「じゃあ、あとは、こちらで引き受けるよ」 今日は日曜日で休診日だ。だから、愛望は職員用通用口から帰ることにした。 「お願いします」 愛望はお辞儀をし、ふと、気になったことを聞いた。 「さっき、ココさ……あの女の人を触診した時、首を傾げてましたよね? 何か、ありましたか?」 「え?」と言ってから、少し考え。 「愛望ちゃんだから話すけどね? 彼女、なんか、変なんだ」 「えっ!?」 全身から、イヤな汗が、ぶわあっ、と噴き出した。 「へ、変、て……?」 「彼女、骨折した箇所が何ヶ所かあるし、おそらく腱(けん)も、断裂した箇所がある。でもね、外傷がないんだ。普通、あのぐらいの受傷だと、打撲痕とか、切り傷とか、なにがしか外傷が出来るんだけど、きれいなものなんだよ、彼女の皮膚」 「そ、そそそそそそそそ、そうなんですかかか?」 汗が止まらない。 「それにね?」 と、矢風がまるで世紀の大発見をしたかのような表情になる。 「ここに搬送した時、確かに彼女の左の鎖骨は折れてた。でもね、さっき触ったら、くっつきかけてたんだ!」 また、汗が噴き出す。ダラダラと汗が流れ続け、このままでは脱水になるかも知れない。 「うう、調べたいなあ、研究したいなあ、あの驚異的な自然治癒力! 研究結果を論文にまとめられたら、僕もこの病院を、もっと大きくできるんだろうなあ!」 「あ、あの、先生? 変なこと、しないでくださいね?」 「あ、心外だなあ、愛望ちゃん。患者さんが若い女性だからって、僕が何か変なことする、って思ってる?」 「思ってます」 少なくとも、矢風の研究心に火が点いていることはわかる。 「ひどいなあ……」 打ちひしがれた矢風だが。 「……まあ、いろいろと訳ありの患者さんだろうから、詮索はしないよ。でも、彼女が元気になるまでは、ここから出す訳にはいかない。僕なりの意地だ」 と、笑顔で言った。 「……はい。お願いします。それから、あの人……コードック、さんのことも、お願いします」 ちょっと不思議そうな表情になった矢風だったが。 「……うん」 と、また笑顔になった。
ココはあれからすぐ、眠りに落ちた。体内の闇のせいもあるが、自己治癒魔法の発動にエネルギーを回すためでもある。ココの口元が動いて、治癒魔法を唱えているのがわかった。ここまでダメージを受けていたら、睡眠状態にならないと、うまくエネルギーが回らない。 診療室に、矢風が帰ってきた。 「どうだい、患者さんは?」 「今、また眠った。俺なりの素人判断だが、大丈夫だと思う」 「そうか。……コードックくん、君、昨夜(ゆうべ)、ここの前で倒れてたよね? で、介抱した時、君、言ったよね、『自分は孤独だ』って。でも」 そして、眼鏡のブリッジを押し上げ、笑顔で言った。 「ちゃんといるじゃないか、君のことを気にかけている人が。君は一人なんかじゃないよ?」 そして、さらに温かな笑みを向けてきた。
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