エミィが「麻城エミィ」として転校してきて数日。一日の授業が終わって、夢華がエミィの机に来た。 「さー、放課後! エミィ、昨日は行けなかったけど、ギルド、行こ?」 エミィはその言葉に、目をパチクリさせた。 「ギルド? ……え? ギルド? もしかして冒険者ギルド? にんげ……!」 声が大きくなりかけて、あわてて声を潜め、エミィは夢華に聞いた。 「もしかして、人間界にもあるの、冒険者ギルド?」 初耳だ。確か人間界に、それもこの国には、そのシステムはないはず。随分と昔には「口入れ屋」というものがあったそうだし、現在は「職安」という似たようなシステムがあるそうだが、昨日、いろいろ人間界のことを調べた限りでは、冒険者ギルドとは、その性質が違うようだ。 そう思っていたら、夢華が笑顔で言った。 「ギルドっていうのは、通称! 生徒会に行ったら、わかるよ?」 「生徒会?」 首を傾げると、夢華が笑顔でうなずいた。 「うん。とりあえず行ってみよ?」 そして、歩き出した。後に付いていくと、夢華が道々、説明をする。 「生徒会の本部に入るとね、入り口近くに、掲示板があって、そこに生徒の困りごとが貼ってあるんだ。でね? それを見て、自分になんとかできそう、って思ったら、その紙を生徒会の人に渡して、手続きとるの」 「へえ。なんか、かわったことするのね、この学校?」 驚いた。人間界の学校の仕組みがよくわからないが、おそらくかなり珍しいのではないだろうか? 「うん。生徒間の相互扶助(たすけあい)っていうのが、一番大きい理由だけど、自分に何が出来るのか、それを知る……サガすキッカケにもなってるんだって。あと、総合学習の一環で、自分でいろいろと勉強するキッカケとか。もちろん、そういうものばかりじゃなくて、……っていうか、そういう困りごとの方が珍しいんだけどね」 そうこうするうちに、生徒会本部に着いた。 「しつれーしまーす!」 引き戸を開け、中に入ると、生徒会長の男子、岩切哲夫(いわきり てつお)、そして副会長の眼鏡をかけて髪を一つ結びにした女子、高尾伽耶(たかお かや)がいた。哲夫は三年生、伽耶は二年生、隣の一組だ。伽耶が笑顔になる。 「あら、夢ちゃん、いらっしゃい」 「会長、お邪魔します。副会長、ギルド、見に来たんだけど」 うなずき、伽耶が入り口近くの、掲示板を見る。 「今日は……。家庭科部の、新メニューのモニターが来てるわよ?」 エミィが右手の壁を見る、縦三十センチ、横五十センチ程度のコルクボードがあり、そこに一枚の紙が、ピンで留めてあった。 夢華が近寄り、紙を読む。 「えっと、なになに……? 『家庭科部で、新メニューを考案しました。試食してくれる人を、募集します』。……何、この『30』と、その下の『正の字』って?」 夢華が、伽耶を見る。 「ああ、それは、募集人員の通し番号。三十人募集で、今は……。二十八人まで行ってるから、あと二人」 夢華がエミィを見る。 「ちょうどいいじゃん! 行こーよ、エミィ!」 「え?」 伽耶が笑顔になる。 「そう。じゃあ、この名簿に名前書いてね。部活動の実績報告にもなってるから」 「はーい!」 「……え?」 「二年二組、岸夢華、二年二組、麻城エミィ、っと。じゃあ、行こ、エミィ!」 「えと、私、引き受けるともなんとも……」 あれよあれよと話が進み、エミィは夢華に手を引かれて家庭科室へと向かった。
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