 「栽培部の部長さんが、ここにいるって聞いて」 「その紙、ギルドの?」 そう言った愛望の言葉に答えたのは、葉太だ。 「うん。花壇と菜園の草むしりを依頼したんだ。僕が、こういう状態だし、部員、少ないし。お礼は、栽培部で育ててるハーブ。ハーブティーにいいよ?」 「草むしりのお手伝いは、私とエミィに、任せてください!」 夢華が胸を右の拳で、「ドン!」と叩いた。
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