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作品名:ファンタシーサガ ○リキュア! 作者:ジン 竜珠

第99回  
「じゃあ、あとは、こちらで引き受けるよ」
 今日は日曜日で休診日だ。だから、愛望は職員用通用口から帰ることにした。
「お願いします」
 愛望はお辞儀をし、ふと、気になったことを聞いた。
「さっき、ココさ……あの女の人を触診した時、首を傾げてましたよね? 何か、ありましたか?」
「え?」と言ってから、少し考え。
「愛望ちゃんだから話すけどね? 彼女、なんか、変なんだ」
「えっ!?」
 全身から、イヤな汗が、ぶわあっ、と噴き出した。
「へ、変、て……?」
「彼女、骨折した箇所が何ヶ所かあるし、おそらく腱(けん)も、断裂した箇所がある。でもね、外傷がないんだ。普通、あのぐらいの受傷だと、打撲痕とか、切り傷とか、なにがしか外傷が出来るんだけど、きれいなものなんだよ、彼女の皮膚」
「そ、そそそそそそそそ、そうなんですかかか?」
 汗が止まらない。
「それにね?」
 と、矢風がまるで世紀の大発見をしたかのような表情になる。
「ここに搬送した時、確かに彼女の左の鎖骨は折れてた。でもね、さっき触ったら、くっつきかけてたんだ!」
 また、汗が噴き出す。ダラダラと汗が流れ続け、このままでは脱水になるかも知れない。
「うう、調べたいなあ、研究したいなあ、あの驚異的な自然治癒力! 研究結果を論文にまとめられたら、僕もこの病院を、もっと大きくできるんだろうなあ!」
「あ、あの、先生? 変なこと、しないでくださいね?」
「あ、心外だなあ、愛望ちゃん。患者さんが若い女性だからって、僕が何か変なことする、って思ってる?」
「思ってます」
 少なくとも、矢風の研究心に火が点いていることはわかる。
「ひどいなあ……」
 打ちひしがれた矢風だが。
「……まあ、いろいろと訳ありの患者さんだろうから、詮索はしないよ。でも、彼女が元気になるまでは、ここから出す訳にはいかない。僕なりの意地だ」
 と、笑顔で言った。
「……はい。お願いします。それから、あの人……コードック、さんのことも、お願いします」
 ちょっと不思議そうな表情になった矢風だったが。
「……うん」
 と、また笑顔になった。

 ココはあれからすぐ、眠りに落ちた。体内の闇のせいもあるが、自己治癒魔法の発動にエネルギーを回すためでもある。ココの口元が動いて、治癒魔法を唱えているのがわかった。ここまでダメージを受けていたら、睡眠状態にならないと、うまくエネルギーが回らない。
 診療室に、矢風が帰ってきた。
「どうだい、患者さんは?」
「今、また眠った。俺なりの素人判断だが、大丈夫だと思う」
「そうか。……コードックくん、君、昨夜(ゆうべ)、ここの前で倒れてたよね? で、介抱した時、君、言ったよね、『自分は孤独だ』って。でも」
 そして、眼鏡のブリッジを押し上げ、笑顔で言った。
「ちゃんといるじゃないか、君のことを気にかけている人が。君は一人なんかじゃないよ?」
 そして、さらに温かな笑みを向けてきた。


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