矢風の医院は、学校から車で三十分ほどのところだ。途中、ココが目を覚ますことはなかったし、医院に運び込まれても、目を覚まさなかった。 愛望は言った。 「脳に、重大な損傷があるんでしょうか?」 矢風が答えた。 「うーん。うちにはCTもMRIもないからね、検査は出来ない。やっぱり、大きいところへ搬送した方が」 その言葉に、愛望の胸に不安が沸き起こる。ついさっきまで戦っていた相手だというのに、今はその容態の心配をしている。自分でもおかしいと思うが、これが「医者」というものなのだろうか? だとしたら、自分は医者を志してもいい人間といえるのだろうか? そういえば、随分前に、母が言っていた。
「病気もケガも、人格を選んでいる訳じゃないの。同じように医者が相手にするのは、病気やケガであって、人格じゃない。医者は『裁く』んじゃない、『救う』のよ」
その時、コードックが耳打ちした。 「ココは闇にとらわれている。意識が戻らないのは、そのせいだ」 「そうなの?」 「ああ、理由はわからないが、今、ココの中には闇が満ちている」 ホープ・ジュエルで見た時にも、ココは闇で満ちていた。 その時。 「あれ?」 と、矢風が言った。 「どうかしましたか、先生?」 愛望が聞くと。 「うん、ちょっと……」 と、矢風は何かを考える。その時。 「……こ、こは……」 ココが意識を取り戻した。 安堵の空気が、診療室に満ちた。
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